森記念財団都市戦略研究所(東京・港)は12日、2017年版の「世界の都市総合ランキング」を発表した。昨年初めて3位に浮上した東京は「交通・アクセス」や「文化・交流」の分野でスコアを伸ばし、2位のニューヨークとの差をさらに縮めた。1位のロンドンが文化・交流などで総合スコアを大きく伸ばしたほか、シンガポールやアムステルダム、ベルリンなども勢いを維持しており、アジアと欧州の都市の健闘が目立つ結果となった。
■インバウンド整備が功を奏す
ランキングは経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野から都市の総合力を評価。国内総生産(GDP)や研究者数、国際コンベンション開催件数など合計70指標を使って算出する。08年から実施し、17年は44都市を対象に調査した。
前年にパリを抜いて3位になった東京は今年、劇場・コンサートホール数や海外からの訪問者数などの文化・交流、国際線直行便就航都市数や通勤・通学の利便性など交通・アクセスの分野でスコアを伸ばした。20年の東京オリンピック開催を控え、インバウンド(訪日外国人旅行客)の受け入れ体制を整えていることなどが寄与している。
東京の総合スコアは1354.7で、08年のリーマン・ショック以来の停滞圏から抜け出せていないニューヨークとの差は前年の46ポイントから今年は31ポイントに縮めた。森記念財団理事の市川宏雄・明治大学教授は「今後1~2年で両都市の競争は相当に激化するだろう」とし、順位の逆転もありうるとの見方を示した。
一方で東京が強かった経済分野は、為替の円安のほか、GDP成長率や経済自由度の低さ、法人税率の高さなどが響いて前年の1位から今年は4位に転落した。居住分野についても女性の社会進出の遅れなど「社会の自由度・公平さ・平等さ」などの低さが響いて前年の6位から今年は14位に落とした。
東京はスコアを伸ばした文化・交流の分野でもロンドンやアジアの他の主要都市に比べて五つ星ホテルなどのハイクラスホテルが少ないことも今後の課題となっている。
■5位のシンガポール、4位パリに接近
都市名 | 総合スコア | |
1位 | ロンドン(1位) | 1560.1 |
2位 | ニューヨーク(2位) | 1386.3 |
3位 | 東京(3位) | 1354.7 |
4位 | パリ(4位) | 1282.1 |
5位 | シンガポール(5位) | 1224.6 |
6位 | ソウル(6位) | 1143.5 |
7位 | アムステルダム(8位) | 1129.8 |
8位 | ベルリン(9位) | 1107.8 |
9位 | 香港(7位) | 1090.1 |
10位 | シドニー(14位) | 1078.0 |
(注)()は昨年の順位
アジアの都市ではシンガポールが5位を維持し、4位のパリとの差を縮めている。浮遊粒子状物質(SPM)濃度の低さなど環境面で引き続き高いスコアをみせ、経済や研究・開発などでも高水準で「とてもバランスが良い都市といえる」(市川教授)。
6位のソウルや33位のバンコクは国際コンベンションの開催件数でスコアを伸ばすなど、文化・交流面での改善が目立つ結果となった。バンコクは美術館・博物館数、海外からの訪問者数の増加も寄与している。ソウルは特許登録数や研究者数など研究・開発分野でも高いスコアを記録した。
香港はGDP成長率の鈍化などから前年の7位から今年は9位に順位を落としたが、交通・アクセスが引き続き高いスコアを見せている。13位の北京や15位の上海などの中国本土の都市も経済分野がけん引してスコアを伸ばしているが、環境面の順位がそれぞれ43位、41位と最下位に近い水準で、足を引っ張る結果が続いている。
欧州の都市ではロンドンが食事の魅力や海外からの訪問者数など文化・交流の分野がけん引し、1位の座を固めている。現時点では欧州連合(EU)離脱表明の影響は表面化していない。ICT環境が充実したアムステルダム、ベルリンなど欧州の主要都市は居住分野のスコアが高く、高順位を維持している。
(加藤宏一)