地域の足… “老老輸送”実態明らかに

地域の足… “老老輸送”実態明らかに
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公共交通機関が不十分な地域の住民をNPO法人などに登録した住民ドライバーが自家用車などを使って運ぶ輸送サービスについて、NHKがサービスを行っている全国の93の団体を取材したところ、ドライバーの60%近くが65歳以上だったことがわかりました。利用者の多くを占める高齢者を高齢のドライバーが運ぶ“老老輸送”の実態が明らかになりました。
国はバスやタクシーなど公共交通が不十分な地域で、NPO法人などに登録した住民ドライバーが自家用車などを使って住民を運ぶ「公共交通空白地有償運送」という制度を設けています。

NHKがこのサービスを行っている30の道府県にある93の団体を取材したところ、登録されている住民ドライバー814人のうち、65歳以上は462人で全体の56.7%を占めていることがわかりました。

地域別では、関東がおよそ63.3%と最も高く、次いで九州が58.3%、関西と中国がおよそ57.8%などとなっています。

60歳以上になると、全体の72.4%を占めていて、住民ドライバーの高齢化は今後さらに進むことが懸念されます。

サービスの利用者は、買い物や通院などで使う高齢者が多く、高齢者が高齢者を運ぶいわば“老老輸送”の状態です。

ことし3月には、高齢ドライバーへの認知症検査を強化する改正道路交通法が施行され、運転免許証を返納する動きも加速する中、公共交通機関の不十分な地域で高齢者の交通手段をどのようにして持続的に確保していくかが課題になっています。

“老老輸送”に揺れる町では…

<導入の背景>
高知県西部の山あいにある梼原町では、平成23年からNPO法人に登録した住民ドライバーが住民を運ぶサービスを行っていますが、今、「老老輸送」に悩んでいます。

サービスは松原地区と初瀬地区が対象で、NPOの代表矢野豪佑さんの元には、車を利用したいお年寄りから年間およそ1000件の電話があります。

梼原町は、昭和33年には1万1200人余りが暮らしていましたが、若者が仕事を求めて町を離れたこともあり、今は3600人余りに減りました。

町の交通を支える路線バスも利用者が減り8つあった路線のうち、3つが廃止されました。松原地区を走るバスは、平日は1日2便、休日は1便だけで、地区には、タクシー会社もありません。

地区の65%余りが65歳以上で運転免許を返納する人も多く、NPOのサービスが交通手段のよりどころになっているのです。

<サービスに頼る高齢者>
バスの停留所まで車で10分ほどかかる場所で暮らす下村芳子さん(87)もその1人です。

車を運転していた夫が去年亡くなり、今、交通手段の頼りは、住民ドライバーの石川昇さんです。町の中心部にある病院やスーパーまで20キロ近く離れていて、買い物や通院に石川さんの車が欠かせません。

町の中心部までの料金は片道1000円、地区内ならば300円で済みます。スーパーでは、数日分の食料を買いだめますが、重い荷物を運ぶのも石川さんが手伝い自宅まで送ってもらえます。

下村さんは、「バス停まで歩くのは難しいです。このサービスが無いと生活できません」と話しています。

<厳しい現実>
ところが、住民ドライバーが高齢化し、サービスの維持が難しくなっています。18人のドライバーのうち、13人が65歳以上です。

6人がことし70歳を超え、NPOが定めるドライバーの年齢の上限に達するのです。

矢野さんはことし2月、ドライバーに集まってもらい、年齢制限を75歳に引き上げる提案をしました。しかしドライバーからは、「客を乗せて運転すると目がすごく疲れる」、「続ける自信がない」と不安の声が相次ぎました。

結局、3人が70歳を迎えるのを機に辞めてしまいました。

矢野さんは「公共交通機関が不十分な地域なのでサービスをなんとか維持したいが、担い手がいなくていつまで続けられるか不安だ」と話しています。

移住者で若返り図る地区

住民ドライバーの高齢化を防ぐ対策を進めているのが島根県美郷町のNPO法人です。NPOが注目したのは、都市部から地方に移住してくる若者です。

地方の活性化に取り組む若者に国が給料を支払う「地域おこし協力隊」という制度があり、協力隊員を募集する際に移住後に携わる仕事を「高齢者の移動支援」を明記することで、30代の住民ドライバー3人を確保したのです。

その1人、岸下勝幸さん(38)は「自然豊かな場所で3人の子どもを育てたい」という妻の希望を叶えようと去年の夏、大阪・堺市から移住しました。

移住後の仕事が明記されていたことも移住の決め手になったと言います。岸下さんは「トラックの運転手をしていたので経験を生かせる。人の役に立つ仕事にも就きたかったこともあり、住民ドライバーならやっていけると思った」と話しています。

ただ「地域おこし協力隊」の任期は3年で、NPOは任期が終わったあとも、住民ドライバーとして定着させられるかが次の課題だと考えています。

NPO法人の代表の樋ケ昭義さんは「将来にわたって移住してきた住民ドライバーが生活していける方法を考えていかなければならない」と話しています。

国交省「若い世代増えるよう働きかけたい」

老老輸送が進み、高齢者の交通手段の確保が将来、さらに課題になることについて、国土交通省は「住民ドライバーが高齢化していることは認識していて、課題だと考えている。また公共交通のバスやタクシーも担い手の高齢化傾向がある。若い世代がドライバーの担い手になってもらえるよう、働きかけていきたい」と話しています。

