◆アウトレイジ最終章 感想◆
評価/オススメ:★★★★★
(3作品を通しての評価になります)
この作品ジャンルは?:クライムサスペンス
オススメしたい人は?:全ての働くサラリーマン
印象を一言で?:今作は『ドラマ』・・・だとっ。
グロテスクですか?:今回は北野バイオレンスが極めて控えめです(注意:過去2作比)
それでもやることはやっています(笑)
過去の作品は観るべき?:「アウトレイジ」、「アウトレイジ・ビヨンド」あっての、アウトレイジ最終章です。是非まだご覧になっていない方は地上波などで描写がカットされていない完全版を鑑賞してから足を運ばれると良いでしょう。
◆synopsis◆
山王会と花菱会の巨大抗争後、大友は韓国に渡り、日韓を牛耳るフィクサー張会長の下にいた。
そんな折、取引のために韓国に来た花菱会幹部の花田がトラブルを起こし、張会長の手下を殺してしまう。
これを発端として国際的フィクサー・張グループと巨大暴力団組織・花菱会が一触即発の状態となってしまう。
発端となった事件に激怒した大友は、全ての因縁に決着をつけるべく日本に戻ってくる。
時を同じくして、その花菱会では内紛が勃発していた・・・
※公式HPより
※ネタバレ防止に付き、一部文月加筆訂正
◆comment◆
本日、2017/10/7より公開です。
文月はアウトレイジ、アウトレイジ・ビヨンドともに年に数回は観直すほどにこのシリーズが好きなのですが・・・・
・・・・うむむ!?
本作は『怒号の応酬』も『北野バイオレンス』もとても控えめ。
複雑に交錯したドロドロの人間関係の中で誰がいつ殺害されてしまうのか?
そういう方面でとてもハラハラしてしまう、シリアスな『ドラマ』になっていました。
「やぁってやっから、道具持って来いコノヤロ!」
「口開けこの!治してやっからよ」
「指出せオラーーーーー!バズン!!!」
「舌出せ!出せって言ってんだろ!」
「やれ!チンピラ!撃てよ!」
「オイ、舟木。テメェ同じ目に遭わせてやっからよぉ、見とけオラ!ぎゅいーーん!」
「野球しよっか?」
など、伝説的な台詞と極端なまでの暴力描写で世間を騒がせたアウトレイジ。
この台詞で、シーンが連動されたア・ナ・タ。
フリークですねぇ。
アウトレイジ、アウトレイジ・ビヨンドは言ってみれば『バイオレンス』を娯楽にしてしまった北野監督独特のブラック・ユーモアたっぷりの作品でした。
わたしがこの作品をものすごく好きなのは、
「組織、社会、コミュニティ」
という、利害や力関係が発生する場所で生きなければいけない人の悲哀が凝縮されているからです。
つまり、アウトレイジという作品は『ヤクザ』というアイコンに収められた『社会風刺』なのです。
どこか自分とは関係ない場所の話ではないのですぞ。
キャッチコピーの「全員悪人」というのは実はすごく深くて、
「観ているあなたは果たして善人ですか?」と問いかけられているのです。
黙々と上からの、そして組織から受けている義理を通す人。
自分の出世や責任逃れのために、誰かを利用する人。
笑顔で接しておきながら、実は裏で別のやつと繋がっている人。
上の指示という言葉を大義名分にしてなんでもやる人。
虎視眈々と相手を蹴落とすことを狙っている人、狙われている人。
そして犬ころの様に誰かを慕い、信じてついてくる人。
このアウトレイジ3部作に登場する人物はもの凄くコミカルにデフォルメされた悪人達です。
そして、自分を、自分のまわりをよーーーーく、目を凝らして、冷静に見つめてください。
多かれ少なかれ、登場人物のキャラクターや、立ち振舞い、考え方、価値観が重なって見えませんか?
