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なぜ、僕たちは「600億もかかる政治家の人間ドラマ」を見せつけられるのか…こんな衆院選おかしくない?

今回の解散総選挙そのものがおかしくないかーー。そんな署名集めが始まっている。声をあげた思想家・東浩紀さんは、とにかく怒っていた。いったいどうして?

《なんで600億円も税金を投入して、誰と誰がくっついたとか、政治家の人間ドラマを見せられないといけないのか。こんな選挙はおかしい。》

インタビューが始まるなり、こう語ったのは思想家の東浩紀さんだ。

東さんは、9月28日に解散が決まった直後、9月30日に署名サイト「チェンジオルグ」でこんな署名集めを始めた

2017年秋の総選挙は民主主義を破壊している。「積極的棄権」の声を集め、民主主義を問い直したい

集まった署名は5000人を超えた(10月12日現在)。すごく多いとも言えないが、決して無視していいという数でもない。

ちなみに、署名とともに、こんな声も集まっている。

「投票に行かないやつなんてダメだ」「意思表示を放棄してどうなる」——。

この批判も想定内?東さんは口を開く。

《大人なら選挙に行かなければいかないという発想が思考停止だと思うんです。

逆に問いたいんです。

今回の解散で、日本の民主主義にとって何かプラスになることはありましたか?

僕はたんに棄権しろって言いたいわけではなく、こんな選挙は認めたくないと言っているんです。

まず、今回の解散は、安倍晋三首相が、いま選挙をしたら勝てるという理由でされたものだと思っています。

だから、今回の選挙で解散してまで国民に問いたいことがあるのかよくわからない。

解散前よりおかしくなってる

そして、現状の政治状況は解散前よりおかしくなっている。

いま、起きていることは政策論争なんかそっちのけの政局話ばかりですよね。

安倍政権が、自分たちに有利だからという理由で解散を決めたと思ったら、野党は政策や歴史的な積み上げを一夜で崩壊させて、風を求めて、右往左往する。

これは悪すぎるポピュリズムです。

この国の政治は自分たちの都合ばかり優先して、理念や政策の積み上げというものをまったく重視していないことがわかりました。

僕は、そのことに怒っています。

後世の歴史に、こんないい加減な選挙があったが、それに怒った人たちがいるということを残したい。署名の意味はここにあります。》

席につくなり、一気にこう語った。

東さんは自身で出版社「ゲンロン」を立ち上げ、そして出版にイベント運営にと多忙を極める経営者でもある。

日々の仕事、つまり経営者としての視点から見えることもある、と語る。

コストがかかりすぎではないですか?

《僕は小さいとはいえ、会社の経営者でもあるわけです。

そこでわかったことは、例えば引越し一つでも、業務が数日停止するということです。

これはとても痛手なんですよね。

コストがかかってしまって、会社にとって大事な業務が止まってしまう。

選挙をやるということは、1ヶ月もの間、国の業務が止まってしまうということです。

いま、1ヶ月もの間、業務を停止して国民に問いたいことってなんでしょうか。

この国にとって大事なことはあるでしょう。

経営者の立場から言えば、まず経済は大事です。しっかりと対策をしてほしい。

社会政策も大事でしょう。安全保障にしても、憲法にしても国にとって議論が必要なことはたくさんあるでしょう。

それで、選挙の間、この業務はどうなっているんですか?

ここまで価値がある選挙なのか?

600億もの税金を投入して、1ヶ月間、選挙に振り回される。これは相当、高い社会的コストを支払うということです。

報道だって、政治家の人間ドラマなんかより、考えるべき課題がたくさんあるのに、選挙を最優先している。

結局、そこまでの価値がある選挙なのかというのが根本にある問題なんですよ。

「解散そのものは総理の専権だから仕方ない」「選挙が始まったから選ばないといけない」と言いますが、根本的にこれで良いのかと問いたい。

僕たちは奪われている、という感覚を持ってもいいと思うんです。》

根本を問いたい、という東さんに重ねて聞いた。

いまの政治状況で、根本の問題はなにか?

