20代外国人社員に聞いた サラリーマン文化の「謎」(前編)

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20代外国人社員に聞いた サラリーマン文化の「謎」(前編)

オフィスでも取引先でも当たり前に見かける外国人社員たち。だけど彼らは毎日、こんな「謎のルール」に悩んでいた!


日本企業に勤めはじめた若手外国人社員が困っていることは何だろうか。「日本以外の大学を卒業した20代」限定で、編集部員は外国人社員を訪ね歩いてみた。その結果得られた数々のエピソードは、日本企業の盲点を突くものばかり。

「会社にバレたらまずいから絶対匿名」を条件に教えてもらった秘話を、「就活」「研修」「職場」「上司」「制度」「同僚」の6つの切り口で公開する。

①就活の謎
「同じスーツを着たのに…」

「日本の『就活』に備えて、入念に準備しました。ちゃんとリクルートスーツを着て、周りの学生同様に礼儀正しく就活したのに、いつもグループ面接で落とされたのです」

悔しそうに回想するのは、香港出身で流通企業勤務の女性、ワンさん(仮名・以下同)。

「グループ面接のなかった今の会社に入ってから、理由がわかりました。あの場で周りの参加者を論破していたのがいけなかったのですね。私は日本の大学院で学んだディベートの能力を問われているのだと勘違いしていました」

彼女は、「面接で自己主張をしてはいけない」という企業側の暗黙のルールに気付けなかったため、最初の希望業界に入れなかったという。日本人学生の「就活仲間」と情報交換できずに就活を始めた人は、苦戦を余儀なくされたようだ。金融機関勤務の英国人男性、レスターさんも危ないところだったと語る。

「就活では、日本企業が求めるスキルがわからず戸惑いました。英国では、大学での専攻と、その分野でどんな成績を残したかが重視されます。ところが日本では、そのような自己PRをしても評価されず、選考で先に進めなかったのです。

焦って大学院で日本人の友人に尋ねたら驚きました。『学生時代熱中したこと』という問いに対して、専攻や勉強内容を答えてはいけないだなんて! アルバイトやサークルなど、授業以外で頑張ったことを答えないと評価されない、というのです。とても信じられませんでしたが、その通りにしたら内定を得られました。友人の言うことが正しかったのですね」

企業のほうも、どうして外国人社員を雇うのに日本的な基準を適用してしまうのか。通信会社勤務の台湾人女性、リンさんはこう指摘する。

「『グローバル化への対応』を掲げている企業でも、採用したら日本人顧客を相手にする部署に配属させるからでしょう。私もいきなり営業の前線に配属されました。ある顧客は私と話しもせず『日本語がわかる人を呼んで』と言ってきたり……。

『では私は、あなたが語った日本語のお願いを理解しなくてもいいのですね!』と言い返したくなってしまいましたよ。ともかく、入社して気付いたのですが、採用戦略を考える人と現場の間で意思疎通ができていないのです。だから採用プロセスは昔のままで、あとは現場任せ、となるのでは」

もちろん外国人用の採用枠を設けて日本人とは別に選考する企業もあるが、それは「外国人枠ではなくて英語枠。単に通訳を求めているだけではないですか」とリンさんは手厳しい。


②研修の謎
「役立つ話はないのですか?」

日本人にとっても退屈な座学の研修は、やはり評判が悪いようだ。香港出身のワンさんは失望を隠さない。

「私はリーダーシップ研修というのを受けさせてもらいました。楽しみにしていたのですが、始まってみたら一方的に創業者のエピソードを聞かされるだけ。プレゼンや交渉などの実用的な技術はいつになっても教えてもらえないまま、終わってしまいました」

メーカー勤務の韓国人男性ソンさんは、研修の目的は「洗脳」ではないかと疑っている。

「日本人でも外国人でも、新人だからって雑務はやりたくないでしょう? それをやらせるための精神教育が研修の目的ではないでしょうか。実際、会社の歴史をえんえんと講義されたあと、私の周りでは『この会社を好きになれない者は悪人だ』という雰囲気ができあがりました」

その雰囲気に同調しなかったソンさんは、さらに厳しい研修を受けさせられたという。

「何度も、人間としてあなたが間違っているところはどこですか、みたいな質問をされました。でも、経験は仕事を通じて積んでいくものでしょう。それなのに、会社の歴史を学ぶために多くの時間を費やすことには、今でも納得していません」

