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人手不足 ロボットは味方?それとも?

ひと昔前ならば「猫の手も借りたい」というところ、いまは「ロボットの手こそ借りたい」とでもいうべき状況です。企業は25年ぶりの深刻な人手不足に直面しています。この先、少子高齢化で、日本の労働人口はますます減っていきます。人に代わって、ロボットや最新テクノロジーに仕事を任せようと企業は舵を切り始めました。私たちが働く職場はどうなっていくのでしょう?
(どうなる経済“新時代”取材班)

人手不足、感じませんか?

「呼び出しボタンを押しているのに店の人が注文を取りに来ない」
「確か24時間営業の店だったはずなのに、閉まっている」

毎日の暮らしの中で、人手不足を感じることが増えていませんか?
外食業界で特に従業員の確保が難しくなっているのは、ご承知のとおりです。

牛丼店の助っ人は…

牛丼チェーンの「吉野家」は、店の機械化を急いでいます。
すでに、どんぶりにご飯を自動で盛りつける機械を全国のすべての店に導入。

ことし1月から東京・足立区の店の洗い場に、アーム型のロボットを試験導入しています。ロボットは、食器洗浄機で洗い終わったどんぶりを大きさごとに重ねる片付け作業をします。食器洗いは今、1日2時間余りかかっていますが、ロボットを改良し、30分に縮めることを目指しています。

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吉野家は、働き手の確保が今後、一層難しくなっていくと考え、いま店のあらゆる作業を機械化できないか探っています。
担当者は「将来的には作業の半分以上を機械化もしくはロボットにまかせることができるのではないかと考えている。従業員は調理やサービスに専念する環境をつくりたい」と話しています。

人手不足 衝撃のデータ

企業にとって、人手不足はどれくらい深刻なのでしょうか?

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それをはっきり示すデータが10月2日に発表されました。日銀短観という調査です。企業の人手不足感は、従業員の数が「過剰」と答えた企業の割合と「不足」と答えた企業の割合を比べた指数で判断するのですが、今回は「マイナス28」。バブル景気の余韻が残る平成4年以来、実に25年半ぶりの厳しい結果でした。

有効求人倍率という指標を見ても人手不足は鮮明です。7月の数字は、1.52倍。実に43年ぶりの結果です。わかりやすくいえば、2人働きたい人がいて、3つの企業で取り合いになっているということです。それがいま日本中で起きているのです。

技術者の代わりは…

人手不足に悩むのは、製造業も同じです。

日本製紙では24時間、紙を作り続ける巨大工場の操業を支えるメンテナンス担当の技術者が足りなくなっています。北海道白老町の工場では、ベテランの技術者が、自分の耳や手を頼りに工場設備が異音を発していないか、異常に熱くなっていないかを点検し生産ラインを守ってきました。

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しかし、定年でベテランは次々退職。あとを継ぐ若い世代を採用できず、工場の維持に必要な68人の定員を確保できなくなっています。

困った工場が頼ることにしたのが、会社が独自開発したセンサーです。センサーは設備の温度や振動を計測します。500個を超えるセンサーを工場のあちこちに置き、設備をモニター。異常を感知すればすぐに警告を発します。

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機械でできることは機械に任せていく。そうしなければ、人手不足で工場はいずれ維持できなくなる。会社では今年度、数億円をかけて国内の12工場すべてにセンサーを設置することにしました。

会社の経営企画部長、杉野光広さんは「人に頼らずにオペレーションしていく技術開発が必要になっている」と、人の代わりをつとめる装置が工場維持の切り札になってきたことを率直に話してくれました。

作業を指示するのは…

さらに、従業員に仕事を指示し、作業を管理して生産性を高める最先端のシステムさえ登場しています。

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佐賀県鳥栖市にあるパナソニックの工場では、従業員がメガネ型のウエアラブル端末を身につけて設備の点検作業に当たります。メガネには点検項目が映し出され、イヤホンから作業の指示が伝えられます。従業員はその指示にしたがって点検を進めます。

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さらに、工場の天井には移動式のカメラが設置され、従業員の作業を見つめます。あるラインで作業に遅れが出て稼働率が落ちるとディスプレーが赤く点灯し、警告を出します。すると天井のカメラがラインの上に移動。従業員の様子を自動的に記録して原因を分析し、作業の効率化につなげます。

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佐賀工場の南里太郎工場長は「人に頼ってばかりではイイもの、安定したモノ作りはできません。これからこういう新しい技術や、人工知能(AI)が、日本のモノ作りにひろがっていくと思います」と話していました。

テクノロジーが仕事を奪う?

こう取材してきて思い出したのが、野村総合研究所とイギリスのオックスフォード大学の研究者が共同で行った分析です。

スーパーの店員や、警備員、銀行の窓口、それに電子部品の製造係やカメラの組み立て、工場の事務員…10年から20年先には、235種類の職業が機械やAIで代替できる確率が高い。日本で働く人の49%が機械やAIに置き換え可能だ、という分析です。

発表されたのは2年前ですが、当時、自分の仕事は将来なくなってしまう?と、不安に感じた人も多かったと思います。

しかし取材を通じて、それは10年先の話ではないのでは。人手不足が企業を突き動かす形で、すでに進行中の現実ではないか。部分的には、確実に舵が切られたと感じています。

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大和総研のシニアエコノミスト、長内智さんは「人手不足クライシスのような状況に迫られて、機械に置き換えられる仕事はどんどん置き換わっていくことになると思う」と予測。「そうした中で、重要なのは、より付加価値の高い仕事で貢献すること」。つまり機械やAIができない仕事は何か考え、そこに人材を投じていくことだと指摘します。

機械やAIは、私たちの暮らしを楽にして、生活を豊かにする道具として次々開発されてきました。そして日々、刻一刻と進化し、家庭に職場に確実に広がってきています。機械やAIに囲まれて、私たちは今後どう働き、どんな技術を身につけていったらいいのか考える時期になっています。

バブル景気真っただ中から、金融危機、リーマンショック、IT化などを経て暮らしや仕事が大きく変わった平成時代の経済。30年近くがたち、平成の始まりには想像もしていなかった問題に日本は直面しています。「どうなる?経済新時代」の取材班は、そうした課題や疑問を取材していきます。
(どうなる経済“新時代”取材班)

影圭太
経済部記者
影圭太
甲木智和
経済部記者
甲木智和
中島圭介
経済部記者
中島圭介
山田裕規
経済部記者
山田裕規