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「技術の日産」の看板が泣く「無資格検査問題」の深刻度

全日本車のコスト増を招く…?

問題の波紋が広がっている

日産自動車が、「型式認証制度」に基づく出荷前の完成検査を資格のない従業員に担当させていた問題で、不正発覚から10日が過ぎ、次第に波紋が広がっている。

同社が10月6日に提出した「リコール届出」によると、対象は、過去3年あまりの間に製造された38車種116万台。世界が注目する新型電気自動車(EV)「リーフ」を含む日産車のほか、いすず「エルフ」、スズキ「ランディ」、マツダ「ファミリアバン」、三菱「ランサーカーゴ」など、相手先ブランド供給(OEM)契約に基づいて他社が販売した車種も含まれていた。

注目すべきは、自動車の安全確保策の要の一つで、同一車種を大量生産(販売)する大手にだけ認められた簡易手続きである「型式認証制度」に影響しかねない点である。この制度は、自動車の貿易自由化交渉においても大きな意味を持っており、欧州連合(EU)や米国との間で国際標準化が大きな課題となっている。

今回の不祥事で、日本の現行制度が杜撰だとみなされれば、今年7月の日EU首脳会談で大筋合意した経済連携協定(EPA)の、妥結へ向けた詰めの協議に悪影響を与えかねない。

また、今回の問題をきっかけに、制度そのものを厳格化することになれば、新車の販売価格を押し上げる要因にもなりかねない。

市場には「車の製造にはさまざまな工程があり、工程ごとに厳格な検査をやれば、最終検査は形式上・書類上の問題に過ぎない。日産自動車を厳正に処罰すればコトは足りる」という声もある。しかし、「あれほど大規模なリコールを出した以上、制度の抜本的な見直し論が不可欠だ」という厳しい見方も根強い。

関係者は神経を尖らせずにはいられない状況になっている。

 

原因は「不明」なのに、「安全」と主張

問題発覚の端緒は、9月29日の国土交通省の発表だった。

9月18日から29日までの立ち入り検査によって、日産車体湘南工場・日産自動車追浜工場・日産車体九州・日産自動車九州の国内4工場で、「社内規定に基づき認定された者以外の者が、完成検査の一部を実施していたことを確認した」と公表したのである。加えて「日産からの報告」で、同様の問題が「日産栃木工場、日産車体京都工場を加えた(国内)全6工場」で存在したとの補足説明もあった。

日産自動車の西川広人社日産自動車の西川広人社長。photo by gettyimages

これに対する日産の情報開示はお粗末だった。国交省の発表と同じ日に最初の記者会見をしたものの、出席したのは部長クラス2人だけ。経営トップが欠席で、事態を軽視しているのではないかと記者たちの反感を買った。

しかも、2人が明確に説明できたのは、まだ販売・引き渡しされていない在庫状態の21車種6万台を登録停止にしたことぐらいで、最初の立ち入り検査から10日以上が経過していたにもかかわらず、準備不足は明らかだった。

日産側は、いつから不適切検査が行われていたか「不明」なうえ、検査をしたのが無資格者だったと認めながら、検査項目をすべて充足しているので「安全」と言い張った。無資格の検査担当者の資質が問われていることを理解していないその対応は、居合わせた記者の苛立ちを募らせた。

会見の席で、リコールの実施を明言できなかったのも問題だった。また、リコールの対象となる台数を当初「90万台程度」としながら、のちに「121万台」、さらには「116万台」へと説明が二転三転し、マスコミが騒ぐタネを提供したことも大きかった。西川広人社長が10月2日夕刻になって横浜本社で記者会見したものの、メディア側の不信解消にはほど遠かった。

西川社長は、問題の原因や存在を発見できなかった理由について、ことごとく「不明」としたうえ、「(自身は)国土交通省から指摘されるまでまったく認識していなかった」と発言した。「(問題の)ある部分は常態化していた」と認めながら、経営陣が把握できていないというのは、日産のガバナンス体制の致命的な欠陥とみなされた。

こうしたなかで、10月4日付の共同通信が「不適切検査を(適切と)偽装した疑い」を、NHKが5日朝のニュースで「(最終検査をした無資格従業員に)期間雇用社員まで入っていた」ことを相次いで報道。日産への社会的不信が増幅された。