どうも。ずっと地元に帰省していたのですが、一昨日に大学のほうへもどってきました

この記事では最近のフェイバリットと題して、リアルタイムで嵌っているキーワードに焦点をあてていこうと思います。

基本的にこのブログは自分が見返すためにあるのですが、決定稿としてのアルバムレビューと違い、ブームが来はじめた、「浅い認識」を記録するためのコーナーとします。


前置きが長くなりましたが、今回のキーワードはブリストルです。

ブリストル 【Bristol】
イギリス,イングランド南西部,エーボン川下流にある河港都市。一七~一八世紀はアメリカとの貿易で栄えた。航空機などの工業が盛ん。(三省堂 大辞林より)


ブリストルはイギリス西部の港湾都市。人口もイギリスで8番目と、それなりに大きい都市です。

この土地に関わりの深いアーティストにはポップ・グループ、エイドリアン・シャーウッド、スリッツ、マッシヴ・アタック、ポーティスヘッドなどがいます。

ブリストルの音楽が始まったのは70年代後半ころだと思われます。

当時はレゲエが最も新しいサウンドとしてイギリス中のクラブで流行っていました。

特にブリストルはジャマイカ移民が多く暮らしていたこと、また港湾都市という立地上ジャマイカからの新譜が入ってきやすかったことでレゲエ/ダブのサウンドシステムが大きく発展しました。


この歴史から、ブリストルの音楽は後世にわたるまでヘビーなリバーブやディレイのかかったダブの影施が濃いサウンドを特徴とします。
ダブステップなど、ダブから影響を受けた新たな音楽ジャンルも登場している近年、ブリストルの歴史はクラブミュージックの発展の歴史と言えるかもしれません。



~ミュージシャン紹介~



・The Pop Group
ブリストルの音楽を作り上げた最も功績の大きいバンドの一つがポップ・グループです。

彼らの音楽はファンクをベースにしながらも大胆で過激なノイズコラージュ、ダブ音響、フリージャズの即興、そしてボーカルであるマークスチュアートの左翼思想などの要素を含んでいます。ポップグループの登場により、
当時全英中で起こっていたポスト・パンクのクラブミュージック化はいっそう進んだと考えられます。
(ブリストルではレゲエ/ダブに少し先行する形でファンクのブームが起こっていたそうです)

(上)The Pop Group - She's beyond Good and Evil (下)Number Girl - Num-Ami-Dabutz
 
ポップ・グループのデビューシングル。どろどろのファンクサウンド!この時点ではまだダブは入っていません。同年の1stアルバムにはベテランのレゲエミュージシャンであるデニス・ボーヴェルを起用し、ダブ化が促進されます。
日本でポップ・グループの影響を受けていたのはナンバーガールですね。ラストアルバムの「NUM-HEAVYMETALIC」はポップ・グル―プのファンクやダブ音響をお手本にしています。

マークスチュアートの政治思想にメンバーがついていけなかったとかで、ポップ・グループは2ndアルバムを発表し81年に解散。その後は
マークスチュアート(Vo)のMark Stewart & Mafia、ジョンワディントン(Gu)のMaximum Joy、ギャレスセイガ―(Gu)とブルーススミス(Dr)のRip Rig + Panic、サイモンアンダーウッド(Ba)のPigbagなどのバンドに分裂します。
Mark Stewart & Mafiaはポップグループのノイズコラージュ/ダブ音響をさらに進めた形、Maximum Joyはポップでフリーキーなファンク・パンク、Rip Rig + Panicはフリージャズの攻撃性をもったファンク、Pigbagは正統派の重厚なファンク集団。
マーク以外のバンドは皆それぞれのファンクを追及していて、ディスコの定番となった曲も多いそうです。バンド側もディスコカルチャーに呼応するように12インチシングル(通常の7インチシングルより演奏時間が長い)や12インチアルバム(通常のLPより音質が良い)を発表していました。

Maximum Joy - Stretch(12インチ・シングルバージョン)

ポップ・グループ分裂後のバンドで一番好きなマキシマムジョイ。



・Adrian Sherwood
先ほどのポップ・グループがロック側からのアプローチなら、エイドリアン・シャーウッドはレゲエ側からのアプローチでブリストルのサウンドを構築しました。

レゲエの盛んな土地ブリストルに生まれたシャーウッドは、純英国産のレゲエを作ろうとしました。


彼は「On-Uサウンド」レーベルを設立して沢山のレゲエミュージシャンを擁し、自らはダブ・エンジニアとしてレーベルのミュージシャンを支持する裏方の仕事に回り、素晴らしいダブ音響のアルバムを発表しました。(ダブの世界ではエンジニアはミュージシャンと同等に作品に貢献するので、裏方という認識は無かったのかも)

On-Uからはほんとうに良質のレゲエが何十枚も出ていてぜんぜん追えていませんが、Dub SyndicateやAfrican Head Chargeが有名なのでしょうか。
またLee PerryやAugustus Pabloなどジャマイカのダブ・レジェンドもOn-Uのミュージシャンと共作があったり、On-Uから作品をリリースしたりしています。

