「難治がん」と闘う新聞記者が小池百合子から考える、若者に伝えたい投票の心得
連載「書かずに死ねるか――『難治がん』と闘う記者」
働き盛りの40代男性。朝日新聞記者として奔走してきた野上祐さんはある日、がんの疑いを指摘され、手術。厳しい結果であることを医師から告げられた。抗がん剤治療を受けるなど闘病を続ける中、がん患者になって新たに見えるようになった世界や日々の思いを綴る。
* * *
すっかり時の人となった東京都知事の小池百合子さんには思い出がある。
たしか今から13年前。名古屋本社から東京の政治部に移り、小泉純一郎首相の番記者をしていたころだ。環境相だった小池さんが小泉首相と会った。会談を終えた小池さんに中身を尋ねると、「3R。調べてね」と返ってきた。
先月の記者会見で彼女は、自分が代表をしている希望の党のことを記者から質問され、「アウフヘーベン。勉強してください」と言った。あれを聞いて、懐かしい、と思った。
3Rはごみ減量にかかわる三つの英単語の頭文字をとった環境省のキャンペーンだ。「リデュース、リユース、リサイクル(※)ですよね」とすかさず答えたが、返ってきたのは笑顔ではなかった。こちらを見て黙り込んだ彼女の目つきが忘れられない。こちらが煙に巻かれて黙り込むことが期待されていたのかな、と想像した。
三つ子の魂百まで、という。何かの体験に支えられた信念や行動パターンは生涯ついて回るのかもしれない。
●水が氷に、氷が水に変わるとき
今回の衆院選は、病気の私にとって、もう2度とめぐってこないと思っていた投票の機会だ。私には、今回初めて衆院選に投票するいとこの娘がいる。三つ子ならぬ彼女に、これだけは伝えなければいけないことといったら何だろう。
――まず君に思い浮かべてほしいのは、一杯の氷水だ。氷はやがて解ける。それを冷凍庫で冷やしてもしばらくは水のままだが、ある点を超えると、また氷になる。固体から液体へ、液体から固体へ。水温が摂氏何度という「量」の変化が、「質」の変化をもたらす境目がある。