最新の平成28年国民生活基礎調査(所得表第025表)によると、シングルマザー(母子世帯)の年収分布(※年収の定義)は、次のような状況です。
このグラフにおける調査対象は、1年間を通じて勤務した女性給与所得者(児童あり)が対象で、対象を不就業等のシングルマザー家庭まで含めると、平均年収は181万円にまで下がります。
さらに、次のようなデータも存在します。
労働政策研究・研修機構(JIPT)が行った第3回子育て世帯全国調査によると、子供を持つシングルマザー世帯の実に55.8%が「貧困」と定義される生活を送っているというのです。
日本では「貧困(相対的貧困)」を、等価可処分所得の中央値の半分(およそ120万円)未満と定義されていますが、簡単に表現するならば「生活保護基準相当以下での暮らし」。つまり、日本が定める健康で文化的な最低限度の生活を送ることが困難な家庭と表現できます。
こうした大変苦しい生活環境のもとで生活を余儀なくされるシングルマザー世帯が半数以上いるというわけです。
また、同調査では7割近いシングルマザー世帯が「生活が苦しい」と回答している実態も浮き彫りになっています。
世間の風潮としては、「下流老人」や「老後破たん」といった老後にスポットを当てた暮らしは様々なメディアにも取り上げられるようになりましたが、シングルマザーの苦しい生活環境にはあまり目が向いていない現状があるようにも感じます。
そこで、本日は、シングルマザーとして生計を立て暮らしていくためには、どのような準備が必要なのかについて、様々な数字を扱いながら読み解いていきたいと思います。
シングルマザーに必要な準備
ここでは、シングルマザーとして暮らしていくに当たり、どのような準備をしていくべきかをさぐるため、次のような設定のもと、シングルマザーの生活実態をシミュレーションしていくことにします。
年収は母子世帯の平均年収を想定し、シングルマザーとして子供を育てる暮らしを考えていくことにします。
シングルマザー支援制度の一覧
まず、シングルマザーの暮らしを考えていくうえで、2017年現在、上記の状況に置かれているシングルマザー世帯が受給できる国や地方自治体の支援制度をまとめていくことにします。
地方自治体による支援制度は、住む地域により若干異なりますが主な制度をピックアップしてみます。
児童手当(全世帯が受給)
児童手当はシングルマザーに限らず支給される制度ですが、当然シングルマザー世帯も受給することができます。支給金額は、年収に寄らず一律で次の通りです。
児童扶養手当
児童扶養手当は、ひとり親で子育てを行っている家庭を支援する制度です。
手当は、子供が18歳になった年度末(3月31日)まで支給されます。
こちらの手当は児童手当とは違い、置かれている世帯状況や所得状況により、金額が大きく異なってきます。ここでは、およその支給額を提示しておきます。
子供1人の場合
子供2人の場合
児童扶養手当については、【2016年版】児童扶養手当と所得制限を面倒な計算なしに一発確認! - ふたりぼっち~未婚シングルマザーのHappyブログ~こちらの記事が非常に分かりやすいので、詳細を知りたい方は参考にしてみてください。
児童育成手当
児童育成手当は、自治体によって名称が異なる手当になります。児童育成手当は、東京都での手当名になります。
手当ての内容としては、ひとり親世帯に対し、一律で子供1人につき13,500円が受給できる制度です。こちらも子供が18歳になった年度末まで支給できます。
ただし、児童育成手当の受給に当たっては、所得制限(子供1人の場合、およそ年収400万円まで受給が可能)があるので、各自治体における受給条件の確認が必要です。
教育費補助制度
子供の教育費を補助する各種制度は、シングルマザー(ひとり親)世帯ではなく、低所得世帯を対象にした教育費補助制度となっています。
保育料への補助
年収270万円世帯では、公・私立に限らず3~5歳の幼稚園に通う保育料は月6,000円程度に抑えることができます。
ただし、これは標準保育時間の金額ですので、仕事の都合等で標準保育時間を超えて預けたり、幼稚園で別途実施する教育費等は支払わなければいけません。
小・中学校への補助
小・中学校は義務教育のため、基本的に教育費がかかりません。
しかし、教育費以外にも学校用品の購入や修学旅行積立金、給食費が発生するため、完全に無料というわけではありません。
