2016年3月に開催された「東京モーターサイクルショー 2016」のホンダのブースで、“オフロードも走れるスクーター”というコンセプトで展示されていたマシンが製品化! 通常、こうしたコンセプトモデルは市販されるとしてもデザインや仕様が大きく変わってしまうことが多いが、ほぼそのままのカタチで出てきたことに驚いた。そんな、アグレッシブに遊べるスポーツスクーター「X-ADV」の実力に迫る!
X-ADVはスクーターでありながら、自動変速機(DCT)を搭載しているのが特徴のひとつ(一般的にスクーターは無段変速機(CVT)を採用していることが多い)。DCTはクラッチを切って変速する動作が自動化されているため、通常のバイクのように走行中に誰かが変速操作をしてくれているような感覚を味わえる。操作としては、アクセルを開けているだけなので一般的なスクーターと同じだが、アクセル操作に対してダイレクトに加速する“操っている感”はDCTのほうが明確だ。
実は、ホンダがDCTを装備したスクーターを手がけるのはX-ADVが初めてではない。2012年に「インテグラ」というモデルが開発され、2014年にモデルチェンジして現在まで販売されているが、大きな話題になることなく生産終了が発表された。そんなインテグラの後継モデルとして登場したのが、X-ADVだ。正直、X-ADVに勝算はあるのかと一抹の不安を覚えてしまうが、都会的なビッグスクーターテイストだったインテグラに対し、X-ADVはオフロード寄りのイメージを強めた“新型アドベンチャーモデル”とコンセプトを大きく変えてきた。販売価格もインテグラより30万円近くも高い設定となっており(メーカー希望小売価格:120万円~)、ハイグレードなパーツや専用設計の部品を使っていることは確か。ここまでホンダが力を入れてX-ADVを作り込む背景には、世界的に人気が高まっている“アドベンチャー系”モデルの存在がある。また、2016年に発売した大型オフロードバイク「アフリカツイン」で、DCTとアドベンチャーモデルの相性に手応えをつかんだこともX-ADVが誕生するきっかけとなったはずだ。
インテグラは2012年に初代モデル(669cc)が発売され、2014年に745ccエンジンの2代目に進化。写真は2015年カラーのインテグラ
X-ADVは、同社のアドベンチャー系マシンの中でも特に人気の高い「アフリカツイン」を思わせるような2灯式ライトを採用するなど、デザインもオフロード寄りにされた
アドベンチャー系モデルの特徴は、長距離移動を楽にしてくれる大排気量のエンジンと高速移動も視野に入れたカウルなどを装備しつつ、オフロードも走れる足回りを持ち、オンロードとオフロードのどちらでも快適に走れること。X-ADVが意識しているのも、そんなライディングだ。そのために、ホイールをオフロードテイストの強いスポークタイプとし、フロントは剛性の高いΦ41mmの倒立式、リアは路面追従性にすぐれたプロリンク式とすることで、荒れた路面での走破性を高めている。搭載されている745ccの直列2気筒エンジンの最高出力は40kW(54PS)/6250rpmと決して高くないが、最大トルクは68Nm(6.9kgfm)/4750rpmと厚めで、これに自動で変速を行う6速DCTを組み合わせることにより、スクーターではできないようなダイレクトな加速感を実現した。
17インチのスポークホイールと倒立式のフロントフォークを採用。サスペンションもストロークが長めになっている。ブレーキはラジアルマウントのダブルディスクだ
リアタイヤは15インチと小径化されているが、やはりスポークホイールを採用。アルミ製の剛性の高いスイングアームも搭載している
カバーに覆われて見えないが、エンジンは車体の中心部に搭載されている。基本設計はスクーターよりも普通のバイクに近く、重心のバランスもいい
DCTの変速モードは、右手側のボタンで切り替える。発進の際には「D/S」と記された部分を押してギアを入れる操作が必要
変速は基本的に自動で行われるが、左手側の「+」レバーや親指で押す「-」ボタンで任意の変速も可能
シートはスクーター的な広い座面。真ん中に設けられた突起に引っかけるように座ると、車体との一体感が高まる
6段階に調整できるスクリーンも快適性を高めてくれる装備。写真のようにもっとも上げた状態にすると、高速移動中も上体に風が当たらず負担が少ない
メーターは大きくて視認性にすぐれる液晶モニター式。変速モードや入っているギア、ガソリン残量などから日時まで豊富な情報が表示される
マフラーのサイレンサーのサイズは大きくないが、音量はしっかり抑制されている
ラゲッジスペースは21Lの容量が確保されており、フルフェイスのヘルメットも余裕をもって入れられる
なお、試乗車にはフォグランプやサイドバンパーなどのオプションが装着されていた。通常は装備されていない