英国人のレスターさんも同様に、最初は研修の雰囲気に驚いたという。

「研修会場に講師が入ってきたら、新入社員が全員すぐに起立して、大声で挨拶を叫ぶ。あれにどういう意味があったのでしょう。そして、毎日、PCではなく手書きで日本語のレポートを書かされたのには本当に苦労しました」

ただし、後になって実感したメリットもあった。レスターさんは「おかげで仕事上必要な日本語の専門用語も早く身につけられました」という。

「新入社員はみんな経験も知識もありません。だけど研修期間は、普通に給料を出しながら会社員として育ててくれる。これはすごくいいことではないでしょうか。さらに私の場合は、配属されたらすぐに重要な仕事を任せてもらえました。研修のおかげで違和感なく仕事に入れたことには感謝しています」

こう語るレスターさんの会社のように、研修内容が実際の業務に直結している場合は、評価も高いようだ。逆に、ただ会社の理念を注入するだけの研修では、グローバル人材の育成から遠ざかってしまう。

韓国人のソンさんは、自分の場合は新卒ではなくて中途入社で入ったのがよかったと語り、こう指摘する。

「新卒で私が経験したような研修を受けた外国人社員は、退職後も日本企業の文化が体に染みついてしまい、他の国で仕事を探すのが難しかったと言っていました。研修の間は、責任ある仕事を経験できません。そのため、勤務期間はあっても、評価されるキャリアになっていないのです」


③職場の謎
「CCメール、多すぎ!」

配属された瞬間から、暗黙のルールの数々が外国人社員を悩ませる。まずは台湾人のリンさんに話してもらおう。

「最初に配属された職場では、月曜と金曜に休んではいけなかったようで、知らずに休むと怒られました。上司に『日本には〝空気を読む〞という言葉があってね……』と説教されたのですが、意味がわかりませんでしたので、つい『空気は吸うものでしょう!』と反論してしまいました。早出や残業も同じです。顧客の都合に合わせて時間外も働くことは理解できます。

でも、たとえば『自分が招集した会議に部下が全員揃っている』という上司の見栄のために会社にいなければいけないのは理解できません。ある課長が朝の出勤時刻前に『俺の課は誰も来てない!』と怒っていたことがありましたが、あれはおかしいですよね。定時になってからは上司の裁量、それまでの時間は私の裁量、でいいじゃないですか」

情報サービス系企業勤務のニュージーランド人男性、シンプソンさんは、「いじめ」の風土に苦言を呈する。

「備品を紛失した社員が、顔も知らない社員をCCに入れた同報メールで全社的に謝罪させられました。こんなふうに、まるで5歳児のような扱いを受ければ誰だってやる気をなくしますよ。社員は会社に対して時間を売っている関係なわけだから、そこにこんないじめが発生するのはおかしいです」

これには多くの日本人も同意するだろう。逆に日本人が見過ごしがちで、外国人の批判が集中した職場の習慣が、シンプソンさんも挙げた「CCメール」だ。代表して専門商社勤務のシンガポール人女性、ウォンさんが語る。

「問い合わせの答えに『ありがとうございます』というだけのメールが関係者全員に送信される。これって意味あるんですか? 関係する部署の上長をマナーとしてCCに入れるのは理解できます。だけど、なぜ部下や別部署の人間に不要な情報を送りつけるのでしょうか。最初は『責任転嫁するつもり?』と疑ってしまいました。それから『いつか役に立つかも』と思い直しましたが、5年経って、一通も参照することがなかった、つまり役に立たなかったことがわかりました」

過剰なメールの背景には、「成果よりも過程を大切にする風土がある」と指摘するのは、通信会社勤務の米国人男性、デイモンさんだ。

「みんな『頑張ろう』とばかり口にして、具体的な業務改善を後回しにしているように思えます。さらに、日本人の頑張る方向は、記録することにばかり向いているようです。業務であったことすべてをメールやメモに残そうとするのです。でもそれは不可能だし、より物事を複雑にする気がします。たまには適当にやってもいいのではないですか」

「20代外国人社員に聞いた サラリーマン文化の『謎』」後編

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