かけがえない……
●
社員が1人、自殺をした。
公式の窓口として、多忙だが充実した日々を送っていた男である。
彼は、あのアニメを心から愛していた。
だから、連中による執拗な電凸や、営業妨害に等しいメール・書き込み等にも、真摯に対応せざるを得なかったのだ。
そのせいで心が壊れてしまった、のがどうかは定かではない。上層部から「君が死んでくれれば全て丸く収まる」的な事を言われたのかも知れない。誰かに何か言われたわけでもなく、ただ過剰に責任を感じてしまったのかも知れない。
とにかく、彼は死んだ。
同僚の私が、責任を持って証言する。彼は、監督の降板には一切関わっていない。
そんな相手に、天罰を喰らわせた気分にでもなっているのだろう。あの連中は、お祭り騒ぎの真っ最中である。
この調子で社長も追い込め。声優の盾など使う会社は、社員1人残らず死んでしまえばいい。
そんな感じだ。
ついに人死にが出てしまった。それが一体どういう事なのか、あの連中は全く理解していない。
第二期の制作は、もはや絶望的だ。第一期の封印にすら、繋がりかねない事態である。
まるで溜め息のように、私はタバコの煙を吐いた。
都内某所の駅前広場。喫煙スペースで私は今ぼんやりと、通行人の往来を見つめている。
その中に私はふと、奇妙なものたちの姿を見つけた。
2人。あるいは2匹、2体と言うべきか。
複雑骨折をしていながら無理矢理に身体を動かしている、かのような歩き方で危なっかしく通行人を避け続ける、人型の何かが2つ。
歪んだ人間、としか言いようのない姿であった。
エドヴァルド・ムンクの有名な絵画を思わせる奇怪なものが2体、それぞれ信じられない服装をしている。
片方は、赤い服を着て羽根付きの帽子を被り、大きめのリュックサックを背負っていた。その手に握られた松明が、明々と剥き出しの炎を燃やしている。
もう片方は、袖のないブラウスを着て毛皮のスカートを穿き、そこから獣の尻尾をふっさりと飛び出させていた。頭でも、獣の耳が落ち着きなく揺れている。
「……どこ……ここ……」
帽子を被った方が、声を発した。
日本語のようだが、言葉ではない。会話など出来ない。獣が唸るようなものだ、と私は感じた。
「なんでぇえええええええ」
叫びに合わせて、松明が掲げられ、激しく燃え上がる。
轟音を立てて巨大化した炎が、太陽のプロミネンスの如く伸びて荒れ狂い、通行人たちを焼き払った。
大量の遺灰が、飛散した。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々に、もう片方が襲いかかる。耳を震わせて尻尾を揺らし、絶叫のような哄笑のようなものを発しながら。
「ふひ、うひひひひひひ、あーはぁあああああああ」
人間の笑い、のようでもあるが、やはり獣の声だ。会話可能な生物の発声ではない。
とにかく通行人たちが、ことごとく引き裂かれ、砕け散ってゆく。
獣の耳と尻尾を備えた何かが、跳躍・疾駆しながら殺戮を行っていた。複雑骨折をしたかのように歪んだ四肢が、凄まじい俊敏さと怪力を発揮して人体を破壊する。
阿鼻叫喚の地獄と化した駅前広場に、私は呆然と佇んでいた。
奇声を発しながら、黒焦げあるいは血まみれの肉片をぶちまけ続ける2体の何か。
それらに向かって私は、届かぬ言葉を発していた。
「お前……なのか……」
人の純粋な思いが、おぞましい「妖」に変わる。
決して珍しい事ではないと、私の知り合いの覚者が言っていた。
「お前も……そうか、やり場のない思いを抱えていたんだな……」
誰が悪い、という問題ではない。悪者などいない。犯人など、いないのだ。
ぶつける相手のいない、やり場のない思いを抱えて渦巻かせたまま、彼は自ら命を絶った。
やり場のない思いだけが、この世に残ってしまったのだ。
それが妖と成って今、生前の彼が最も望まなかった光景を作り出している。
「やめろ……やめてくれ……」
今すぐ逃げなければ、私も死ぬ。そんな事はしかし、どうでも良かった。
「お前、駄目だろ……この子たちに、こんな事させちゃ……駄目だろうが……止めてくれ、誰か……助けてくれえぇ……」
社員が1人、自殺をした。
公式の窓口として、多忙だが充実した日々を送っていた男である。
彼は、あのアニメを心から愛していた。
だから、連中による執拗な電凸や、営業妨害に等しいメール・書き込み等にも、真摯に対応せざるを得なかったのだ。
そのせいで心が壊れてしまった、のがどうかは定かではない。上層部から「君が死んでくれれば全て丸く収まる」的な事を言われたのかも知れない。誰かに何か言われたわけでもなく、ただ過剰に責任を感じてしまったのかも知れない。
とにかく、彼は死んだ。
同僚の私が、責任を持って証言する。彼は、監督の降板には一切関わっていない。
そんな相手に、天罰を喰らわせた気分にでもなっているのだろう。あの連中は、お祭り騒ぎの真っ最中である。
