小池百合子の“カイロ大首席”は嘘? イスラーム学者・中田考が語る「彼女は中東人」
昨年の都知事選出馬、豊洲市場問題、そしてこの度の「希望の党」旗上げと、小池百合子都知事(65)に注目が高まる昨今。彼女について論じる評者たちは多いが、この人の“小池観”とはいかなるものか。著名なイスラーム学者で、同志社大学客員教授の中田考氏(57)である。
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中田考といえば、2014年の“イスラーム国への斡旋騒動”で市井に名を知られることになった人物。そんな中田氏は、小池知事が1976年に卒業したエジプト「カイロ大学」の後輩にあたるのだ。
小池氏は、ニュースキャスター時代の82年に上梓した『振り袖、ピラミッドを登る』(講談社)で、進学先にカイロ大を選んだ理由をこう説明している。
〈どうせ勉強するならば、ありきたりの言葉より、将来性のある言葉を学んだほうがいい。それに石油の取り引きをしていた父は、私が小学生の頃から「1980年代はアラブが世界の中心だぞ」と繰り返し口にしていた〉
カイロ大はアラブ諸国からの学生らが集まるエジプトの最高学府である。ここに86年から92年にかけて在学し、博士号を取得した中田氏に当時を回想してもらうと、
「小池さんは文学部の社会学科で、私は哲学科です。世代も上ですから、小池さんと学生生活が重なってはいません。彼女の存在を知ったのも『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)のキャスターになられてからで、直接の面識もないんです。ただ、カイロにあった小池さんのお父さんのお店には月1回ほど行っていましたね」
小池氏の父・勇二郎氏
“小池さんのお父さんのお店”とは、小池氏の父・勇二郎氏が営んでいた日本料理店「なにわ」だ。
「白いご飯やみそ汁と言った家庭的な料理を出し、お寿司もありましたかね。エジプトにはジャポニカ米があるんですよ。当初は2、3階建ての店舗でしたが、途中で現地のヒルトンホテル内に移転したと記憶しています。料理はお世辞にも美味しいとはいえませんでしたが、当時カイロには日本料理屋が3軒ほどしかなかった。現地の方々が利用するには高いお店で、日本人の商社マンがよく使っていましたね。私は日本の駐在員にアラビア語を教える家庭教師をやっていたので、たまには顔を出せました」
勇二郎氏は既に亡くなっているが、料理店を営む前には石油卸売の会社を経営しており、中東にもたびたび足を運んでいたと見られる。
「勇二郎さんは気さくな人でした。野球が好きで、在エジプト日本人の野球大会があると顔を出していました。私は興味がなかったので参加しませんでしたが……。私に勇二郎さんを紹介してくれたのは、斉藤積平さんという、戦前にアフガニスタンの日本大使館で外交官をしていた、日本と中東をつなぐドンのような人。戦後は石油絡みの企業にいて、勇二郎さんとのつながりはここにあったのでしょう。勇二郎さんと斉藤さんは、店で“今の日本の政治はつまらん”とか“中曽根には志がない”とか、政治の話をしていましたねえ」
「小池さんは中東人」
話を小池氏にもどそう。先に紹介した彼女の著作のプロフィールには〈日本人として2人目、女性では初めて、しかも首席で(カイロ大を)卒業〉とある。ところが、
「私より先にカイロ大に留学した日本人は、小池さんを含め4人がいたと記憶していますね。首席というのはさすがに嘘ですよ。小池さんはアラビア語が喋れず、現地で勉強してからカイロ大に入学したくらいですから。ちなみに私の成績は、4段階評価で上から2番目でした」
思わぬところで小池氏の“詐称疑惑”が持ち上がったが、それはさておき、中田氏は彼女を考える上で、カイロ大学というアラブ・イスラーム世界の出身者である点が重要だと説く。
「中東人の発言というのは、すべて“ポジショントーク”なんです。小池さんはそれを日本に持ち込んだ人。言ってしまえば、小池さんは中東人なんですよ。本来“ポジショントーク”というのは経済用語らしいですが、この場合は自分に有利な話ばかりをするという意味です。そこは彼の地ゆえの争いの多さ、一言でも失言すれば死んでしまう状況が育んだ気質です。たとえば、“イスラーム国について現地の声を聞きたい”とテレビ局の人間が来れば、現地の人はイスラーム国の悪口をいう。その場ではインタビューの意図を察し、話すわけです。でもこれはマスコミを前にしたときのポジショントークであって、本音ではない。そもそも彼らに本音なんてないんです。日本人の感覚からすれば理解しがたいかもしれませんが……」
小池氏のポジショントーク
“ポジショントーク”が飛び交うカイロ大学で4年間を過ごし、また“ポジショントーク”の人間を相手にビジネスをしていた父の影響もあったのだろう。日本新党から新進党、そして自民党と“ポジション”をコロコロ変えてきた小池氏は、その都度“トーク”も使い分けてきた。新進党に合流した後には、
〈今の時代じゃないなと思う〉(「サンデー毎日」95年12月31日号)
と、古巣の代表だった細川護煕氏を評し、
〈小沢党首にはパラダイムを変える力があります。ああいう政治家が、日本に100人いればいいんです〉(「AERA」99年11月29日号)
なんて小沢氏をヨイショする。ところが自民党に転身すると、
〈小泉氏の「明」に対し、小沢氏の「暗」。言い換えれば、外へ向うエネルギーの大きい小泉氏に対して、小沢氏はひたすら内向きのエネルギーが充満する〉(「文藝春秋」08年1月号)
こんな体である。コロコロ変わるその発言のほどは「週刊新潮」10月12日号でも紹介したが、これも中田氏が解説するところの「本音のない言葉」ということ? “中東人・小池百合子”観は、現状にも通用するのか。
「私はテレビも見ませんし、新聞も読まないので詳しくは知りませんが、総理を目指すのかと問われた小池さんは『インシャラー』とアラビア語で答えていたそうですね。これは“神が望めば”という意味で、自分の考えは脇に置いて返答できる、便利な言葉なんです。やはり中東ですよ……。大学の先輩ということで、小池さんには親近感を抱いているのですけどね」
週刊新潮WEB取材班
2017年10月12日 掲載