2017年10月12日
ドラゴンクエスト11 シナリオ面の感想
シナリオ面についても,バトル面の評価と同じで,基本的にネタバレは避けている。また,例によって6・7・8とは盛んに比較しており,9・10にはほとんど触れていない。
ドラクエ11は,シナリオ面での世間的な評価も高い。これだけシナリオ面で高評価なのはドラクエ5以来じゃないかと思う。自分の考える理由を2つ挙げる。
ドラクエ6はよく言われるように本筋(メインストーリー)の存在がわかりにくいとされる。ドラクエ7はいかんせん長い割に本筋の割合が小さく,特に中盤までは無きに等しく,ほとんどがドラクエ特有の「お使い」である。みんな大好きレブレサックを含めて個々のお使いはおもしろいものの,それゆえに評価が難しい。この点で,わかりにくいか無きに等しいかの違いはあれど,6・7のシナリオは同型と言える。ドラクエ8はつまらなくはないという程度で,6・7に比べるとシナリオが議論されること自体が少ない。ただし,お使いっぷりがひどさは6・7並で,その一方で,6・7よりも序盤から明確な本筋の目標が設定されているだけに,余計に「お使い」感が強かった。ドルマゲスを追うついでで,使いっ走りさせすぎだろう。9・10もあまりシナリオで議論されているのを見たことがないが,これはプレイ人口の問題もあるかもしれないし,私がプレイしていないので評価は避けたい。(ところで,お使いの決着は大体人情噺になり,しかも解決すると主人公一行が次の町に行ってしまうので,ドラクエのシナリオが「水戸黄門的」と言われる理由にもなっている。なお,「水戸黄門的」なのは堀井雄二が自覚してやっているというのは何かのインタビューで読んだ。そこから逆説的にドラクエがお使いゲーになる理由もわかるところである。)
閑話休題。本作の高評価の理由は,バトル面同様に,この辺の反省が活かされているのだと思う。相変わらずお使いは多いものの,7と8の中間という感じで,本筋の大目標は立てられるもののそれがさして縁遠くなく,挟まれるお使いは2つか3つというのが良い塩梅であった。結果的に7のように「もうお使いを10個も済ましているけど,島が復活するだけで,結局これって何なんだろう……」というような虚無感にふと襲われることは少なく(無いとはいえない),一方で8のように「このイベントって結局ドルマゲスと何が関係あるんだっけ?」となることもなかった。挟まれるお使いの数が3つ程度までなら,プレイヤーは本筋を忘れにくい,というのが(ナンバリング11個めの30周年にもなってやっと)わかってきたということなのだろうか。雑多な「人情噺系お使い」で話が進むという伝統を捨てないまま,可能な限り本筋も大事にしようとしたバランス感がドラクエ11の魅力ではないかと思う。
その上で言えば,本筋は追いやすく,十分にドラマティックであった。最初の「なんで勇者が悪魔の子と呼ばれて逃亡する羽目になるの?」というところから始まり,クリア後のどんでん返しと裏ボス決戦まで飽きさせないつくり。お使いイベントの狭間で埋もれないだけの魅力があったと言えよう。加えて,本当にどうでもいいような「お使い」イベントは,本作は「クエスト」という名前の完全なサブストーリー扱いにしてしまっていて,面倒ならやらなくていい扱いになっているのも大きい。
2点目は,今作は徹底して「勇者」という存在にスポットが当てられている点で,これはここまでのドラクエの反省というよりも,意図的な反転と言えよう。ドラクエは3まで(ロトシリーズ)は勇者が特別な存在であったが,4は最終章になってやっと登場,5はご存じの通り主人公は勇者の父親,6・7は誰でもなれるただの職業となってしまい(ただし7は誰でもなれることに意味があった),どんどん地位が低下した。8では一応主人公が唯一の勇者という状態に戻ったものの,ストーリー上特別強い意味を持ったわけでもなかった(9・10は例によって知らないので省略)。そこへ行くと,本作は最初から裏ボス撃破に至るまで,3以前のドラクエかそれ以上に「勇者」が強い意味を持つ。
