チアリーディングで身についた笑顔
―― かつて「人見知り」だった、って言うと「意外!」って言われませんか。
鈴木 言われますね。「人見知りビジネス」でしょ、って(笑)。そういう時には、かつての重症っぷりを伝えるんです。私が芸能界に入ったのは高校3年生の時ですが、初めて会う大人と何を話していいかがまったくわからず、常にマネジャーさんの後ろに隠れていました。この大人は何を考えているんだろうと、余計なことばかり想像して、勝手に頭の中で会話をしていたんです。
―― 「今日はイイ天気ですね」と話しかけて、「そうですね」で終わる地獄の会話がありますよね。そこからさらに話しかける、というようなことができなかったんですか。
鈴木 できなかったですね。話しかけてもらうのはうれしかったんですが、それに「あっ、はい」って必死に応えていた感じ。中学では内弁慶なタイプだったものの、高校でチアリーディング部に入ってから、だいぶ変わってはいたんです。チアって「私のことを見て!」っていう精神のスポーツなので。
―― 入部してまず、笑顔の練習をさせられたとか。
鈴木 壁に向かって「GO! FIGHT! WIN!」みたいなコールを叫びながら、笑顔を作り続けるんです。とにかく、何もないところで笑顔をすぐ作ることが求められました。「笑って!」「あきえの笑顔、引きつってるよ!」って、怒られるんです。
―― いや、アナタが怒るから引きつってるんだよ、って思わなかったですか。
鈴木 最初は、その状況の中で笑うのって、ウソの笑顔じゃないか、って思っていたんです。でも、笑い続けることで、気分が楽しくなってくることを発見したんです。それが今の仕事でも活きてるなって思いますね。
―― 栄養ドリンクを飲んで無理やり元気になると、後になってドッと疲れるのと同じように、笑顔を作り続けるって、負の部分もあるんじゃないでしょうか。
鈴木 いや、途中から気持ちが追いついてくるので、無理している感じではなくなってくるんです。チアの先輩に「楽しいことを想像して笑いなさい」って教えてもらって、それは今でも意識していますね。
「本当にダメダメリポーターでした」
―― 今年、『誰とでも3分でうちとける ほんの少しのコツ』という書籍を刊行されましたけれど、「コミュニケーションの先生」のような感じで取材を受けることが増えたのではないですか。
鈴木 そうですね、先生的な役回りを求められると恐縮してしまいます。『王様のブランチ』では、「買い物の達人」というコーナーを何年も続けさせてもらったのですが、編集者の方が「どうしてさまざまなジャンルのゲストと打ち解けることができるのか」と興味を持ってくださったことがきっかけになりました。
―― 番組を続けていて、自分の中で、あっ、人見知りを克服できたな、っていうタイミングはあったんですか。
鈴木 ブランチのリポーターになって1年目で「買い物の達人」が始まったんですけど、最初は本当にダメダメリポーターでした。スタッフに聞けば、みんな口をそろえて「あきえちゃんはダメダメだった」って言うはずです。カメラが回る前に、ゲストの方に「はじめまして、今日はよろしくお願いします」とあいさつするんですが、それ以降、何を話していいのかがわからない。カメラが回れば何とか台本にある質問を聞けるんですけど、それ以上出てこない。でも、1対1で話し相手になる私がイイ雰囲気を作らない限り、ゲストさんは扉を開いてくれないんだと気づき、無理やり克服してみたんです。
『王様のブランチ』よりも前に、『ぶちぬき』(テレビ東京)という番組に出演していたのですが、共演していたココリコの遠藤(章造)さんと田中(直樹)さんが、「今日の朝何食べた?」とか「休みの日何してるの?」とか、わざわざどうでもいいことを聞いてくださって、私、それがとにかくうれしかったんです。日本人は人見知りが多いといわれていますけど、みんな「話しかけられ待ち」なんじゃないかって思い、自分からアタックして、相手に入り込んでみる努力をし始めたんです。
―― はしのえみさんが、初めて鈴木さんに会ったときに「腹式呼吸の子ね」って言ったそうですが、とてもステキな入り込み方ですよね。
鈴木 『ブランチ』で自分らしくいられるようになったのも、はしのさんのおかげなんです。「今日も抜群の昭和臭よ」なんて言ってくださって、私を面白く使えるようにしてくださったんです。人の変わっているところ、面白いところ、素の部分にスポットを当てる技を持っていらして。私、ずっと、はしのさんみたいな人になりたい、って思ってきました。
―― 「買い物の達人」では、敬語とタメ口を織り交ぜていましたよね。年配の俳優さんにタメ口を使うのってチャレンジングなことなのでは、と思います。
鈴木 最初の頃、相手を怒らせたらどうしようとか、これを言って空気が変になったらどうしようってことばかり考えてしまったんですが、結局、「なぜあそこで言わなかった」と後悔ばかりが続いたんです。言わないで後悔するなら、言って後悔しようと切り替えました。言って怒らせちゃうかも、という思いは今でもあって、だから、フォローする言葉をいくつかストックしておきます。イケメンの先輩にタメ語で迫って「なんだこいつ」って思われたら、「すいません、イケメンに距離縮めちゃう病気なんです」と返してみたり。
