【IFFJ】現代インド映画最前線!製作者から見たインド映画【インタビュー】
Why So Serious ?
現在開催中の第6回「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(通称:IFFJ)」。ゲストとして来日している『僕の可愛いビンドゥ』のアクシャイ・ローイ監督、『フライング・パンジャーブ』『ラマン・ラーガブ2.0 神と悪魔』のプロデューサーであるヴィヴェーク・B・アグラワールさんのお二方にお話を聞いてきました。
「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン」オープニング・セレモニー舞台挨拶。右から司会AYAKAさん、ヴィヴェークさん、アクシャイさん、IFFJ主催のスレーシュさん。
長編監督デビューになるアクシャイさん。問題作を多く手がけるヴィヴェークさん。それぞれの映画にかける情熱をお聞きください。
『僕の可愛いビンドゥ』監督アクシャイ・ローイ
MITで2年間映画製作を学んだ後、アモール・グプテやミーラ・ナーイル作品のアシスタント・ディレクターを勤める。その後にいくつかの短編映画を手がけ、そのうちの1本『The Finish Line(原題)』が第59回ナショナル・フィルム・アワードのシルバーロータス賞最優秀探検・冒険映画賞を受賞。本作が長編デビューとなる。
ーー初めての日本だそうですが、印象をお聞かせください。
以前から日本には興味があったんだけど、今回この映画祭のおかげでやって来れて感謝しているよ。歌舞伎や現代美術館へ行ったり、昨日は朝4時に起きて築地市場に行って日本を満喫しているよ。
ーー本作が長編デビュー作になるわけですが、どういったいきさつがあったのでしょうか?
プロデューサーからの依頼があったんだ。脚本を渡されたんだが、とても良く出来ていたんで即決だったよ。
ーーそうだったんですか。主人公の名前が「ローイ」で、経営学の大学に通ったのに作家になったという展開です。監督も名前が「ローイ」でMITに行ったのに映画監督になっています。もしかしたらパーソナルな作品なのかと勘ぐってしまいました。
それは偶然なんだ。私が関わる以前、出来上がった脚本で、もう主人公は「ローイ」だったんだ。ただ、恋愛経験やフラれた経験にはとても共感できた。だけど、そういう経験って普遍的に誰でもあるよね? そういった普遍性に惹かれたんだ。
ーースランプになった作家の映画ですと『バートン・フィンク』や『シャイニング』『8 1/2』といった傑作があります。デビュー作の題材にするには決意もあったのでは?
確かに作家の話なんだけど、本作は作家であることよりも、誰でも経験のある恋愛をメインに据え、カセットテープと音楽に紐づいた記憶の物語として構築していたので気にはならなかったよ。
ーー劇中で私用されている楽曲について教えてください。
あれらは古い30年代のものから80年代くらいまで、インド全土で、年寄りから子供まで誰でも知っているような普遍的な有名な曲なんだ。
ーー本編を貫いているイメージに、住宅街の上を巨大なドゥルガー神の像が飛んでいる場面があります。インド神話になじみのない日本人にこの場面の意味のようなものを教えてください。
神話というよりも主人公が劇中で書いている小説とリンクしているんだ。日常と自分が書いている非日常が混在していて、自殺も考えている。という心象風景をシンボリックに映像化した場面なんだ。
ーー劇中、ローイとビンドゥが暮らし始めた部屋の壁にグルダット監督の『紙の花』のポスターが飾ってあります。『紙の花』の物語とのリンクを図ったのでしょうか?
あのセットを作る時に、ローイとビンドゥならどんな部屋にするか考えたんだ。彼らは映画好きで『紙の花』やグル・ダットも好きだろうと。そのくらいの理由であまり深い意味は無いよ(笑)。
ーービンドゥが歌手デビューをしてCD屋さんのイイ場所にCDを置いてもらうのですが、あまり売れずシャー・ルク・カーンの『Chak De India!(原題)』のサントラに変えられてしまいます。
理由は2つあるんだ。まず『Chak De India!』のプロデューサーが本作のプロデュースもしているから権利が発生しない(笑)。もうひとつは、この映画では時間軸をかなり変えるので場面がいつの時代かわかるようなものとして、2007年公開の『Chak De India!』のサントラを出したんだ。
ーーインド映画ではよく時間軸をいじりますが、本作ではかなり頻繁です。
過去と現在が関わりあっていることを並べて見せることでドラマが生まれていくと考えたんだけど『(500)日のサマー』に構造が似てないか?という話になってね。ただ、構造以外の大部分はインドでしか成立しないものだし、実際オリジナルな作品に仕上がったと自負しているよ。
ーーパリニーティ・チョープラーさんの魅力について教えてください。
彼女は俳優として“リアクション”がいいんだ。私は俳優にはリアクションの能力が必要だと思っている。共演相手や状況のちょっとした、偶発的な変化に反応して、演技を変えていけるのが良い俳優だ。彼女にはそういった能力がある、素晴らしい俳優なんだ。
ーー偶発的と言えば、本作の海辺でローイの頭に飛んできた原稿がひっかかる場面や、ビンドゥをおんぶしたローイの顔に髪の毛が一房かかったり、偶発に愛されていると感じました。
海辺のシーンは本当に「やった!」と思ったよ。髪の毛がかかる場面も可愛いでしょ? こっちは意図的に演出したんだ。だからうまく髪の毛がかかるまで何度も撮影を繰り返した場面なんだ。この場面を指摘してくれたのは初めてだよ。気付いてくれてありがとう!
