私には友人が何人くらいいるだろうか。友人の定義が曖昧なので何人と数を読むのは難しいが、プライベートで友人と呼べる人間は多分それほど多くはない。親友に至ってはその数は片手で足りるほどだ。この年になると酒を飲まないというのも友人が少ない理由の一つだと思う。その数少ない友人と先日偶然バッタリ会った。久しぶりなので近況の報告がてら近くの喫茶店で二人してお茶を飲んだ。何年ぶりだろうか。多分10年以上だ。私が当時バンド活動を辞めてからは会っていない。彼もそのバンド関係の一人である。彼が当時から変化を嫌う人間なんだなと思うエピソードが一つ、我々が20代後半の時すでに知り合って10年が経過していたが1度も引越しをしなかった。引越しなど必要がなければしなくて良いのだろうが、一人暮らしで10年以上同じところに住み続けることに私は当時から変わった人だなと思っていた。私に関していえば勤め先や付き合う女性などなどで、若い頃は何回か引越しをしていたからである。やむを得ない場合も含めて環境を変えるという意味でその頃から住む場所を変えていた私とは真逆で、当時から彼は住む場所を変えなかった。そして私は聞いてみた。今どこに住んでいるのか。驚いたことにまだそこに住んでいるとの事だった。20年以上になるだろう。ユニットバス付きの6畳の狭いワンルームだったように思う。結婚はしていない。会っていないその間、仕事は何回か変わったようだ。もう一つの情報として、彼は細身の男前、ハンサムだ。服装も私なんかよりお洒落である。歳は私の二つ上、なので45歳か。若い頃はよくモテていたように記憶しているが、今はどうなんだろうか。突っ込んだ話はしなかったので聞いていないが、見た目は当時そのままだ。格好も話し方も、力なく笑う顔も。10年くらい前だろうか、私がバンド活動を辞めて仕事に打ち込んでいた時、彼から相談を受けた。借金があると。私は何点か自分が知っている過払い請求や借り換え、自己破産などの情報を彼に伝えたが良い返事はない。どうしたいのかと聞いても「分からない」と力なく笑うのみ。そして今、借金はどうしたんだと聞くと「まだ」今も少しずつ返済しているそうだ。借りたら返すのは当たり前の話であるが、今の時代、返し方の選択肢は沢山あるはずだ。しかし彼は毎月「まだ」年率何パーセントか分からない高額の利子を払い続けている。短い時間であったが、色んなことを話して驚いた。彼は当時から何も変わっていない。変わろうともしていないし、もっと言えば変わりたくないのだと思う。若いあの頃、よく一緒にナンパしたり夜遊びをよくした友人。当人からすれば年を重ねる事に細かい変化はあるんだろうが、状況を客観視すれば本当に何も変わっていない。助けてくれと言われれば助ける。しかし彼は言わない。助けようか?と問うても彼は必要ないと答えるだろう。結局は本人の変わる意思が無ければ何も変わらない。厳しい言い方をすれば、変化を嫌うなどそんなものは甘えだと私は思う。しかしそれを彼に言ったところで何になるのか。彼はこの20年、何も変わらずに生きてきた。私に出来ることとは何なんだろうか。お節介なのか、放っておくことなのか。私はこの10年、偶然出会わなければ話をすることの無かったこの友人に、この先私から連絡することは多分無いだろう。友人とは何なのか。それを考えた時、何年経っても「私から」連絡をし、そして「相手が」それを受け入れてくれた時に初めて友人関係が成立するのだと思った。と考えると、私はやはり友人が多くない。