ドラクエ11の主人公はストーリー上,明確に終始「勇者」として扱われ,勇者とはいかなる存在なのかが問われ続けることになる。それこそ最初は「悪魔の子」から始まって,中盤以降にいかなる能力を持ち,いかなる運命を背負った者なのかが次第に明らかになっていく。本作の主人公はドラクエにしては珍しく個性が強く,「はい」「いいえ」以外のセリフがないことを考えれば異常なほどにキャラが“濃い”。それもそのはずで,最初は「左手の甲に特徴的なアザがあるから,お前は勇者」と言われて故郷の村を出発し,最初の城に着いて王様に会えば「悪魔の子」と罵られ,極めて流れに乗った人生を歩んでいた。しかし,中盤以降は明確に勇者としてのアイデンティティを徐々に確立していき,極めて自然な成り行きで「世界を救うべく旅をする者」になる決意を固める。本作は主人公の成長譚になっているので,どうしたってキャラは立つのである。こう要約して書いてしまうと陳腐なストーリーだけに,主人公に,そしてプレイヤーに着実に,次第に「世界を救うという決意」をさせる流れがあまりにも自然であるのが,本作のシナリオ面の最大の美点ではないかと思う。表のラスボス撃破付近の主人公は,本当にかっこいいので必見。グラの進化を上手く使ったところではないかと。
最後に,世評が分かれているポイントについて触れておく。本作のサブタイトル「過ぎ去りし時を求めて」は,シナリオ上のテーマである「後悔先に立たず」という意味合いもあるし,もう一つ本作が10までのドラクエの徹底的なセルフオマージュになっているという意味合いもある。世評が割れているのは後者で,あまりにもセルフオマージュが徹底的かつ露骨すぎて過剰演出になっているという批判が少なからずある。
上手い部分もある。たとえば本作に出てくる「ホムラの里」という町はどう見たってドラクエ3のジパングであり,BGMからして同じである。近くには活火山のダンジョンもある。にもかかわらず,最初に訪れた時には竜も出てこなければ生贄の話題もなく,そもそも村長がストーリーに絡まない。しかし,二度目訪れた時にはこれらの話題が出てくる。じゃあ,ドラクエ3の時と同じ展開になるかと予測していると,ちょっと違ったオチになる。こういう,完全に同じというわけではなくて,オールドファンの予測が裏切られる展開は楽しい。同じような事例としてドラクエ6から持ってこられた人魚のイベントがあるので,未プレイの方はお楽しみに。あるいは,(軽微なネタバレ)ベロニカの最強固有装備がドラクエ7のフォズ神官の衣装になるというのは,フォズが部分的にでも再登場するとは全く思っていなかったところであり,しかも登場時間がそう長くないながらそのかわいさから強いインパクトを残したキャラであるので,おもしろい趣向だったと言える。
一方で,丸々そのまま持ってきた感じのものも多く,特にBGMは3~8(9・10もあるのだと思う)から満遍なく持ってきた感じで,全体的に聞き覚えがある。ありすぎて「これ,新曲だっけ……?」という疑念すら抱くようになってしまった。しかも終盤になればなるほどストーリーや装備品などでセルフオマージュが増えていくので,満腹感を通り越してしまったのは否めない。さすがにもっとオリジナル要素が見たかった。とはいえそのセルフオマージュを見て「悔しいけど感じちゃう(ビクンビクン」状態だった自分もいて,思い出の暴力に殴り倒された感覚である。ということで,私としても過剰セルフオマージュについては,泣かされといてなんだけども,あそこまでは必要なかったのではないか。
とまあ,これ以外にもボウガン要らないだとかロードが長すぎるだとか細かいところに文句が無いわけではないのだけれど,バトル面・シナリオ面その他総評するに,ドラクエシリーズの中でも屈指の大傑作と言って差し支えない。皆やろう。Nintendo Switch版待ちでもいいから。ちなみに,表のラスボスクリアまでに50~60時間,裏ボス撃破までに80~100時間が目安です。
