長嶋茂雄さんが巨人の監督だったころ、「田尾君、今年のタイガースはどうかな?」と聞かれたことがある。「いやー、今年の阪神はだめです。Aクラスは無理です」と答えると、長嶋さんは「そうか。それじゃあ困るんだ。やっぱりタイガースが元気じゃなかったら、プロ野球は活気が出ないんだ」と言った。
相手チームが弱いと知れば「よかった」と思うのが並の監督だが、長嶋さんはそうではなく、もう一つ上を考えていた。球界全体の盛り上がりのためには相手チームも強くないといけない。そういうことを当時の中日球団は考えられなかったのだろう。「自分のところさえ」という独善的な考えは、たとえ地元愛の強い中日ファンでも受け入れられるものではなかったはずだ。
チーム成績も入場者数も最下位のヤクルトの方がファンの熱気を感じられる=共同
チームの最大の目標は勝つことだが「勝ちさえすればいい」という考えだと、負けたときに何もファンに提供できないことになる。ひいきのチームが低迷し、負けるかもしれないと思っても「あの選手が見たい」「この選手を応援したい」という思いがあるから球場に足を運ぶわけで、そうでなければ最下位ヤクルトの本拠地である神宮球場にあれだけの数のお客さんが入るわけがない。
選手の育成でも中日は後手に回った。かつての主力では井端弘和や和田一浩がチームを去り、荒木雅博や森野将彦は力が衰え、この数年でレギュラーは様変わりした。そこで彼らに代わる新しい芽がどれだけ育っているかとなると、ぐんと伸びた印象の選手はいない。そのためか、今では「中日にだけは行きたくない」というアマチュアの選手がいると聞く。過度な情報統制などでチームに満ちていた閉鎖的な体質は改善されつつあるとはいえ、次代を担う選手にもそっぽを向かれる状態が続くようなら、この先ファン離れが一層進む気がしてならない。
私は阪神に在籍していた1991年に現役を引退したが、当時の阪神は強くなるための努力を全くといっていいほどしていなかった。フロントに文句を言わない人を監督に呼んでいたくらいで、最下位になるのも当然だった。ところが、99年に野村克也さんを監督に招くと知ったとき、球団が変わったと感じた。ある意味、球界で一番扱いにくい人を監督に呼んだということは、球団が本気で「勝ちたい」と思い始めた証し。その後に星野仙一さんを監督に招いてチームを強くし、「ダメ虎」のレッテルをはがしてみせたのはご承知の通りだ。
■ファンとの幸せな関係取り戻そう
球団は親会社のものと思ったら大間違い。半分はそうだとしても、もう半分はファンの人のものだという意識を持っていないと、いい組織はつくれない。チームづくり、球団づくりで指標にしたいのは、ファンが何を望んでいるかということ。様々な利害に目がいく球団の人と違って、純粋に応援してくれている人たちのニーズというのは正しい方向を向いているものだ。「強竜軍団」だったころのチームとファンの幸せな関係を取り戻すべく、中日球団には奮起を望みたい。
(野球評論家)