フリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER」スタッフが、数ある作品の中から特に気になるものを選出し、作者にお話を伺う連載「フリーペーパー学」。
第6回目は、フリーペーパー『手紙暮らし』を制作する、江森みずほさん(写真左)と岸田カノさん(同右)。
Instagramの文通アカウントを通じて知り合ったという現役高校生の2人は、相互フォローする仲になってから約1年が経った今年、フリーペーパー制作を考えた江森さんが岸田さんにダイレクトメッセージ(DM)を送ったことで初めて顔を合わせたといいます。
手紙を書く習慣がなくなってしまった現代において、『手紙についてのフリーペーパーを発行する高校生』というフレーズだけでも十分興味深いですが、お話を伺えば伺うほど関心が尽きないお二人のエピソード。
ということで、伺ったお話をぜひ皆様にも読んでいただければと思います。
手紙暮らしとは?
手紙の魅力を伝え、手紙をもっと身近に感じて欲しいという想いから生まれたフリーペーパー。
2017年7月の創刊号は1000部刷って全国に配布し、現在はほぼ配布を終えた状態。第2号は11月発行予定です。
Instagramから始まりInstagramで完結する現代の文通
−−文通はいつからやっていますか?
江森:中3からやっています。小さい頃に読んだ絵本の中に、山積みになった手紙の絵があって、なぜかその絵が好きだったんです。あと切手シールで遊ぶのも好きでした。それから中学生になって「私、手紙好きかも」って自覚し始めて、手紙について調べているうちに“ポストクロッシング”という世界中の人とハガキを交換するプロジェクトに出会いました。「やってみよう」と軽い気持ちで始めたらハマっちゃって、それから続けています。
岸田:私は小学生の頃から日本の友達と文通をして、海外文通は中3からです。とにかく紙が好きで、手紙や本を読むのもそうだし、図書館に行って紙を触ったり匂いを嗅いだりするのも好きです。そこから手紙交換に広がり、日常に入ってきたという感じです。
−−Instagramを拝見する限りでも色々な国の方とやり取りされてますよね?
江森:世界中に私たちと同じように文通専用のInstagramアカウントを持っている人がいて、それがあるとお互い(文通を)やっていることがわかるので「私ともやらない?」みたいなDMが来たり、こっちから送ったりみたいな感じで繋がります。結局文通もInstagramから始まります(笑)
相手が自分のために時間をかけて書いて装飾してくれた手紙はどれも大切なもの。そんな手紙たちは綺麗に撮影し、『届いたよ!』の意を込めてInstagramに投稿します。そこまでが文通だと言います。
日本と海外の手紙文化の違い
−−文通をやっていて日本と海外で違うなって感じる点ありますか?
岸田:他の国と比べると日本で文通専用のInstagramアカウントを持っている人は本当に少ないです。
また郵便事情も国によって異なります。日本の郵便がいかに早いかというのもだんだんわかってきました。ロシアと中国はのんびりで、なくなっちゃうこともたまにあります。それも含めて面白い。そういった時間を感じることで『手紙も旅をしているんだな』って思います。
−−海外文通をすることで何か自分の中で変化はありましたか?
江森:外国に対して抵抗がなくなりましたね。例えば、アゼルバイジャンとか知らなかった国でも、そこには同じように高校生がいるし、同じような考えを持って、同じように可愛いものが好きだし、それでその人が書いたものがここにあるし。なんか繋がれない世界ってないなと思って。
岸田:文通を始める前は、ニュースで伝えられる情報だけが脳に刻まれて、他の国のことを誤解していた部分がすごくあったなと気づきました。この国の人はこうだとか、性格はどうだとか。手紙を書くって送る相手のことを考える行為でもあるので、もしかしたら手紙を書くこと自体が世界平和に繋がるんじゃないかと思ってます(笑)
江森:テロとかあっても【世界のどこか】で起こっている出来事だったのが、文通相手とか具体的に誰かのことを考えることで人ごとじゃなくなったのが大きいですね。
世界と繋がったり、身近に感じるきっかけがインターネットじゃないのが面白いですねとこぼしたところ、インターネットは逆に遠い気がします。と返してくれた言葉が印象的でした。
さつま揚げも手紙
年間100〜多い時で400通もの手紙のやり取りをしているというお二人に、印象に残るエピソードを伺ったところ江森さんがこんなお話をしてくれました。
江森:鹿児島県でさつま揚げを製造されている知人がいて、旅先からその方にハガキを送ったりするんですけど、「これが僕なりの返事です。」ってたまにさつま揚げを送ってきてくれるんです。私はそれが彼からの手紙だと思っていて、手紙って別に紙でなければいけないとか文字が書いていなければいけないとか思っていなくて、もっと自由なものだと思うんですよ。だとすると手紙の定義ってなんだろと思って。それがなんなのか私も今探してる最中なんですが。その辺については次回以降のフリーペーパーで取り上げていきたいと思ってます。
手紙とメールの違い
デジタルとアナログを使い分けることを特に意識していない、と話すお二人に改めてその違いを伺ってみました。
岸田:手紙が一番【空間がある】と思っています。封を開けた時に、自分と相手とそしてそこに書かれている内容、その世界がそこには詰まっています。LINEとかメールは日常と地続きというか。手紙の持つ空間は(LINEの性質とはまた違って)特別な気がします。
江森:手紙って感情を保存できるなと思っています。書いているその時の感情が紙に保存されてる感じ。だから時が経って自分の感情は更新されても、その手紙を読んだ先でまた感情が蘇るというか。送った相手とお互いのそれぞれの時間の中で感情を共有できるなと思います。それは【手書きだからこそ】できる事だと思います。
−−ちなみに周りの友達の間で、手紙の立ち位置ってどんな感じですか?