ドラクエ11は,シナリオ面での世間的な評価も高い。これだけシナリオ面で高評価なのはドラクエ5以来じゃないかと思う。自分の考える理由を2つ挙げる。
ドラクエ6はよく言われるように本筋(メインストーリー)の存在がわかりにくいとされる。ドラクエ7はいかんせん長い割に本筋の割合が小さく,特に中盤までは無きに等しく,ほとんどがドラクエ特有の「お使い」である。みんな大好きレブレサックを含めて個々のお使いはおもしろいものの,それゆえに評価が難しい。この点で,わかりにくいか無きに等しいかの違いはあれど,6・7のシナリオは同型と言える。ドラクエ8はつまらなくはないという程度で,6・7に比べるとシナリオが議論されること自体が少ない。ただし,お使いっぷりがひどさは6・7並で,その一方で,6・7よりも序盤から明確な本筋の目標が設定されているだけに,余計に「お使い」感が強かった。ドルマゲスを追うついでで,使いっ走りさせすぎだろう。9・10もあまりシナリオで議論されているのを見たことがないが,これはプレイ人口の問題もあるかもしれないし,私がプレイしていないので評価は避けたい。(ところで,お使いの決着は大体人情噺になり,しかも解決すると主人公一行が次の町に行ってしまうので,ドラクエのシナリオが「水戸黄門的」と言われる理由にもなっている。なお,「水戸黄門的」なのは堀井雄二が自覚してやっているというのは何かのインタビューで読んだ。そこから逆説的にドラクエがお使いゲーになる理由もわかるところである。)
閑話休題。本作の高評価の理由は,バトル面同様に,この辺の反省が活かされているのだと思う。相変わらずお使いは多いものの,7と8の中間という感じで,本筋の大目標は立てられるもののそれがさして縁遠くなく,挟まれるお使いは2つか3つというのが良い塩梅であった。結果的に7のように「もうお使いを10個も済ましているけど,島が復活するだけで,結局これって何なんだろう……」というような虚無感にふと襲われることは少なく(無いとはいえない),一方で8のように「このイベントって結局ドルマゲスと何が関係あるんだっけ?」となることもなかった。挟まれるお使いの数が3つ程度までなら,プレイヤーは本筋を忘れにくい,というのが(ナンバリング11個めの30周年にもなってやっと)わかってきたということなのだろうか。雑多な「人情噺系お使い」で話が進むという伝統を捨てないまま,可能な限り本筋も大事にしようとしたバランス感がドラクエ11の魅力ではないかと思う。
その上で言えば,本筋は追いやすく,十分にドラマティックであった。最初の「なんで勇者が悪魔の子と呼ばれて逃亡する羽目になるの?」というところから始まり,クリア後のどんでん返しと裏ボス決戦まで飽きさせないつくり。お使いイベントの狭間で埋もれないだけの魅力があったと言えよう。加えて,本当にどうでもいいような「お使い」イベントは,本作は「クエスト」という名前の完全なサブストーリー扱いにしてしまっていて,面倒ならやらなくていい扱いになっているのも大きい。
2点目は,今作は徹底して「勇者」という存在にスポットが当てられている点で,これはここまでのドラクエの反省というよりも,意図的な反転と言えよう。ドラクエは3まで(ロトシリーズ)は勇者が特別な存在であったが,4は最終章になってやっと登場,5はご存じの通り主人公は勇者の父親,6・7は誰でもなれるただの職業となってしまい(ただし7は誰でもなれることに意味があった),どんどん地位が低下した。8では一応主人公が唯一の勇者という状態に戻ったものの,ストーリー上特別強い意味を持ったわけでもなかった(9・10は例によって知らないので省略)。そこへ行くと,本作は最初から裏ボス撃破に至るまで,3以前のドラクエかそれ以上に「勇者」が強い意味を持つ。