「愚痴は言うけど、悪口は言わない」
―― 仕事をしていると、どうしても馬の合わない人が出てきますよね。そういう時にはどう対応するんですか。
鈴木 柚木麻子さんの小説『ランチのアッコちゃん』に書いてあったのですが、苦手な人って、まだ、好きになるきっかけが来てないだけ、なんだと。それを読んだときに衝撃が走って、そうか、自分が勝手に苦手というイメージを作っているだけなんだ、と反省したんです。その後で、苦手だと思っていたスタッフさんに自分から話しかけてみたところ、とにかく楽しく話せたんです。
―― 正直、仲間内で、誰かの悪口を言ってるときって、その場の結束力が高まりますよね。鈴木さんは苦手な人について、愚痴や悪口を言ってこなかったのでしょうか。
鈴木 「苦手だ」って断言すると、苦手という自分の気持ちを肯定しちゃいますよね。なので自分は、愚痴は言うけど、悪口は言わないようにしよう、と心がけています。表に出る仕事なので、他の人よりも唐突に、自分への悪口が目に入ることがあります。でもそれは、自分がロケやスタジオや普段の私生活で放った言葉によって、誰かが傷つき、それが自分に返ってきているだけなんじゃないかって思うようにしています。
―― 本の中で、自分で自分のことを3カメで見ている、と書いてありました。つまり、自分の目線だけではなく、全体を俯瞰(ふかん)するカメラのような目線があるのだ、と。
鈴木 この仕事をして、良くも悪くもそういう癖がつきました。先日、結婚式を挙げたんですが、その日の主役であるべき自分がちっとも主役になりきれず、「みんなどう? 盛り上がってる?」みたいな感じでした(笑)。
―― この時代、SNSで、誰がどこで何を言うかわからない時代ですよね。たとえば「鈴木あきえがコンビニで立ち読みしてた。元気なさそうだった」って、いつ、つぶやかれるかわからない。コンビニでニコニコしてたらマズいですけど、テレビに映る自分のイメージを、常に保たなきゃいけないのってしんどくないですか。
鈴木 どんな人でも、仕事してるときの顔と、恋人といるときの顔と、親といるときの顔は違うはずで、無意識のうちに使い分けてると思います。だからこそ早めに、「自分はこういうところあるよ」ってオープンにしてしまったほうが楽になるはずなんです。でも、そもそも、自分と関係ない人に何かを悪く言われても、その人に会うわけでもないし、そんなの、ちっちゃなこと、と思うようにしています。
―― たとえば就職活動では、「1分間で自分の魅力を話してください」というような質問が次々と投じられます。端的に自分を伝えなきゃいけないときって、どうしたらいいんでしょう。
鈴木 私、『ブランチ』のオーディションを受ける前に『BSブランチ』の面接を受けて落ちているんです。その時には、いかにも、ブランチってこういう子が求められているんでしょ、っていう女子を演じてしまいました。明るくて何があっても笑顔、みたいな……。その半年後に『ブランチ』のオーディションがあって、もうウソの自分でいくのはやめよう、落ちるにしても自分らしく落ちようと心に決めて臨みました。食リポのテストがあって、天そばを食べて「おいしい!」って言うテストがあったんですが、そばが冷めてたんで、「はぁ、冷めてますねぇ……」って正直に言ったんです。後々、「あれを見て、あきえちゃんは他の人と違うと思った」って、教えてくれました。
―― 人と付き合っていると裏切られることがありますよね。たとえば、このインタビューが終わった後、鈴木さんがこの部屋に忘れ物をとりに戻ってきたとします。ここにいるスタッフ達が「ったく、今日は、ホントは休日だったのによー」とブツクサ言ってたらどうしますか。裏切られたと思いませんか。
鈴木 「休日だったのに」的な軽いのだったら、商品券か何か、持ち歩いているものをあげます(笑)。でも、人を信じないより、信じていたほうが楽だと思うんです。あの人は敵かも、って考えていると、疲れちゃうから。自分で自分のストレスを作ってしまいます。人見知りを解消するために自分がしてきたことって、ちょっとの勇気を出す、これだけなんです。でも、そうやって人を信じて話しかけてみることによって、あまりにもたくさんのことが解決したんです。ちょっとの勇気を怖がらないでほしいな、と思います。
取材・構成:武田砂鉄
撮影:石橋俊治
衣装協力:トップス sakayori.、スカート UNITED TOKYO、ピアス Nina mew
- 鈴木あきえ(すずき・あきえ)
- タレント、女優。1987年東京生まれ。2004年9月に週刊誌の表紙巻頭グラビアにてデビュー。2007年2月から約10年「王様のブランチ」(TBS系)の名物コーナー担当リポーター、レギュラーを務めた。
2017年3月に初の著書となる「誰とでも3分でうちとけるほんの少しのコツ」(かんき出版)を刊行。