ーー最後になります。好きな映画を教えてください。
日本映画では黒澤明の『羅生門』や『七人の侍』小津安二郎の『東京物語』は傑作だよね。ハリウッド映画だとキャメロン・クロウの『ザ・エージェント』『あの頃、ペニー・レインと』。あとは『炎のランナー』『幸せのちから』。こんなところかな? エモーショナルに感情を揺り動かすような作品が好きだね。
『フライング・パンジャーブ』『ラマン・ラーガブ2.0 神と悪魔』プロデューサー ヴィヴェーク・B・アグラワール
経済学、ファイナンスで学士号。金融学で修士号を取得するも映画業界へ入り、監督、脚本、VFXを経てプロデューサーに。IFFJ上映作『フライング・パンジャーブ』『ラマン・ラーガブ2.0 神と悪魔』の他に日本公開を控える『クイーン 旅立つ私のハネムーン』がある。
ーー初めての日本だそうですが、印象をお聞かせください。
とても清潔でインフラも整っていて素晴らしい国だね。
ーー『フライング・パンジャーブ』が生まれたきっかけを教えてください。
監督が脚本を売り込みに来たんだ。その出来が良かったんで製作を決めた。というのが経緯だね。
ーー実際の麻薬問題を取り扱う重いテーマですが、シャヒード・カプールやアーリヤ・バット、カリーナ・カプールといった有名俳優も関わった大きな企画にまでスケールアップした理由はなんでしょう?
まず、この問題は広く知らしめられるべきものだという社会的な意義を製作陣が持ち、そのために有名な俳優たちにアプローチしたところ、共感してもらい出演に繋がった。実はそれで予算が膨らんだということはなくて、俳優たちも社会的な意義のために、あまり多くはないギャラでの出演をしてもらっているんだ。
ーー特にアーリヤ・バットさんは見た目も貧しい汚れた姿で登場します。
彼女の場合は、脚本を読んでもらった段階で逆に「この作品のこの役は、私がやるベキだ。」とアプローチをしてきたほどなんだ。良い俳優は、それまで演じてこなかったような役にチャレンジをするもので、彼女もその1人だ。彼女は実際に舞台となったパンジャーブ地方へ行って2週間に渡って自分でリサーチをして役作りをしてきたんだ。
ーーシャヒード・カプールも普段のイメージとはかけ離れた傲慢で尊大な役柄です。
彼も脚本を気に入ってくれて、熱心に役作りをしてくれたんだ。文字を入れた頭の剃りこみも、自分で自身の髪の毛を剃って作ってきたんだよ。
ーー『ラマン・ラーガブ2.0 神と悪魔』はもっと陰惨で恐ろしい映画で、製作するには勇気のいる決断に思えます。
アヌラーグ・カシュヤップが監督するとなれば断る手は無いね。彼の作る、臭いたつような暗さはとてもオリジナルだ。俳優陣も素晴らしい仕事をしてくれたし、出来上がった作品にもすごく満足しているよ。
ーー本作のナワーズッディーン・シッディーキーさんは素晴らしい俳優ですね。
まったくだ。彼は認められるまで長い下積み時代があって、ちょっとしか映らない端役からキャリアをスタートさせているんだ。この7~8年くらいでようやく認められたんだが、今でも全く謙虚に役柄へ取り組み、キャラクター自身に成りきるようなアプローチをしてくれる。素晴らしい俳優だ。
ーー一方で日本でもようやく公開が決定した『クイーン 旅立つ私のハネムーン』は非常に力強い。元気をもらえるような明るい物語ですね。
日本公開するの? それはイイね。監督のヴィガス・バルは私たちの会社のパートナーでもあるんだ。この作品はデリーに住む女性の物語ではあるけれど、世界的にも共感できる普遍性がある物語になっているんだ。実際に公開された様々な国でも賞賛をもって受け入れられていることに誇りをもっているよ。私たちの会社は、一般的な、多くの人がイメージするようなボリウッド映画との差別化として『フライング・パンジャーブ』や『クイーン 旅立つ私のハネムーン』のような作品を作っていく傾向があるね。
ーー最後になります。好きな映画を教えてください。
そうだなぁ。まずは監督としてのクリント・イーストウッド作品は好きだ。出演もしているけど『マディソン郡の橋』は特に好きだ。あとはロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』。あと、自分で作った映画ではインディペンデント時代の『LAND GOLD WOMAN(原題)』が一番だ。名誉殺人をテーマにした作品で、これのおかげで様々な国へ出かけ賞ももらったし、なにより私の妻が監督をしているからね(笑)。
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