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ソ連の宇宙技術は最強過ぎたのだが、それを西側諸国が完全に理解したのはつい最近だった 作者:御代出 実葉
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米国が「スターウォーズ計画」をでっち上げたら米国が妄想したものを本当に打ち上げてしまった共産主義国家 その2

エネルギアが完成した後、ソ連には困ったことがあった。
「飛ばすものが無い」

実はエネルギア、最近ロシアが公開した文書を見る限り東側に披露した時点ですでに「完成」していたのだった。(つまりスペースシャトルより2年早くロケット自体は完成していてお披露目と試験稼動していた)
だが、当時のソ連にはエネルギアでもって飛ばす必要性のあるものがない。

この時点でのソ連の認識では、コストパフォーマンスが非常に悪く、1970年代に夢みたサターンV並みの存在を共産主義の名の下に実現化させただけで、その先を考えていなかった。

余談だが、今でも飛ばす必要性が無いというとでエネルギアとエネルギアMと呼ばれるエネルギアの軽量版がバイコヌール宇宙基地で保管され、一般人も見学できる。
当初東側に公開された「エネルギア」とはこのエネルギアMとエネルギアであるが、飛ばなかったエネルギアは朽ちて飛行不能になった状態で見ることが出来、恐らく「東側諸国」において実物を見学可能なロケットとしては最大クラスで世界最大出力のものではないかと思う。(サターンVよりエネルギアの方が出力が高い)


エネルギアは初飛行こそ1988年だが、実は1978年の時点で東側諸国に対してお披露目されており、その後約10年もの間塩漬けとなってしまう。


これにはソ連崩壊直前で財政状況が切迫していたというのも理由の1つにあるが、もう1つの理由もあった。
「デタント」である。

米ソ双方の戦力が拮抗し、キューバ危機が終わった1970年前半。
ニクソンとブレジネフらによって起こった米ソデタントにより、宇宙開発競争も鈍化することとなった。

それまで競い合っていた形から協力する形になると、競争目的で作ったN1の完成形であるエネルギアはその存在意義を失ってしまったのだった。

我々西側諸国の日本人的には「これで火星でも行けばいいんじゃないのか?」と思うだろうが、今回の筆者の作品を見てもらえばわかる通り、ソ連はすでに「モジュール式宇宙船」をこの時点で完成させており、コスパ的に非常によろしくないエネルギアでそんな事をしても「今更何をしているのだ」と国民の理解が得られないことをソ連上層部は理解していた。

それぐらいエネルギアはコスパが悪い存在だったのだ。
(エネルギア1回分でプロトンKが13回分だが、13回で計260tほど打ち上げられるので、1度に100t打ち上げるものが無いなら効率が悪い)

その状況が変わってきたのは1978年。
アフガニスタン侵攻を皮切りに米国と再び険悪なムードとなり「デタント崩壊」が起こったのだ。

今回扱う「ポリウス」とはまさにこの「デタント崩壊」と呼ばれる1979年~1985年の間にソ連がエネルギアを打ち上げる理由を見つけて作られた存在となる。

前回説明した通り、米国は1983年。突如として新たな戦略防衛構想を発表した。
これをレーガン大統領が発表した背景には「もうウォークマンとか出てる時代なんだし、核兵器も時代遅れちゃうの? 一旦リセットして世界の均衡を新たな兵器によって組みなおそう」という考えがあった。

この理由の背景には次回説明しようと思う「根本的な長距離弾道ミサイルの性能では絶対にソ連に勝てない」というレーガン大統領の理解があったからだが、レーガン大統領は根本的な部分で間違った認識をしていた。

そもそもソ連はこの時すでに「長距離弾道ミサイルなどすでに終わった時代の遺物」として考えていたのだ。

それを具現化してわざわざ打ち上げたものこそが「ポリウス」である。

ポリウスの名を前回出した後に、読者の方々の中にはどういうものか調べた人もいるだろう。
とすると大体の人は「ガスレーザー式の迎撃兵器」と思っているかもしれないが、これは「ポリウス」の武器の1つであり、「ポリウス」の最も恐ろしい部分はこれから説明する所にある。

そもそもポリウスの「ガス式レーザー」というのは実は「ポリウス自体を撃墜しようとする迎撃ミサイル」のための防衛兵器であって、メイン武装ではない。

ではポリウスとは一体何か。

それは「核弾頭投射装置」である。

ソ連が近年公開したポリウス。
これは赤く染まった宇宙オタクには30年間待ち続けた存在だった。

エネルギアが日本国で始めてお披露目された日。
1987年5月。

この時日本はTV実況中継でもってエネルギアの打ち上げ前の段階をニュース特番か何かで扱った。
これがこの当時唯一の西側の映像で見られるエネルギアであるが、誰が見ても違和感を感じるのは「裏側」しか映し出されなかったこと。

