「利益を出さない」ことで有名なAmazonは20年間、資金をどのように調達し、何にどのくらい投資してきたのか?

前回、AppleとMicrosoftの事業数値を昔にさかのぼって追ってみたエントリが好評だったので、今回はAmazon.comについて同じことをやってみます。

Amazonは1994年に「Cadabra.com」として設立されました。翌年、オンライン書店「Amazon.com」の提供を開始。1997年にはナスダックへの上場を果たします。

1999年には「1-Click」特許を取得。2002年にはクラウドサービス「Amazon Web Services」を提供開始。2007年には電子書籍リーダー「Amazon Kindle」を発表。

現在では世界を代表するEコマース企業となり、多くの小売企業が、Amazonに市場シェアを根こそぎ持っていかれることを恐れています。


「利益を出さない」企業体質も有名で、長期的なFCF(フリーキャッシュフロー)を最大化するとか言って収益のほとんどを事業の中で使ってしまいます。その特殊性についてはインターネット上でもよく話題に上っています。

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本エントリでは、Amazonがお金をどのように集め、そして投資してきたのかを具体的な数値として追ってみたいと思います。

損益の推移

まずは、損益の推移をみてみます。

1995年の売上高は51万ドル、営業損失が30万ドルでした。上場した1997年には売上1億4775万ドル、営業損失2920万ドル。

10年後の2007年には売上148億ドル、営業利益6億5500万ドルとなり、2016年には売上1359億ドル、営業利益41億ドルほどとなっています。

営業利益率は一番高かった2004年でも6.36%と、ギリギリ営業黒字くらいの水準を意図的にキープしているように見えます。

Amazonの売上は大きく成長したにも関わらず、利益をほとんど出していないことがわかります。

コスト構造の変遷

噂通り、Amazonはほとんど利益を生み出していません。それでは、具体的に何にお金を費やしてきたのでしょうか?

営業費用の内訳を、売上に対する比率にしてグラフにしてみます。

まずAmazonが何よりも投資してきたのは「売上原価」です(変な言い方ですが)。

2012年までの売上原価率はずっと売上の75%以上もありました。しかし、直近の2年間の売上原価率は60%台にまで低下しています。

「売上原価に投資する」というのはかなり奇妙な言い方ではありますが、はじめは粗利を薄くして、安く商品を提供することでシェアの拡大を優先したのだと思われます。 

顧客のためにコストを踏んできたという意味では売上原価も立派な投資の一つと考えることができます。言い方は変だけど。


さて、結果としてAmazonはEコマースの世界で圧勝し、巨大なシェアと物流インフラを構築することができ、それにより、無理なく売上原価率を下げることができました。

売上原価率が減った分をAmazonが何に投資しているかというと、「Technology and content」「Fulfillment(物流)」「Marketing」の3つです。3つとも対売上比率が増加しています。

特に「Technology and content」の増加は顕著で、10年前は売上に対して5%前後に過ぎなかったのが、ここ3年は10%以上となっています。絶対額では160億ドル。

その多くは開発者などの人件費で、Amazonの製品開発チームがさらに巨大になっていっていることがわかります。この投資により、Amazonのシステムやサービスはより効率化され、洗練されたものになることでしょう。

物流(Fulfillment)コストも、売上に対して13%近くに達し、絶対額では176億ドルにまで上っています。

マーケティング費用も増加していますが、売上に対して5%前後と、他の営業費用と比べると低いことがわかります。


こうしてみると、Amazonのコスト構造はインターネット企業というよりはウォルマートなどの小売企業のそれに近いと言えます。

仕入れた物をなるべく安く販売し、購入するための流れをテクノロジーの力で最適化する。「物を買う」という行為を徹底的な長期目線・顧客目線で最適化してきたスーパーハイテク小売企業、というのがAmazonという会社の本質だと言えます。まあAWSとかもありますが。。


以上が「Amazonはお金を何に費やしてきたのか?」という疑問に対する損益計算書(P/L)における答え、ということになります。

ただ、企業がどのようにお金を費やしてきたのかがもっと長期的な視点からわかるのは「バランスシート(貸借対照表)」です。そこで、今度はバランスシートの内容を追ってみたいと思います。

資産内訳の変遷

こちらがAmazonの1996年からの資産比率の推移です。

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