そこで、こうした就学にかかる費用に対し、母子家庭援助制度が存在しているのですが、制度利用は生活保護を受給している方に限られているのが現状で、ここで想定している年収270万円世帯では制度利用が難しい状況です。
高等学校就学支援金制度
高等学校就学支援金は、公立高校の授業料相当の支援金が年収に応じ、学校側に支給され、その差し引きされた金額が各家庭に請求される仕組みになっています。
また、シングルマザー世帯に限らず、低所得世帯に向けた授業料の減免も行われており、児童扶養手当の受給者は、高等学校就学支援金と減免措置を合わせることで、私立高校に通ったとしても、授業料はほぼ無料になります。
ただし、高校では授業料のみを支払えばいいのかというとそうではありません。
授業料のほかに、修学旅行の積立て金や教材費などで月々15,000円程度の納付が必要になります。さらに、部活動などでは部費を徴収しているケースも多く、そうした負担は実費として支払う必要があるわけです。
大学・専門学校への補助
最も教育費が必要になる高校卒業後の進路に対する教育費補助ですが、今現在の日本においては、母子家庭や低年収であることが受給資格となる給付型奨学金は存在していません。
ある程度の学力や高校での成績状況が伴えば、給付型奨学金を受けられる可能性はあります。
また、国立大学では、世帯収入に応じた授業料の全額・半額免除制度が存在しているのですが、世帯年収270万円(子ども1人)では授業料半額免除にすら該当しない可能性があります。(文部科学省HPより)
学力が高ければ給付型奨学金を受けることができる可能性がありますが、絶対受給できるという保障はないため、自力での資金準備をしておく必要がありそうです。
シングルマザー支援制度まとめ
以上、紹介した年収270万円のシングルマザー世帯が受給できる支援制度をまとめてみます。
✔ 児童手当:月額1万~1万5000円
✔ 児童扶養手当:月額2万円程度
✔ 児童育成手当:月額1万3500円
✔ 保育料:月額6,000円に
✔ 高校授業料:無料に
シングルマザーに必要な生活費
次に教育費以外に必要になる、生活費の実態を調査から見てみることにします。
統計局/母子世帯の家計(2016年)によると、シングルマザー(母子家庭)の1か月平均消費支出は19万1,309円です。
この生活費19万1,309円は
- 世帯人数…2.62人
- 持ち家率…31.4%
- 世帯主年齢…38歳
という状況のもと、母子家庭が1か月間に支出した生活支出の合計となっています。
この1か月間の生活費には、約1万円の教育費が含まれた金額となっていますが、ここでは、教育費は支給される手当等を考慮しながら、別途詳細なシミュレーションを行うため、教育費1万円を差し引いた18万円をシングルマザーに必要な生活費として計上していきます。
シングルマザーの生活実態
以上の「支援制度」・「生活費」をもとに、「子供の教育費」を考慮しながら、シングルマザーに必要な貯金額をシミュレーションしていくことにします。
シミュレーションを行うに当たり、想定するシングルマザーの生活状況をまとめておきます。
✔ 年齢 28歳と想定
✔ 年収 270万円
✔ 年収上昇なし
✔ 子供 1人(1歳と想定)
✔ 生活費 18万円
上でまとめたシングルマザー世帯が受給できる制度は次のようにシミュレーションに反映させていきます。
それでは以下で、シングルマザー世帯が可能な暮らしを考察していくことにします。
子供が大学に通うケース
幼稚園から高校まですべて公立で過ごし、教育費は年間1万5,000円~2万円と必要最低限です。
高校卒業後は、自宅から私立大学(文系)へ進学することをシミュレーションした結果がこちらになります。
このシミュレーションを見る限り、子供が大学進学する以前に家計としてはほぼ破たんしていることが見えてきます。
ということで、子供には高校卒業後に働いてもらうケースをシミュレーションしてみたいと思います。
子供が高校卒業後、働きに出る
子供が高校卒業後すぐに働きに出たと想定します。その場合の貯蓄推移グラフは次のようになります。
赤グラフの落ち込みが減ったものの、やはり家計は破たんした状態になっています。