(上)Creation Rebel - Rebel Vibration (下)Primal Scream - Revolutionary
 
クリエイション・レーベルでのエンジニアリングはシャーウッドの初期の金字塔です。ルーツ・レゲエのサウンドにカラッと乾いた音響が心地よい。この人は膨大な数の作品を手がけているので、名前を見ることも多いと思います。プライマルスクリームの「Echo Dek」は、アルバム「Vanishing Point」をシャーウッドがまるまる一枚ダブ化したものです。
前述のマークスチュアート&マフィアも、シャーウッドが手掛けています。


・The Slits
スリッツは本当はブリストル出身ではないのかな?レゲエ/ダブをパンクに取り入れた第一人者で、ブリストルのミュージシャンとのコラボ(後述)は歴史的な偉業です。

ボーカルのアリ・アップはスリッツ結成時に14歳。結成時のメンバーだったパルモリヴはThe Clashのジョーストラマーと交際中。アリの母親はのちに元Sex Pistolsのジョンライドンと結婚など、なにかとパンキッシュな生き様のバンドでした。

そしてスリッツ(われめ)というバンド名からも分かるように、フェミニズム的な側面も大きく、いわゆる「ガールズ・バンド」の元祖でありライオット・ガールのムーブメントの源流ともいえます。

The Slits - Instant Hit 

スリッツは最初に聞いた時かなりの衝撃をうけました。隙間だらけのスカスカのサウンドに意味の分からない音響処理、おっぱい丸出しのジャケット笑
でもこのスカスカのサウンドがクセになるんです。ダブ音響(これもデニスボーヴェル担当)も過剰でなくて心地よい。アリ・アップは根っからのレゲエ好きで、髪型もドレッドにするなどパンクの世界では異彩を放っていました。


そしてアリ・アップは1980年にエイドリアン・シャーウッドやその周辺のレゲエバンド、現代音楽やフリージャズのミュージシャン、マークスチュアートといったパンク出身者など、総勢19名を集めた一大プロジェクト「ニュー・エイジ・ステッパーズ」を企画。このアルバムはシャーウッドのOn-Uサウンドの記念すべき1枚目のリリースとなります。


New Age Steppers - Fade Away

ステッパーズの1曲目。レゲエをベースにしつつも様々なミュージシャンの参加によりカオスで刺激的なサウンドが生まれました。レゲエを聞き始めた最初のころはジャマイカのルーツレゲエやクリエイションレーベルは退屈に思っていたんですが、このアルバムだけは大好きでした。それはアリの掠れたボーカルの魅力と凝ったサウンドエフェクトでテクノ的な聞き方ができたからかもしれません。

ステッパーズは以降、2nd,3rdを発表します。これらの作品はアリのソロプジェクトという感を増していき、レゲエ色の強いものになっていきました。

ステッパーズでの活動ののちアリは憧れの地ジャマイカに渡り、音楽活動は途絶えてしまいます。近年、待望の活動再開を予見させましたが惜しくも他界。48歳でした。
アリの死後、制作途中だったステッパーズの4thが発表されました。


・Massive Attack
時代は飛んで80年代末~90年代初頭。ブリストルの地下クラブシーンは再び盛り上がっていました。
ニューヨーク発祥のヒップホップの誕生と大流行、デトロイト発祥のテクノ(特にKLFなどのアンビエントテクノ)の登場です。

これら新たなクラブミュージックとブリストルに古くからあるダブを組み合わせたグループがマッシヴアタックです。

彼らはもともと80年代初頭から「ワイルド・バンチ」という名でDJとして活動していたそうで、マキシマムジョイやシャーウッドなどとも面識があったそうです。そう考えるとポストパンクの波が落ち着いた80年代中~後期にもブリストルの音楽は途絶えていなかったのかもしれませんね。

マッシヴアタックのベースにあるのはヒップホップ。つまりサンプリングによる音楽です。

元からある音楽に新たなトラックを混合するという行為はダブの手法そのものであり、ブリストルのシーンに親和性の無いはずがありません。

彼らはブリストルに根付くダブ音響、それ以上にブリストルに根付く多様な音楽ジャンル/民族/思想を混合させるアイデアをもってクラブシーンに新たな音楽を創造しました。

ヒップホップのMCにトリップ感覚を与えるダブの音響を組み合わせた彼らの音楽はトリップ・ホップと呼ばれました(本人たちは否定していますが)。

(上)Massive Attack - Protection (下)Massive Attack Vs Mad Professor - Radiation Ruling The Nation
 
マッシヴアタックで一番好きなのは2ndのProtectionです。その1曲目、美しい「Protection」。まさにトリップ感覚。
そしてProtectionに対するレゲエ側からの回答。アルバムの一年後にはレゲエミュージシャンのマッド・プロフェッサーがProtectionをダブ・リミックスしたアルバム「No Protection」が発表されました。



・Portishead
トリップホップを一躍有名にしたのがポーティスヘッドです。よりヒップホップの歌モノ寄りになったサウンドは世界中で絶賛されます。レディオヘッドやビョークなどのイギリスの国民的ミュージシャンがトリップホップに影響された作品を発表していることからも、その衝撃がどれほどのものか窺い知れます。

Portishead - Mysterons

ポーティスヘッドが売れた理由はヨーロッパ的な陰影のあるメロディーとダークな雰囲気が英国人の気質に合っていたのかもしれませんね。マッシヴアタックはそういった大衆的な部分で一歩後れていたのかと。悲痛の叫びのようなテルミンが最高です。