デザイナーとWeb発信の悩ましい関係

最近このトピックを見かけることが多いのと、以前から気になっていたので書いてみます。セルフブランディングの重要性が叫ばれて久しいですが、これだけコンテンツが溢れる世の中で自分を「立てる」為にやっていることはありますか?特にデジタルプロダクトデザイナーにとって、とても悩ましいのが実績の発信です。

デザイナーであれば当然、「自分がデザインしたもの」が実績として評価されるべきですが、なかなかそうはいかないと感じることが良くあります。例えばサービスのデザインの場合、以下のような事項がセルフブランディングを難しくしていると感じます。

  • 立ち上げから終了まで関わり続けられることはあまりなく、また大勢の人が関わってユーザー体験を作り上げて行くものなので、どこからどこまでが自分のデザインなのかが非常に曖昧
  • 納品して終わりではなく、生きたサービスとして中長期に渡って更新され続けていく存在なので「これが私の作品です」とは言いづらく、ポートフォリオサイトを随時更新し続けるのもかなりの労力が必要
  • かつてよりはデザインへの理解が進んだとはいえ、目に見えない設計や全体最適としてのデザインを非デザイナーに理解してもらうのは大変難しい

すると自ずとWeb上でアピール出来るのは、

  • サービスや社名のブランド
  • 関わった勉強会
  • 個人制作
  • デザインに関するトピックのシェア

などに偏りがちだと感じます。この中で正面切ってデザインで勝負しているのは、「個人制作」のみですね。デザイナーとはいったい。。


話は変わりますが、かつて僕はこんな記事を書いていました。

これらの記事はそれなりに評価されまして、ラジオ番組のテーマになりゲスト出演したりUI Crunchという勉強会のテーマになったりしてお呼ばれされましたし、個人制作依頼もそこそこありました。それはそれでかけがえのない経験で、無名な僕を取り上げてくれて非常に感謝しているのですが。ただ、僕はデザイナーです。テキストで評価されているのが非常に危険な状態だと感じていました。デザイナーはデザインを作るのが仕事なのに、このままだと調子に乗ってただの批評家みたいになってしまうな、という危惧がありました。いや、既にそうなっていたかもしれません。

ですからある時から、ブログを書くのは封印してしまいました。文章を書いてバズらせて気持ち良くなっている自分に嫌悪感が出てきてしまった。その間に、ものづくりに専念することにして、以下のようなことをやってきました。

  • アプリ運営会社のWebサイト/ネイティブアプリ/Webアプリのデザイン全面リニューアル
  • 起業のお手伝い
  • Swiftを覚えてiPadアプリを作る
  • 自サイトのロゴとフォントを作る
  • 自サイトをVueJS+Jekyll+WebGLで作る
  • 事業部のリードデザイナー(イマココ)

自分ではそこそこの実績だと思っていて、Webにも制作情報を掲載しているのですが、恐ろしいことにブログでの発信をやめた途端、世の中で自分の存在感がどんどん無くなっていきました。ここで感じるのは「そこそこの実績」程度では見向きもされないデザイナーという職業のシビアさと、情報発信がいかに大切か(おいしいか)ということです。デザインに限らず、ナレッジ共有・教育は大変な需要があります。少なくとも、テキストで情報発信するのと、デザインを作り上げるのでは、前者の方がはるかにコストパフォーマンスに優れています。単純に試行回数が多いので当たる確率も高く、当たればなんとなくデザイナーとして箔がつくといった具合です。また冷静に考えると、上記の仕事の一部はブログがあったからこそ依頼されたものだったりもします。

まとめると、まずデザインという分野そのものがこれまで以上に複雑化していること。それから情報発信のコストに対するリターンの高さ。この2点が、デザイナーがデザインでセルフブランディングする事を難しくしており、その結果「デザインを教える」という観点に走りがちになってしまっているのではないかと思います。逆に言うと、デザインのスキルを磨く時間を削ってでも発信に力を入れるのがこれからのデザイナーの当たり前なのかもしれません。


さて、賢明な方ならお気づきでしょうが、そういうことを指摘しているこの記事もデザインのアウトプットではないですね。テキストです。そして、Mediumには独自ドメインを当てることにしました。要するに、ブログを再開するということです。このようなことになったのは、すべて自分のデザイン力不足が原因です。これからもよろしくお願いします。