いよいよ、X-ADVでのライディングに出発! またがってみると、シート高は790mmとそれなりに高さがあり、車幅も広いため、足つきはそれほどよくない。しかし、車体のバランスがいいので片足で支えても不安感はほとんど感じないだろう。そして、キーを携帯していればイグニションのオン/オフ、ハンドルロックの解除などが行える「Honda SMART Keyシステム」が採用されているので、鍵をポケットから出したり、鍵穴に差す手間もなく、さっそうと発進できる。
車体サイズは910(全幅)×2,230(全長)×1,345(全高)mmで、重量は238kg。身長175cmの筆者でも、両足のつまさきがつく程度だが、走り出してしまえばやや腰高なライディングポジションも気にならない
イグニッションは車体中央部のノブを回して操作。イモビライザー機能も搭載されている
走り出して、まず驚いたのが発進トルクの太さ。決して軽くはない車体をドンッと押し出すような力強さがあり、信号待ちからのダッシュ力はハンパではない。いったん停止した状態から法定速度までの加速は、同じ排気量のスポーツモデルと比較しても上位にランクインできるのではないだろうか。発進したあとは、DCTに変速をまかせ、ただアクセルを開けて走るだけでいい。もっと速さがほしい時には、エンジンを高速回転まで引っぱって変速してくれる「S」モードに入れれば、スポーティーな走りも味わえる。もちろん、「S」モードにしなくとも標準の「D」モードでも余裕を持って交通の流れをリード可能。高速道路にも十分対応でき、追い越しもスムーズ。左手側のボタンで任意のタイミングで変速しても、そのあとはアクセル操作していれば自動変速モードに戻るのはかなり快適だ。
アクセルの開け始めのダッシュ力はかなり強烈。この加速が味わえると思うと、日々の通勤なども楽しくなりそうなほどだ
スクーターのような見た目に反してバンク角もかなりあるので、コーナーも得意だったりする。ニーグリップする部分がなく、踏み込むべきステップもない車体は何をきっかけに寝かせばいいのか一瞬迷うかもしれないが、難しいことを考えずにシートに体を預けてバイクと一緒に倒れていけばOK。
コーナーでは意外とバイクとの一体感を感じられた
ここまでは幹線道路をライディングしてきたが、“オフロードも走れるスクーター”とうたう以上、オフロードも走行しておかねばならない。とはいえ、タイヤは少しスリットは多いもののオンロードタイヤなので、あまり激しい場所は走らないほうがよさそうだ。そこで、選んだのは未舗装の林道。土が多い部分と砂利が敷き詰められた部分があり、郊外までツーリングに行けば出くわすことが多いタイプの路面だ。
土の路面に石がゴロゴロしたような路面を走ってみた
タイヤのこともあり、始めはおそるおそる走っていたが、だんだんと“意外とイケる”ことに気付く。大きな石や段差に乗り上げると強めの衝撃が伝わってくるが、それ以外は特に問題なく走ることができた。オフロードマシンのように車体を大きく倒し込むことはできないが、寝かせたり、アクセルを開けても安定している。ブレーキをガツンとかけなれば、タイヤはしっかりと砂利の路面をつかんで減速してくれるので不安はない。そして、トルクが太いので、軽く寝かせた状態から少しだけ余計にアクセルを開けるとリアタイヤが滑り出してくれる。ニーグリップができない車体はタイヤが滑ったら怖そうなものだが、挙動が穏やかなのでむしろ楽しいと感じるほど。コーナーの立ち上がりで、少しリアを流しながらアクセルを開けていく感覚はかなり面白く、予定よりも長時間走り回ってしまった。
砂利の路面になる頃には車体の挙動にも慣れ、舗装路に出た時は「もう終わってしまうのか」と残念さを感じるほどオフロード走行を楽しめた
スクータータイプのボディにDCTを搭載し、アドベンチャーテイストのデザインとオフロードっぽい足回りなのにタイヤはオンロード仕様のX-ADVは、スクーターらしからぬ走りができるのでは? とワクワクした気持ちにもなるが、いっぽうで、どっちつかずの“中途半端なバイク”とも思われかねない。今回、実際に乗ってみて感じたのは、オンロードもオフロードも予想以上に堪能できるということ。街中で交通の流れをリードできる加速力、ワインディングを堪能できるバイクとの一体感、そして、オフロードを流す感覚もクセになるおもしろさがある。
普段はユーティリティーの高さを生かして通勤や街乗りに使い、休日はちょっと遠出して田舎道をツーリングに出かける。これは、多くのバイク乗りがイメージする使い方だが、そんなシーンにX-ADVはピッタリ。しかも、すべてをただ“こなす”だけでなく、積極的に”楽しむ”ことができるのがいい。あえて欠点をあげるとすれば、バイクまかせで快適に走れてしまうのでバイクを操る技術は上達しなさそうだということくらいだろうか。
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。
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