地域の足… “老老輸送”実態明らかに

公共交通機関が不十分な地域の住民をNPO法人などに登録した住民ドライバーが自家用車などを使って運ぶ輸送サービスについて、NHKがサービスを行っている全国の93の団体を取材したところ、ドライバーの60%近くが65歳以上だったことがわかりました。利用者の多くを占める高齢者を高齢のドライバーが運ぶ“老老輸送”の実態が明らかになりました。

国はバスやタクシーなど公共交通が不十分な地域で、NPO法人などに登録した住民ドライバーが自家用車などを使って住民を運ぶ「公共交通空白地有償運送」という制度を設けています。

NHKがこのサービスを行っている30の道府県にある93の団体を取材したところ、登録されている住民ドライバー814人のうち、65歳以上は462人で全体の56.7%を占めていることがわかりました。

地域別では、関東がおよそ63.3%と最も高く、次いで九州が58.3%、関西と中国がおよそ57.8%などとなっています。

60歳以上になると、全体の72.4%を占めていて、住民ドライバーの高齢化は今後さらに進むことが懸念されます。

サービスの利用者は、買い物や通院などで使う高齢者が多く、高齢者が高齢者を運ぶいわば“老老輸送”の状態です。

ことし3月には、高齢ドライバーへの認知症検査を強化する改正道路交通法が施行され、運転免許証を返納する動きも加速する中、公共交通機関の不十分な地域で高齢者の交通手段をどのようにして持続的に確保していくかが課題になっています。

“老老輸送”に揺れる町では…

<導入の背景>
高知県西部の山あいにある梼原町では、平成23年からNPO法人に登録した住民ドライバーが住民を運ぶサービスを行っていますが、今、「老老輸送」に悩んでいます。

サービスは松原地区と初瀬地区が対象で、NPOの代表矢野豪佑さんの元には、車を利用したいお年寄りから年間およそ1000件の電話があります。

梼原町は、昭和33年には1万1200人余りが暮らしていましたが、若者が仕事を求めて町を離れたこともあり、今は3600人余りに減りました。

町の交通を支える路線バスも利用者が減り8つあった路線のうち、3つが廃止されました。松原地区を走るバスは、平日は1日2便、休日は1便だけで、地区には、タクシー会社もありません。

地区の65%余りが65歳以上で運転免許を返納する人も多く、NPOのサービスが交通手段のよりどころになっているのです。

<サービスに頼る高齢者>
バスの停留所まで車で10分ほどかかる場所で暮らす下村芳子さん(87)もその1人です。

車を運転していた夫が去年亡くなり、今、交通手段の頼りは、住民ドライバーの石川昇さんです。町の中心部にある病院やスーパーまで20キロ近く離れていて、買い物や通院に石川さんの車が欠かせません。

町の中心部までの料金は片道1000円、地区内ならば300円で済みます。スーパーでは、数日分の食料を買いだめますが、重い荷物を運ぶのも石川さんが手伝い自宅まで送ってもらえます。

下村さんは、「バス停まで歩くのは難しいです。このサービスが無いと生活できません」と話しています。

<厳しい現実>
ところが、住民ドライバーが高齢化し、サービスの維持が難しくなっています。18人のドライバーのうち、13人が65歳以上です。

6人がことし70歳を超え、NPOが定めるドライバーの年齢の上限に達するのです。

矢野さんはことし2月、ドライバーに集まってもらい、年齢制限を75歳に引き上げる提案をしました。しかしドライバーからは、「客を乗せて運転すると目がすごく疲れる」、「続ける自信がない」と不安の声が相次ぎました。

結局、3人が70歳を迎えるのを機に辞めてしまいました。

矢野さんは「公共交通機関が不十分な地域なのでサービスをなんとか維持したいが、担い手がいなくていつまで続けられるか不安だ」と話しています。

移住者で若返り図る地区

住民ドライバーの高齢化を防ぐ対策を進めているのが島根県美郷町のNPO法人です。NPOが注目したのは、都市部から地方に移住してくる若者です。

地方の活性化に取り組む若者に国が給料を支払う「地域おこし協力隊」という制度があり、協力隊員を募集する際に移住後に携わる仕事を「高齢者の移動支援」を明記することで、30代の住民ドライバー3人を確保したのです。

その1人、岸下勝幸さん(38)は「自然豊かな場所で3人の子どもを育てたい」という妻の希望を叶えようと去年の夏、大阪・堺市から移住しました。

移住後の仕事が明記されていたことも移住の決め手になったと言います。岸下さんは「トラックの運転手をしていたので経験を生かせる。人の役に立つ仕事にも就きたかったこともあり、住民ドライバーならやっていけると思った」と話しています。

ただ「地域おこし協力隊」の任期は3年で、NPOは任期が終わったあとも、住民ドライバーとして定着させられるかが次の課題だと考えています。

NPO法人の代表の樋ケ昭義さんは「将来にわたって移住してきた住民ドライバーが生活していける方法を考えていかなければならない」と話しています。

国交省「若い世代増えるよう働きかけたい」

老老輸送が進み、高齢者の交通手段の確保が将来、さらに課題になることについて、国土交通省は「住民ドライバーが高齢化していることは認識していて、課題だと考えている。また公共交通のバスやタクシーも担い手の高齢化傾向がある。若い世代がドライバーの担い手になってもらえるよう、働きかけていきたい」と話しています。