連載
» 2017年10月12日 08時00分 公開

真説・人工知能に関する12の誤解(8):人はなぜ「人工知能に自我が芽生える」と思ってしまうのか (1/4)

進化した人工知能が自我を持つ――。人工知能にまつわるよくある議論の1つですが、実際に開発しているエンジニアからすれば、全く現実的な話ではありません。それでも、なぜ人は、人工知能に自我が芽生えると思ってしまうのでしょうか。

[松本健太郎ITmedia]

 人工知能(AI)に関してよくある議論の1つに「人工知能は自我を持つのか」といったテーマがあります。人工知能の性能が上がり続けることで、「いずれは人間のように、心(自我)を持つのではないか?」と思う人は少なくありません。

 この話は「自我を持った人工知能が人間に反旗を翻して、戦争を起こすのではないか?」という脅威論のベースにもなっています。こうした心配が広がるのは、「心を持つロボット」というモチーフの物語が世に数多くあるためかとも思うのですが、実際に人工知能を開発しているエンジニアからすると、「そんなバカな……」と失笑するレベルで非現実的な話なのです。

 しかし、実際にPepperやチャットボットとの会話を経験し、こうした疑問を投げかけてくる人の目は真剣そのものです。私も次のように問い詰められた経験があります。

 「会話が通じており、コミュニケーションがちゃんとできている。まるで心があるように感じた」「このまま人工知能が進化したら、完全な会話もできるようになるだろう。そのとき、本当に自我を持たないと言い切れるのか?

photo Pepperやチャットボットとの会話を経験し、人工知能に自我が芽生える可能性を感じる人は少なくありません

 可能性が無いことを完璧に証明するのは、不可能に近いため(消極的事実の証明という意味で「悪魔の証明」という言葉もあります)、どう説明したものかと頭を抱えてしまうのですが、その姿を見て「ほら見たことか」と勝ち誇った顔をする人工知能批判論者が意外と多いのです。

 今回は、なぜ「人工知能に自我が誕生する」と思う(誤解する)のか、その理由を考えていきます。

そもそも「コミュニケーション」とは何か?

 自我について考える前に、まず人工知能に自我(心)が芽生えるという理由に挙がる「コミュニケーション」について考えようと思います。Pepperやチャットボットとの会話を経験した人が、できたと感じている「コミュニケーション」とは、一体何なのでしょうか。経営学の大家であるピーター・F・ドラッカーは、次のように定義しています。

 「無人の山中で木が突然倒れたとき音はするか」との問いがある。今日われわれは、答えが「否」であることを知っている。音波は発生する。だが音を感じる者がいなければ、音はしない。音波は知覚されることによって音となる。ここにいう音波の知覚こそコミュニケーションである。(中略)

 コミュニケーションを成立させるのは受け手である。コミュニケーションの内容を発する者ではない。(「マネジメント(中)」より)

 ドラッカーの言葉を借りれば、Pepperやチャットボットはあくまで“音波”を出すだけの存在といえるでしょう。彼らは、ユーザーが発した文章に対して、あらかじめ用意された解答群の中から最適な答えを選び出し、それを言っているにすぎません。まさに単なる音波です。

 このケースでは、コミュニケーションを成立させるのは受け手である、われわれ人間です。つまり、Pepperやチャットボットとのやりとりを通じて「自分の意図が伝わった」「対話ができた」「交流できた」と受け手である、私たちがそう感じればコミュニケーションは成功。誤解を恐れず言えば、機械と会話できていると錯覚しているわけです。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Special

- PR -

「IoTを始めるには、データ収集から」。そんな風潮に異を唱えるエバンジェリストがいる。既存データの分析から始めてもいいじゃないか――そう考える理由とは?

クリナップ、アイセイ薬局、日本マイクロソフトなど、100社700超のプロジェクト実績あり。デジタルトランスフォーメーションを加速する新しい開発サービスとは

Web上に公開されている数百億単位のデータを自動収集して解析――そんな日本の先端研究に耐え得るクラウド基盤、京都大学が重視した4つのポイントを解説!

ビジネスにIoTへの取り組みが欠かせなくなってきたが、セキュリティ面の懸念から、踏み出せない企業は多い。こうした企業を、支援できるのは通信サービス事業者である。

VMware環境をクラウド化するにあたって重要視したい「ベアメタルサーバ」という選択肢。そのメリットを最大限活かせるクラウドとは?

激化するサイバー攻撃に、今、企業が行うべきセキュリティ対策とは――。最新の事情を踏まえ、セキュリティのプロが2020年を見据えたセキュリティ対策のポイントを教えます

2020年1月にWindows 7の延長サポートが終了します。Windows 10に順次移行する必要がありますが、そのためには準備が必要です。何をすればいいのか確認しましょう。

接続した順番や位置により、スピードや安定性が変わる無線LANに悩んでいませんか。最新の平等通信対応アクセスポイントなら、皆がストレスなく無線LANを使えます。

Special

- PR -

メーカー以外の事業者が保守を行う「第三者保守」、そのメリットと品質とは

数百億単位のデータを解析、京都大学の先端研究に耐え得るクラウド基盤とは?

国内2100社を支えるEDI製品は、なぜ“Linux版SQL Server”に早期対応したのか

IoTを推進するには、避けて通れないセキュリティ 支援してくれるのは……!?

ランサムウェア対策、市場動向など、セキュリティに関する最新情報をチェック

3人のプロがこれからの企業のセキュリティ対策の在り方を徹底討論!

IoTを始めるには、まずデータを収集? それ以外でも成功する方法がある!

アイセイ薬局、日本マイクロソフトなどでも実績のあるモバイル開発の秘訣。

社内無線LANのトラブルにもう振り回されない、最新アクセスポイントの秘密

2020年1月に延長サポートが終了。今からWindows 10移行を着実に進めよう。

エキスパートが語る VMware環境のクラウド化でベアメタルサーバが使えるワケ

ピックアップコンテンツ

- PR -

注目のテーマ