この調子で社長も追い込め。声優の盾など使う会社は、社員1人残らず死んでしまえばいい。
そんな感じだ。
ついに人死にが出てしまった。それが一体どういう事なのか、あの連中は全く理解していない。
第二期の制作は、もはや絶望的だ。第一期の封印にすら、繋がりかねない事態である。
まるで溜め息のように、私はタバコの煙を吐いた。
都内某所の駅前広場。喫煙スペースで私は今ぼんやりと、通行人の往来を見つめている。
その中に私はふと、奇妙なものたちの姿を見つけた。
2人。あるいは2匹、2体と言うべきか。
複雑骨折をしていながら無理矢理に身体を動かしている、かのような歩き方で危なっかしく通行人を避け続ける、人型の何かが2つ。
歪んだ人間、としか言いようのない姿であった。
エドヴァルド・ムンクの有名な絵画を思わせる奇怪なものが2体、それぞれ信じられない服装をしている。
片方は、赤い服を着て羽根付きの帽子を被り、大きめのリュックサックを背負っていた。その手に握られた松明が、明々と剥き出しの炎を燃やしている。
もう片方は、袖のないブラウスを着て毛皮のスカートを穿き、そこから獣の尻尾をふっさりと飛び出させていた。頭でも、獣の耳が落ち着きなく揺れている。
「……どこ……ここ……」
帽子を被った方が、声を発した。
日本語のようだが、言葉ではない。会話など出来ない。獣が唸るようなものだ、と私は感じた。
「なんでぇえええええええ」
叫びに合わせて、松明が掲げられ、激しく燃え上がる。
轟音を立てて巨大化した炎が、太陽のプロミネンスの如く伸びて荒れ狂い、通行人たちを焼き払った。
大量の遺灰が、飛散した。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々に、もう片方が襲いかかる。耳を震わせて尻尾を揺らし、絶叫のような哄笑のようなものを発しながら。
「ふひ、うひひひひひひ、あーはぁあああああああ」
人間の笑い、のようでもあるが、やはり獣の声だ。会話可能な生物の発声ではない。
とにかく通行人たちが、ことごとく引き裂かれ、砕け散ってゆく。
獣の耳と尻尾を備えた何かが、跳躍・疾駆しながら殺戮を行っていた。複雑骨折をしたかのように歪んだ四肢が、凄まじい俊敏さと怪力を発揮して人体を破壊する。
阿鼻叫喚の地獄と化した駅前広場に、私は呆然と佇んでいた。
奇声を発しながら、黒焦げあるいは血まみれの肉片をぶちまけ続ける2体の何か。
それらに向かって私は、届かぬ言葉を発していた。
「お前……なのか……」
人の純粋な思いが、おぞましい「妖」に変わる。
決して珍しい事ではないと、私の知り合いの覚者が言っていた。
「お前も……そうか、やり場のない思いを抱えていたんだな……」
誰が悪い、という問題ではない。悪者などいない。犯人など、いないのだ。
ぶつける相手のいない、やり場のない思いを抱えて渦巻かせたまま、彼は自ら命を絶った。
やり場のない思いだけが、この世に残ってしまったのだ。
それが妖と成って今、生前の彼が最も望まなかった光景を作り出している。
「やめろ……やめてくれ……」
今すぐ逃げなければ、私も死ぬ。そんな事はしかし、どうでも良かった。
「お前、駄目だろ……この子たちに、こんな事させちゃ……駄目だろうが……止めてくれ、誰か……助けてくれえぇ……」
■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回の敵は、自殺した某社社員の残留想念が心霊系の妖(ランク2)と化したもので、詳細は以下の通り。
●松明を持った少女
後衛。攻撃手段は炎(特遠列)で、BS「火傷」の他、獣憑の方に対してのみ恐怖心に基づく「呪い」が付きます。
●獣の少女
前衛。攻撃手段は、敏捷性と怪力による格闘戦(特近単)のみ。
この2体が、都内某所の駅前広場で破壊と殺戮を行っているところへ、皆様に駆けつけていただく形となります。
当然、2体とも倒していただかなければなりませんが、どちらか片方を倒せば、もう片方は自動的に消滅します。
時間帯は昼。周囲では通行人たちが恐慌に陥っていますが、戦闘におけるルール的な支障にはなりません。
それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
相談中
相談中
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
依頼出発日時
2017年10月10日08:30
2017年10月10日08:30
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
0/6
0/6
納品予定日
2017年10月18日
2017年10月18日
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