そして「何を打ち上げるのか」についても触れなかったこと。

赤旗の宇宙技術雑誌ですら当時は「模型」と書かれていたが、それこそがポリウスである。
ソ連がそこまで秘密にしたかったポリウスの写真は2010年代を過ぎてついに公開されたが、その真っ黒に塗られた不気味な姿は恐怖すら感じるもので、生で見た日本のジャーナリストもTVでバラしたら文字通り肉体を「バラされる」と直感で感じたのではないだろうか。

公開されたポリウスの写真を見て一番笑えるのは「ミール2」と書かれていること。
どういう意図でもってこんな偽装名称をつけたかわからないが、本物のミール2は現在ISSのロシア側としてミール2の名称が書かれてちゃんと存在している。

余談だが、この時の実況中継の評価が良かったのか、1年半後には実況中継に関わった放送局が日本人で始めて、そして世界で始めてジャーナリストを宇宙へ向かわせることとなる。
某局が以降、共産主義もといロシアにハマってしまったのはこれのせいではないかという話もあるのだが……ともかく、日本人ジャーナリストはすぐさま本物のミールを見て、触れて、乗ることが出来たのである。

その影響だと思うが、ポリウスは早い段階で日本国内の宇宙技術雑誌でその存在が仄めかされていた。
しかも割と正確な情報で。
無かったのは写真だけだが、「表側はとんでもないことになっている」という情報は1980年代後半にはすでに語られていた。

だからこそ、赤く染まった宇宙オタクはヨダレを垂らしながら「SOLだとかそんなもんじゃねーな!」とその姿を心待ちにした。

そして公開された技術文書を見て震え上がった。
ポリウスについてはウィキリークスなどで「レーガン大統領が小便も大便も漏らしかけた」といわれるが、どういう存在かというと……


1.中距離弾道ミサイルと同等の核弾頭を複数搭載
2.これまで培った「補給能力」を生かしてプロトンロケットで姿勢制御用エンジンの燃料と核弾頭を「補給」
3.核弾頭はただ落とすだけなので迎撃はほぼ不可能
4.米国の直上にて待機するが、迎撃ミサイルをガス式レーザーによって撃墜可能

プーチンがしきりに「弾道ミサイルなどもはや時代遅れの産物」「我々はそれを証明できるものを30年前には完成させている」と強気の姿勢になるものこそポリウスである。

これらは全て、これまでサリュートやサリュートとは名づけられなかったモジュールユニットにて実験し、そして完成させたシステムによって成り立っていた。
近年の情報公開により、ガス式レーザーなどについては大砲や機銃も含めたユニットモジュールで実験している。(中国が買った技術で真似して作ってみて大変なことになったアレ)

そもそもポリウス自体がサリュート関係のモジュールを流用しまくっており、汎用性の高い部品で構成されている。

で、ここで私が今回触れたいのはポリウスの可動風景と称したCG映像が非常に勘違いが多いということについてなのだが、ポリウスのレーザー照射部分は尖った先端部分ではなく、真下の膨れた部分にあるということだ。

見た目が格好いいからと先端部分からレーザーを照射させるCG映像を某ニコニコ動画などでアップロードしていたりする者がいるのだが、「こちらに核弾頭発射装置」の方が詰まっている。

核弾頭が一体何発搭載されるかは資料によって数がまちまちであるが、とにかく「1発」ではない。

レーガン大統領が米国でやりたかったことをソ連はレーガン大統領が防衛構想を発表してからわずか5年で達成してしまっていたのだった。
その間に米国で開発できた新兵器などないので、完全に米国の敗北である。

ウィキリークスの資料によると、ポリウス打ち上げの際、日本ですらTV実況という形が出来るほどに西側諸国のジャーナリストなどが招待されていたが、それは正直な所、レーガンに対して「ええ加減にせえや」といった意味合いを含めてそんなことをやったのだという。

何しろこの時招かれたのは米国のジャーナリストもいて、そこには間違いなくCIAなども混ざっていたであろうことから、招いた時点で米国にポリウスの詳細情報が向かうのはわかっていた。

これまた先ほどの余談の余談のようなものだが、何となくだがこの時日本人は本当に素直に真面目に「日本人ジャーナリスト」だけ連れて行ってしまい、後のミール搭乗に繋がったのではないかと筆者は考えている。

それはさておき、わかっていて招いたのだから、その話を聞いたレーガンは小便も大便も漏らしかけて当然である。

ポリウスについては「失敗した」と「レーガン大統領がホットラインで謝罪したので自爆させた」という2通りの説が語られているのだが、プーチンの発言集と最近になってロシアで公開されたロシアの新兵器の姿を見る限りはどう見ても後者である。