江森:TwitterやLINEがあるからこそ手紙を特別なものに感じて好きだとは言ってくれますが、実際に文通をやる人は少ないですね。でも、フリーペーパーを読んで感想を手紙で返してくれたり、そのまま文通を少し始めたり、私が手紙を楽しんでいる姿を見て「私も誰々に手紙書いてみたよ」とか言ってくれる人も出てきていて。私がきっかけで一通の手紙が生まれたらすごい幸せだなって思います。
伝わっていない人がいるという事がフリーペーパー製作のモチベーション
文通をするという概念がない周りの友達などへ文通の楽しさを伝えるためにどうしたらいいか模索してする中、フリーペーパーを製作している同世代との出会いが転機となりフリーペーパーをつくることを決めた江森さん。
限られた環境の中で、家族や友人・広告出稿団体の協力を得ながら、製作〜流通まで二人でこなしていったという。そんなパワーの源を伺ってみました。
江森:『手紙いいねー』で終わっちゃって、始めない人がいることがモチベーションですね。じゃあそういう彼らを始めさせるにはどうしたらいいんだろうっていう。
11月に発行予定の第2号の企画はすでに具体的に立てていますが、前の号で伝わっていないことがあるならそれが次の号のモチベーションになります。
−−親御さんはお二人の活動をどう見ていますか?
江森:温かく見守ってくれています。お金の部分でも少し協力してくれてたりしますが、協賛であれ知り合いの方からお金をもらうのはよく思っていないみたいで。知り合いの方とかにフリーペーパーをあげる時に「あ、あの協賛を募る紙抜いといたよ」とか言われました(笑)
岸田:始めた時に、「あんまり大きくしない方がいいよ」とは親に言われました。「盛り上がりすぎないようにしなさい」って。でも最近は「インタビュー行ったよー」とかそういう話を(親に)すると「素晴らしいね!」みたいな感じでだんだん理解してくれるようになりました。最近は(自分が)調子に乗らないように気をつけてます(笑)
−−調子に乗らないようにですか(笑)学校生活が忙しい中でも、手間をかけてやっているそのパワーは本当にすごいです。
江森:やらなくても高校卒業できるし、学校生活も毎日楽しいし、満足してるんですけど、嬉しいことがあるとやっててよかったなって思いますし、世界もすごく広がりますし……。
−−世界も平和になりますしね!
手紙を取り巻く環境は大きく変化しましたが、その本質は何も変わらず、誰かの事を知ろうとし、誰かに知ってもらいたいと思う事。何かを知る事に対してインスタントになった僕らはひょっとすると知らぬ間にその代償を払い続けているのかもしれません。
彼女達のお話を聞いているとそんなことを深く考えさせられました。
情報過多の中で慌ただしく日々を過ごすのも悪くありませんが、フッと一息ついて久しぶりに手紙など書いてみてはいかがでしょうか?
なお、今回のお話の鍵になった彼女達のInstagramも是非チェックしてみてください!
手紙暮らし:@tegamigurashi
江森さん:@mizuho_snailmail
岸田さん:@real_letter
こちらのインタビューのフルバージョンはONLY FREE PAPER HPにて公開中です。