こうした取り組みを行っているのはアマゾンだけではない。米Googleが出資しているAlgorithmia(アルゴリズミア)という企業は、こうしたAI機能の取り次ぎサービスを提供している。同社のサイトには、多数のAI機能が登録されており、これらの機能を利用したい人は、サイトに登録し、利用料に応じた代金を支払うことで、その機能を自分のシステムに取り込むことができる。
登録されているAI機能は、白黒画像をカラーに転換するものや、文書を要約するもの、画像の類似性を検出するものなど多岐にわたる。筆者もいくつか使ってみたが、指定された形式で指示を送れば、たちどころに結果が返ってくる。事前に必要な準備はほとんどゼロといってよい。
アマゾンと同様、利用料金は極めて安く設定されており、使う側は気軽に利用することができる。一方、各種AI機能を開発した人は、同社のサイトに登録することで、システムの運用や課金、告知といった諸業務を全てお任せできる。自身はAIの開発に専念できるので、次々と画期的なAIモジュールを開発し、このサイトに登録することで利用料を稼ぐAIリッチが多数、登場してくるかもしれない。
こうしたサービスが普及してくると、情報システムに対する考え方はもちろんのこと、ビジネスにおける業務の概念も変化していくことになるだろう。
これまで企業の情報システムは、ある業務をシステムで処理することを目的に、計画的に開発されるものであった。人事のシステムを作りたいというニーズがあれば、コストと時間をかけてシステムを設計し、開発を行ってきた。
先ほどのFM局のケースに当てはめるなら、音声読み上げのシステムを作りたいといったニーズがあった場合、まずシステム会社に相談した上で見積もりの作成を依頼。契約後は時間をかけて基本設計を行い、システムを開発していた(実際、先ほどのFM局は、システム会社に見積もりを依頼したものの、価格が高すぎて導入を断念したそうだ)。
だが高度なAIシステムが、ネット上で極めて安価に、しかも何の準備も必要なく利用可能になると、情報システムに対する基本的な概念は180度変わる。業務を進めながら必要に応じて必要なシステムを作り、使った分だけ利用料を払うといった使い方が現実のものとなってくるのだ。
ある部署が顧客に関するデータをとりまとめたとしよう。そのデータを高度な手法を使って分析したいというニーズが出てくれば、その場でシステムを構築してデータを分析してみることが容易に実現できてしまう。会社内にこうしたAIサービスを連携させる要員が1人か2人いれば、たいていの業務はその場でシステム化できてしまう可能性がある。
あからじめ計画を立て、段階的に業務のシステム化を進めていくという従来型の発想は、近い将来、消滅しているかもしれない。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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