薬師院仁志(帝塚山学院大学教授)

 9月24日に行われた大阪府堺市長選挙は、4年前の前回と同様、大阪維新の会と他党が全面対決する一騎打ちという構図であった(公明党は自主投票)。そして、結果もまた前回と同様、無所属で現職の竹山修身氏が、大阪維新の会の新人候補を制して当選を果たしたのである。しかしながら、選挙戦は前回ほどの盛り上がりを見せず、投票率は6%以上も低下してしまった。4年前とは異なり、政界を引退した橋下徹氏の姿がなかったことも、その一因に違いあるまい。それでも、票集めにおける大阪維新の会の手口は、橋下代表の時代から何も変わっていなかった。だからこそ、首長選挙における維新と反維新の全面対決という構図も維持されているのである。

 大阪維新の会は、まず現状に対する不満を煽動(せんどう)する。その上で、「改革」だとか「Change」だとかいった中身のない標語を声高に叫ぶのだ。実際、今回の堺市長選挙においても、大阪維新の会が掲げた争点は「停滞か、成長か」という抽象的なものであった。つまり、現市政を「停滞」だと一方的に決めつけておいて、自分たちは「成長」だと自称するという次第である。言うまでもなく、こんなものは争点でも何でもない。堺市民の意見が「停滞か、成長か」で割れていたわけでもなければ、対立候補の竹山氏が「停滞」を主張していたわけではないのである。そもそも、現在の堺市が停滞しているという具体的な根拠は何もない。大阪維新の会は、堺市が停滞しているというイメージだけを煽(あお)ったのだ。

図1 大阪維新の会のビラ
図1 大阪維新の会のビラ
 例えば、大阪維新の会のビラを見てみよう(図1)。まず、冒頭に「女性777人にお聞きしました!」と記されているが、何を聞いたかといえば、「堺市の不満や不安」なのである。あえて不満や不安を口にするよう、人々を煽っているのだ。その上で、ビラは「保育園がすくない。(西区・20代)」という市民の不満が載せられている。だが、実際には西区の待機児童はゼロだ。堺市全体でも31人しかいない。たしかに、昨年度の16人から比べれば増えてはいるのだが、その理由は3人目の子どもの無償化を実施したことで申し込み自体が急増したことに起因する。

 また、同じビラには、「水道料金がべらぼうに高い!(西区・70代)」という不満も紹介されている。しかし、堺市の水道料金は、大阪府の33市中9番目の安さである。なるほど、大阪市と比べれば高い。だが、淀川という大水源を持つ自治体が有利なのは当たり前であろう。同様に、「健康保険料が高い(西区・50代)」という不満にしても、堺市の国民健康保険料は竹山市長が就任以来8年連続で引き下げて来たし──単純な自治体間比較は難しいが──少なくとも府内市町村の平均よりはかなり安い。その一方で、大阪市は、橋下市長と吉村市長が6年間で合計7%も国保料を引き上げているのだ。