いやいや、そんなやつはいないよ。
そう言える人が果たして何人いることやら。
これは皮肉でもなんでもなく『生きていくって、そういうもの』なのだとわたしたちにノックしている北野武監督からのメッセージなのです。
彼らの放つ怒号、応酬、暴力が観ている側をどこかスッキリさせるのは、取りも直さず
普段自分が抑えてできないことを代わりにやってくれているからですわ。きっと。
――そんな訳で、最終章と銘を打たれた本作ではどれだけ「スッキリ」できるのか(オイオイ(汗))を期待してスクリーンに向かったのですが・・・・
本作は暴力ではなく
「群れを離れた一匹の狼(=大友)の悲哀」
がメインのお話になっていました。
「群れを離れた一匹の狼(=大友)の悲哀」
がメインのお話になっていました。
あんまり痛くないので、門戸が広まったかも(笑)
北野監督が「バラバラに見えているけど、3つでひとつの作品」と公開前のインタビューで答えていました。
本作のメインテーマは「ケジメ」なのです。
起承転結の「結」
そして見えてきた「大友」という男は、過去の北野作品で描かれた「不器用だけど懸命に生きる男」達と共通している、かっこいい男だったのです。
まず、本作を楽しむためには登場人物達が置かれた状況と主要な人間模様を知ったほうが良いでしょう。
◆大友が属する「張グループ」
(画像クリックで拡大されます)
◆そして今作で敵対するご存知「花菱会」
(画像クリックで拡大されます)
※ちなみに、ピエール瀧さん。
本作でのコメディ部分というか笑える要素はほぼ彼に集約されています。
大島渚監督の『御法度』のトミーズ雅さん並にいい味出してます。
◆過去作からの因縁の関係はこちら
(画像クリックで拡大されます)
◆大友という男が背負った『ケジメ』
そして、本作では過去の作品への配慮も忘れていません。
「ケジメ」とはアウトレイジ・サーガ全体へのケジメなのです・・・
(画像クリックで拡大されます)
◆大友を慕う若い衆
大友という男には不思議な魅力があって、作品全てに彼を強烈に慕う若い衆が登場します。
しかしながら、その若い衆達の末路も作品の熱度を上げる強いエッセンスになっていました。
(画像クリックで拡大されます)
これが作品のフレームになります。
・アウトレイジ最終章を楽しむポイント①
ますは「舎弟愛」というが本作品の見どころです。
大森南朋さん演じる本作の若い衆である「市川」。
文月としては、この市川は過去椎名桔平さん演じた「水野」、中野英雄さん演じた「木村」、ふたりの良いエッセンスを見事に受け継いだとても好感が持てる新キャラクターだったとえらく感激しましたわぁ。
激しすぎず、前に出すぎず、ひたすらに大友に従う姿がもう・・・・
それだけではありません。
悪人ながらも縦の主従関係がしっかりとしているのは、大友と市川だけではないので、
各シーンでどのラインが絡み合って動いているのかが解るととても楽しいです。
それでも、親子でも兄弟でもないのに、大友という男に惚れ込んだ市川の真っ直ぐさは萌え要素の重要な一つです。
大友と市川に共通するのは「息が詰まりそうな組織の枠より、自分の信念を通す」生き様でした。
自分がここまでできるのか?と自問自答してしまうほどの・・・
まぁ、語弊があるでしょうが、コジマプロダクションの小島秀夫監督が独立した時に集った人たちを観ているような気持ちになりました(小声)下記、リンクを貼ります。
わたしだって、ゴミ掃除係でもいいので馳せ参じたいのですが、無理だなぁ。
・アウトレイジ最終章を楽しむポイント②
『裏切り』の連鎖
冒頭でアウトレイジ最終章にハラハラさせられたと書きましたが、それは『一体誰を信じたら良いのか、大友の思惑すら解らない』ところにあります。
単純に「張グループ vs 花菱会」という構図ではないのです。
花菱会も一枚岩ではない、そして花菱会に後見されている山王会も、大友が属する張グループでさえも、しょーーーもないエゴが渦巻くドロドロの人間模様を展開します。
このあたりは北野監督お得意のコントを観ているようで、実際の鑑賞中もみなさん所々で笑い声が上がっていました。
解っちゃいるけど笑ってしまう、古典落語の境地ですな(笑)
しかし、ラストシーンを迎えるまで、誰がどの瞬間に「生命(タマ」取られてしまうのか全く油断できませんでした。
誰もが同じことを考えていて、状況をどれだけ自分の有利に持っていくか。
人間関係も、仕事も、極端な話ですとこれの繰り返しです。
その意味で、裏切りの連鎖とはフィクションの中でだけ展開するものではありませんぜ。
・アウトレイジ最終章を楽しむポイント③
それぞれの「ケジメ」
大友、張グループ、花菱会、山王会、警察と今回の事件を決着しなくてはならないのです。
互いに納得できる着地点、いわばそれぞれが落とし所をどこにするか、その腹の探り合いは内紛をコントロールしている誰もが考えて行動しています。
北野監督が描く美学とはあるひとつのベクトルに一貫して向けられていて、それが作品に漂う悲哀を一層深めているのですが、
本作品ではさらに、
それぞれが落ち着く所に落ち着いて
「一番悪い奴が天下を獲ったように見える」
収め方は、いずれまた悲劇は繰り返すのだろうとちょっぴり続編を期待してしまうような気分にさせますな。
でもアウトレイジ、アウトレイジ・ビヨンド、アウトレイジ最終章と3作品全てを観ている人はもちろんのこと、北野作品を愛している方ならば後半でピンと来る方も多いかもしれません。
アウトレイジというひとつの物語に「ケジメ」をつけるのであれば、
どうしようもなく決定的な終わりを迎える必要があるのでした。
群れを離れた狼の最後の咆哮を、是非ご自分の目でお楽しみください。
わたしはラストカットでどうしようもなく切なくなりました。
2017年映画鑑賞 165本目
◆overview◆
・原題:アウトレイジ最終章 2017年公開
・上映時間:104分
・監督:北野武
代表作:『brother』『ソナチネ』
・脚本:北野武
・メイン・キャスト
ビートたけし
西田敏行
大森南朋
ピエール瀧
松重豊
大杉漣
塩見三省
白竜
名高達男
光石研
原田泰造
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