テクノロジーの進歩がライフスタイルや文化に変化を与えるように、音楽も機材の進化に伴って劇的に変化する側面があります。例えばマーシャルアンプとレスポールの組み合わせでハードロックが生まれたりとかですが...
初期のシンセサイザーは、あくまでも音響の実験装置として開発されましたが、キーボードを付けることによって演奏楽器へと変化。ポピュラー音楽のフィールドではジョージ・ハリスンがビートルズの「アビーロード」で使用してポピュラリティーを得ましたが、普及に際しての最大の功労者はキース・エマーソン。
代名詞はミニ・ムーグ。こんなでかい機材を実際のライブの場に持ち込んだというのがそもそも凄い事ではありますが、実際に使っている音色は攻撃的でロックとしか言いようのない音色。例えば「タルカス」とか「展覧会の絵」の古城とかですが、後進のプレイヤーにも多大な影響を与えます。ことミニームーグの音色のバリエーションは全部エマーソンが作ったと言っても過言ではありません。
しかし当時のムーグは単音シンセ。ただしVCOという発信装置が3系統存在していたので、それぞれの音程をずらして和音を出すという力技もやっております。というのが「タルカス」の後半部「アクアタルカス」
エマーソン本人の動画ではなく申し訳無いのですが、こんな面倒なコントロールしながら弾いていたわけですね。ライブでもこれをやっていたわけで、見せ場ではあったのでしょうがフラストレーションも同時に溜まるのは想像がつきます。ましてミニムーグは高温や湿気に弱いので実際にはトラブルも多々あったでしょう。
いちいちこんな面倒のこともしたくないのと、単純に和音を出したいという欲求もあったのでしょう。「恐怖の頭脳改革」ではポリムーグが登場。ついにポリフォニック・シンセ投入です。が、思ったような効果は得られずというか、この機械、シンセの最大の特徴であるポルタメントが使えないのが難点。音もハモンドオルガンやミニムーグの方が分厚いので、継続使用には至らず。
そして時代は変わりELPの約2年の休止期間を経て投入したのが、「YAMAHA GX-1」。
実はこれ、エレクトーンでして、そもそもエレクトーンの仕組みを説明すのが面倒ですが、簡単にいうと元々プリセットしてある音色を合成して音作りをしていくのがエレクトーンで、一から音色を作っていくのがシンセサイザーという解釈でよろしいかと。
野球場とかで聴くエレクトーンはストリングスと木管を混ぜたような柔らかい音色が主流ですが、プレイヤーとしてはもうちょっと煌びやかな音で弾きたかったのでしょう。で出来たのがGXー1で上の動画のような音色が、エレクトーンプレイヤー側からのアプローチ。
GX-1は発信の原理がシンセと同じで、ポルタメントも使えるとあって、当時はドリーム・マシーンと呼ばれていました。しかも当時の価格で700万円。家買えます。
ポピュラー音楽側での使用例というか所有者は、エマーソンとスティービー・ワンダー、ジョン・ポール・ジョーンズという、どう見ても金に困っていない人たち。ただ、あまり過激な使い方はしておらず、スティービーはストリングス代わり。
ジョンジーはメロトロンの代わりにGX-1をステージに投入。カシミールとか天国への階段もこれで弾いてます。スタジオで効果を発揮をしているのは、ラストアルバムのこの曲。
そして御大キース・エマーソンはというと、モントリオール・オリンピックのテーマ曲となった「庶民のファンファーレ」
しかし寒そうですね。当時このプロモを見て、グレッグ・レイクの太り具合に唖然としたものですが、更にそれ以上太る姿を見ることになろうとは...
正直GX-1の効果はというとクエスチョンマークがつきますが、まぁ音は太いのは間違いない。というかリズム隊がLとPなので、薄っぺらい上物がのっかっても格好いいのですが。ちなみこの曲はスタジオテイクにも関わらず1発録り。しかも大喧嘩の最中のテイクだそうです。この迫力はそれが原因か!