東さんは、もう一つ「奪われた」ものがあるという話をはじめた。

それはなにか?

選択肢——具体的には「政権を担えるリベラル政党」(東さん)がなくなったのだ、と。

《冷戦が終わって、約30年という月日のなかで、僕も含めて、いろんな人たちが考えてきたのは、ひとことで言ってしまえば、この国で自民党ではない「現実的なリベラル政党」が政権を担う可能性です。

それは自民党的な保守的、復古的な価値観を持つ政党とは違うもの。

僕の言い方をすれば、戦後日本が積み上げてきたものを発展的に継承する政党です。

それはこういう価値観です。

経済的な豊かさをそれなりに享受し、自衛隊の存在を否定しない平和主義、そして個人主義ーー。

これを発展させていくためなら改憲だってまったく問題ない。

こうした人って、それなりの数いるんだけど、受け皿ってないんですよね。

自民が打ち出す復古的な改憲案も嫌だけど、政権を担えないような絶対護憲派も「いや、ちょっと違うなぁ…」と思ってしまう層です。

もちろん100%満足な政党というわけではありませんでしたが、2000年代にあった民主党への期待というのは、受け皿がほしいんだという、日本社会の期待だったと思っています。

現実の政治に必要なのは、組織と積み上げなんですね。

一時の風やイメージに流されず、議論を積み上げていくことができるからです。》

「安倍政権を終わらせたい」では、その先は?

9月下旬、国会の内外を取材しながら「安倍政権を終わらせるために〜」という主張を何回も聞いた。

では、次はどうしたいのか。少なくとも解散前後のドタバタで、具体的な構想を聞く機会は吹き飛んだ。

誰とくっつくのが有利か、という話はよく聞いたのだが……。

自民党とは違う理念を持って、風まかせ、勢いまかせで政権を目指すのではなく、理念に基づく政策を積み上げていく政党が必要だったのだと、東さんは繰り返す。

一時の風で政治をやるとどうなるか。失敗の歴史はすでに積み上がっているからだ。

組織があったはずの民進党は、希望の党、立憲民主党、無所属に分裂した。

組織も歴史も作れない

《民進党は不十分だったとはいえ、民主党時代から一度は政権を担った経験と、党員・サポーター、地域に積み上げられた組織もありました。

なるほど、逆風は吹いていたでしょう。政策的に難点もあったでしょう。

でも、組織も歴史はすぐには作れません。

自民党に対抗する政権交代な可能な政党を目指すなら、全国的な組織を作ることがどうしても必要です。

どうしたって、全国に広がる組織を作るには10年〜20年単位の時間がかかるんですよ。

その積み上げが選挙の風を理由にして、一夜にしてなくなった。

したがって、政権交代可能なリベラル政党の可能性は、今回でさらに遠のいたと見るべきです。

たかが一回の選挙のために、この間の積み上げを無くす。

これは大きな損失でしょう。

政権を目指すと言っているのが解散を契機にできた政党か、長い歴史と実績がある政権与党しかない。

日本の民主主義にとって不幸ですよね。》

選挙とはコストがかかるシステム

では、どうしたらいいのか。

《選挙というのはコストがかかるシステムだと政治家は自覚すべきです。

もっと議論を積み上げてから、意思を問うてほしい。

一瞬の風で選挙を突破しようという意識を政治家が持ちにくくするために、小選挙区制以外の選挙制度に変えていくとか、あるいは首相の解散権を制限するとか。

もう、こういう議論をしたいですね。》 

国難召喚選挙

最後まで、政治家への怒りを隠さない東さんは、こう言い切るのだった。

《安倍さんは国難突破、と言いますが、彼が解散を決めたことで、本当に「国難」と呼べるような政治状況になりました。

国難召喚選挙ーーこう呼びたいですね。》

バズフィード・ジャパン ニュース記者

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