ドラクエ11の主人公はストーリー上,明確に終始「勇者」として扱われ,勇者とはいかなる存在なのかが問われ続けることになる。それこそ最初は「悪魔の子」から始まって,中盤以降にいかなる能力を持ち,いかなる運命を背負った者なのかが次第に明らかになっていく。本作の主人公はドラクエにしては珍しく個性が強く,「はい」「いいえ」以外のセリフがないことを考えれば異常なほどにキャラが“濃い”。それもそのはずで,最初は「左手の甲に特徴的なアザがあるから,お前は勇者」と言われて故郷の村を出発し,最初の城に着いて王様に会えば「悪魔の子」と罵られ,極めて流れに乗った人生を歩んでいた。しかし,中盤以降は明確に勇者としてのアイデンティティを徐々に確立していき,極めて自然な成り行きで「世界を救うべく旅をする者」になる決意を固める。本作は主人公の成長譚になっているので,どうしたってキャラは立つのである。こう要約して書いてしまうと陳腐なストーリーだけに,主人公に,そしてプレイヤーに着実に,次第に「世界を救うという決意」をさせる流れがあまりにも自然であるのが,本作のシナリオ面の最大の美点ではないかと思う。表のラスボス撃破付近の主人公は,本当にかっこいいので必見。グラの進化を上手く使ったところではないかと。
最後に,世評が分かれているポイントについて触れておく。本作のサブタイトル「過ぎ去りし時を求めて」は,シナリオ上のテーマである「後悔先に立たず」という意味合いもあるし,もう一つ本作が10までのドラクエの徹底的なセルフオマージュになっているという意味合いもある。世評が割れているのは後者で,あまりにもセルフオマージュが徹底的かつ露骨すぎて過剰演出になっているという批判が少なからずある。
上手い部分もある。たとえば本作に出てくる「ホムラの里」という町はどう見たってドラクエ3のジパングであり,BGMからして同じである。近くには活火山のダンジョンもある。にもかかわらず,最初に訪れた時には竜も出てこなければ生贄の話題もなく,そもそも村長がストーリーに絡まない。しかし,二度目訪れた時にはこれらの話題が出てくる。じゃあ,ドラクエ3の時と同じ展開になるかと予測していると,ちょっと違ったオチになる。こういう,完全に同じというわけではなくて,オールドファンの予測が裏切られる展開は楽しい。同じような事例としてドラクエ6から持ってこられた人魚のイベントがあるので,未プレイの方はお楽しみに。あるいは,(軽微なネタバレ)ベロニカの最強固有装備がドラクエ7のフォズ神官の衣装になるというのは,フォズが部分的にでも再登場するとは全く思っていなかったところであり,しかも登場時間がそう長くないながらそのかわいさから強いインパクトを残したキャラであるので,おもしろい趣向だったと言える。
一方で,丸々そのまま持ってきた感じのものも多く,特にBGMは3~8(9・10もあるのだと思う)から満遍なく持ってきた感じで,全体的に聞き覚えがある。ありすぎて「これ,新曲だっけ……?」という疑念すら抱くようになってしまった。しかも終盤になればなるほどストーリーや装備品などでセルフオマージュが増えていくので,満腹感を通り越してしまったのは否めない。さすがにもっとオリジナル要素が見たかった。とはいえそのセルフオマージュを見て「悔しいけど感じちゃう(ビクンビクン」状態だった自分もいて,思い出の暴力に殴り倒された感覚である。ということで,私としても過剰セルフオマージュについては,泣かされといてなんだけども,あそこまでは必要なかったのではないか。
とまあ,これ以外にもボウガン要らないだとかロードが長すぎるだとか細かいところに文句が無いわけではないのだけれど,バトル面・シナリオ面その他総評するに,ドラクエシリーズの中でも屈指の大傑作と言って差し支えない。皆やろう。Nintendo Switch版待ちでもいいから。ちなみに,表のラスボスクリアまでに50~60時間,裏ボス撃破までに80~100時間が目安です。
Posted by dg_law at 04:29│Comments(0)