鍵盤が3段になっているので、エマーソンにとっては使いやすかったんでしょうが、この当時GX-1に変わって、エレクトーンの延長では無いシンセの最高機種とし「YAMHA CS-80」が発売。価格は120万円。車買えました。
こちらのユーザーはエディー・ジョブソン、TOTOのスティーヴ・ポーカロ、ドン・エイリーなど。
CS80といえばこれ!というのがUKの「アラスカ」
こっちの方がGX-1より音が分厚いような気もします。
使い勝手はどっちも悪そうで、曲ごとの音色のチェンジに時間がかかったりするなど欠点は多数あるようですが、まぁ過渡期です。8音ポリで120万円の時代ですから。
話は戻って、GX-1メインの楽器となったエマーソンの機材はライヴでも大幅に縮小。ハモンドオルガンも隅に追いやれます。700万円出したんで元は取らないと、ということでしょうか。そして「庶民のファンファーレ」を含む「ELP四部作」からアウトテイク集の「作品第二番」を挟んで、満をじして発表したのが問題作「ラブ・ビーチ」!!
タイトルからダメダメですが、陽気なバハマで録っただけあるというか、レコード会社の要請なんでしょうが、なんとも腑抜けたアルバムになってしまいました。売れ線狙うのならプロデューサーつけて整理した方が良かったんでしょうが、ポップなアプローチも中途半端。一斉にファンは離れる結果に...
再発CDで市川哲史氏がライナーを書いていたのですが、全く推薦文になっていないというか、ダメ前提の解説でした。と誰しもが断言する「駄作」なのですが、個人的には実は結構な頻度で聴きたくなります。
この当時は、どんなバンドであろうとヒット曲を求められた時期。ツェッペリンとかの大物はともかくELPも例外ではなかったんでしょう。やりすぎましたけど。
例えばイエスやジェネシスなんかも、だんだんと曲が短くなってくる時期で複雑な構成は避ける傾向になってきます。ただし、イエスもジェネシスも元々は曲中の成分はポップなものが多く、アラン・ホワイトとフィル・コリンズというコンテンポラリーなものにも対応できるドラマーが居たおかげで、あまり大きく変化したという感じは受けなかったのでしょう。
ただしELPのドラマーはカール・パーマー! どんなポップな曲でもエマーソンにシンコペーションしてくる癖は抜けず、おかずも派手。そしてリズムは怪しいときたもんで、どうにも曲はギクシャクしてしまいます。
あと個人的に問題だと思っているのは、グレッグ・レイクがほとんどベースを弾いていない件。メイン楽器はエレキギター! ベースパートはGX-1にほとんど任せています。
寂しい!!
主役のエマーソンは後半では弾きまくりぐらいですが、チョイスしている音色を冨田勲みたいなソフトな音色。これもレコード会社の要請だったのか!
唯一らしいのはこの曲、キャナリオ。
GX-1の音色の見本市みたいな曲ですが、この曲が唯一以前のELPらしい曲。出来ればハモンドとミニ・ムーグで演奏して欲しいところです。
ラストの「将校と紳士の回顧録」はプログレ・テイストの濃い組曲形式ですが、パーツは良いものの全体としては薄味で印象に残らず。
個人的にはGX-1でどんな過激な音を出すんだろうという興味があったのですが、こんな感じです。
なんかダラダラと書いてしまいましたが、たまに聴きたくなります。特にタイトル曲。失敗作なんでしょうが、個人的には愛すべきアルバムと言いますか、ギクシャクして融通の利かない感じが好きなんですね。ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」より全然好きです。人には自信を持って薦めれませんけど。
それで GX-1ですが、これ以降は使う人もいない楽器になるわけですが、それはDX-7という新たなテクノロジーを備えた機材が登場したからに他ならないのですが、その話はまた改めて。いかに私がDX-7が嫌いだったのか語ろうと思います。
- アーティスト: エマーソン、レイク&パーマー,グレッグ・レイク,キース・エマーソン,カール・パーマー
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2012/05/23
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