核弾頭関係のポリウスについては一部で「1988年時点で実現できるわけないだろう」という話もあるのだが、
1.核弾頭投射やレーザー射出に関わる姿勢制御が不可能という話があるが、ISSの姿勢制御については未だにロシア側しか出来ないが、これはサリュートなどですでに完成した技術。

2.プログレスなどで補給技術については証明しているが、これはミールより前のサリュートの時点で技術が完成しており、ミールでもプログレスは使っている。

3.そもそもプログレスを作った会社である「エネルギア社」こそ、「エネルギア」と「ポリウス」を作った会社で、プログレスについては1974年には設計図が完成し、1976年に1号機が完成、1977年に1号機の打ち上げである。エネルギアの完成は1978年であるが、恐らくこの時点では本当に打ち上げるモノがなかっただけで各種技術はエネルギアを作ったソ連のメーカーがすでに基礎技術などを含めて完成させていた。

これら上記3つについては2010年代によってロシアが公開した宇宙技術によって判明した事実であり、実際に現物が存在している事からして欺瞞や誇張などはなく、ほぼ間違いなく「1988年に核弾頭を積載し、宇宙からPAC3やイージスシステムなどによる迎撃ミサイルでは撃墜不可能な現時点での核兵器の理想形」を作ることは可能だった。

レーガン大統領はこれについて何となく「可能かもしれない」といったコメントを残しており、近年それらがリーク情報などと共に米国政府への公開請求などによって公開されているが、その大前提としては「サターンVをコピーできなければ不可能だが、サターンVを打ち上げる経済力は無い」という考えがあった。

サターンVの2分の1の費用でサターンVと同じ重量を打ち上げられるエネルギアが完成していたことを知らなかったのだ。

というか、そもそも米国には「大きな間違い」があった。
自分達が宇宙関係において様々な分野で誇張や嘘を発していたため、ソ連の発表もそういうものばかりだろうと思っていた節があるのだが。

「ソ連は一度たりとも宇宙関係の技術において嘘をついたことがない」

ソ連の基本スタンスはこうである。
・失敗は基本的に公開しない。
・大きな失敗の後に何か成功を収めた時、あえて大きな失敗を苦難として公開する。
・成功は積極的に公開する。
・秘密にしたいことは半世紀だろうが公開しない。

ソ連の場合「発表しない」か「発表する」の二択しかなく、「誇張して発表する」ということはない。
月面有人飛行だって米国は「嘘だ」と長年主張してきたが、実際には月着陸船の現物まで残っているし、火星有人飛行についても「どう見てもミールかサリュート」のようなもので計画していた形跡が残っているし、ISSの能力を見ると「現時点で可能」なのは断言できる。

こういった勘違いが生まれた原因は米国のスパイに偽の情報を掴ませていたというのが今日の米国とロシアの共通認識であり、ロシアの秘密公開によってそれらは我々のような実質的に部外者たる日本人も理解できるうるだけの資料を集めることが可能となった。

ここまで語ると「サターンVなどがあるにも関わらず、どうして米国はこのような兵器が未だに作れないのか?」という話があるのだが、それは次回説明する。

一方今回は最後に当時のソ連と日本の関係で締めくくりたいと思う。
ロシアが公開した技術文書を見るとある4つの絵文字がやたらよく出てくることがわかる。
「S」「O」「N」「Y」である。

つまり「SONY」である。

ミールにおいてMSXを搭載していたということが話題になったが、実はソ連、当時黄金期でその名を知らぬ者はいないソニー製品を積極的に採用していたのだった。

これについての理由はあまりよくわかっていないのであるが、とにかく機体を構成する重要な電子機器においてはソニー製品を使っていることが示されており、「「何いってるんだい? いつだって日本製は最高さ!」という言葉が浮かんでくるほどに使われまくっていた。

これは恐らくイランなど、米国とは仲が悪いが日本とは仲が良かったような国を通して購入したのではないかと思われるが、当のソニーは使われている事など殆ど知らないと思われる。

宇宙時代において安全性や冗長性を確保しようと努めたソ連が積極的に見出したのは何と日本製の電子部品だったのだ。

ソニーにおいてはこういった話題が意外にも少なくない。
例えば「GO PRO」という商品によってアクションカメラ市場が形成されると、ソニーもとりあえず製品を送り出すために購入してバラしてみたら6割自社のパーツだったとかいうエピソードが残ってたり、任天堂の最新携帯ゲームの中身の3割がソニーのパーツだったり、ライバルとみなした者達が自社の製品を採用しているということはソニーにとってはよくあること。

それが西側や東側という境界線も超えてレーガン大統領が震え上がったおぞましい兵器にすら搭載されていたのだから怖いものである。

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