こうした苦しい家計状況であれば、子供が働きに出ることで、世帯としての収入は増えるため、子供に生活費を家計に入れてもらうということも考えなくてはいけないのかもしれません。仮に、子供に毎月5万円ずつ生活費を入れてもらうと、貯蓄推移は次のようになります。
高卒の給料は手取りで15万円程度でしょうか。子供にもその後の人生がありますので、月5万円も家計に入れてもらうことは忍びないかもしれませんが、こうすることでようやく家計はギリギリのラインに浮上してきました。
とはいえ、他に手立てはないものでしょうか。
離婚後、養育費をもらう
離婚により、シングルマザーになったケースに限定されますが、元夫から養育費をもらうということが考えられます。
仮に月3万円の養育費をもらうと、生活はどのように変わるのでしょうか。
子供が高校を卒業するまでの18年間、月3万円の養育費をもらったケースが上のグラフになります。
決してゆとりがある生活ではないものの家計が赤字になることは無くなりました。
このシミュレーション結果を見る限り、シングルマザーとして子供を育てながら生活していくには、少なくとも月3万円程度の養育費は元夫に支払って欲しいものです。
ただ、この養育費をもらうということは想像以上に難しい現状があるようです。新宿区が行った「ひとり親家庭等アンケート調査」によると、離婚した元夫から養育費をもらっている方は、たった17.8%(定期的に支払われている家庭の割合)にとどまっており、他の8割強の家庭では、母親自らの収入が唯一の生活資金になっていることが確認できます。
この背景には、離婚後に元夫に会いたくないという心理や、元夫自身も経済的に困窮していることが背景にあるそうです。
シングルマザーに求められる暮らしぶり
調査を見る限り、元配偶者から養育費を貰って生活費に充てていくことは簡単なことではない実態を踏まえ、上でのシミュレーションを総合すると、シングルマザー家庭にはどのような努力が求められるのでしょうか。
健全な家計と表現するにはほど遠いのですが、貯蓄を赤字にすることなく子供を育て上げるためには、
- 子供には高校卒業後働きに出てもらう
- 年収を300万円程度に上げる
- 年収270万円なら、生活費は月3万円節約する
こうした暮らしを実現していかなければいけないということになります。
ちなみに年収300万円以上を達成しているシングルマザーは、冒頭の所得分布グラフを見る限り、32%(3人に1人)しか達成できていない年収になります。
一方の生活費を月3万円節約するということも決して簡単なことではありません。
月々15万円で教育費以外のすべてを賄わなければならないわけですから、住む家から食べるもの、衣類や家電購入などすべて切り詰めた生活を一生送り続けることになるわけです。当然、保険に加入する余裕などないでしょうから、病気や事故などに遭遇することがあれば、どうなってしまうかは想像もできません。
本当に充実させるべき支援とは何か
まもなく迎える衆議院選挙を前に、「新しい政権には、どのような政治を期待しますか?」とインタビューをしている報道番組を見ました。
インタビューに対して、各世代の方々は
というように、各々置かれた立場の主義主張を展開していました。「この要望が間違っている!」ということを言いたいのではありません。
ただ、ここでシミュレーションを行ったような生活を強いられているシングルマザーやその子供たちに向け、必要な政策が議論される場面はほとんど見かけません。
ここで紹介したシングルマザー支援制度はまだまだ不十分なうえ、子供が18歳を迎えると打ち切られていきます。
こうした実態を考えると、年金や高校教育の無償化など間接的アプローチも重要ですが、もっと直接こうした生活に苦しむ方々に手を差し伸べる制度が拡充されることこそ、無くてならない政策なのかもしれません。
シングルマザー支援協会
シングルマザー支援協会では、シングルマザーの方の自立を手に入れるための手段を提示してくれます。
- お金を稼ぐ力を養う
- 共感しあえるコミュニティ
- 再婚に向けて
こうした相談を無料で受け付けてくれています。現在シングルマザーとして悩んでいる方、これからの生活を考えると不安を覚える方は、相談してみてはどうでしょうか。
以上、本日は、「数字で読み解くシングルマザーの生活実態」についてレポートしてみました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。