カカクコムが自社の情報サイトと連携させる手法で、通販サイトの売り上げを伸ばしている。2016年に女性向けメディア「キナリノ」と連動した通販「キナリノモール」を始め、直近の売り上げ規模が開始当初の4倍以上に成長してきた。キナリノ内の記事で商品の購買意欲を高めた上で、モールに誘導する「メディアコマース」の仕組みが奏功している。
「情報サイトに来た人は買い物が目的ではない。いかに違和感なくモールへの動線を作るかが重要だ」。カカクコムの事業開発部長の渡部智之氏は強調する。
カカクコムが「キナリノ」を始めたのは14年10月。ファッションや生活雑貨など8つのカテゴリーに、約1万件の記事を掲載する。現在では月間で1千万人が閲覧するメディアに育った。
この1千万人を生かす新たなサービスとして昨年に開始したのが、複数のブランドの商品を扱うモール型の販売サイト「キナリノモール」だ。
キナリノモールの1カ月あたりの売上高は開始から1年余りで4.5倍の6400万円となった。急成長の要因がキナリノからの誘導だ。「キナリノのトップページや各記事ページに設けられた誘導枠からの顧客が7割」(渡部氏)という。
だが、単に誘導枠を設置するだけでは不十分だ。キナリノに来た人は買い物が目的ではないため、通販サイトに飛んだと分かった瞬間にサイトから離脱してしまう。それでも「まずは購買につながらずとも(キナリノモールに)来てもらうことが重要」(渡部氏)と判断し、誘導を急いだ。
では離脱をいかに抑えるか。キナリノモールではキナリノの雰囲気をそのまま引き継ぐことに腐心しているという。移動した際の違和感を極力そぎ落とすのだ。
キナリノは30代以上の女性向けに「暮らしを素敵に丁寧に。」をテーマにした落ち着いた作りを重視している。記事に使う写真は森などの自然の中で撮影したものにするほか、白色の配色を効果的に使い、落ち着いた自然を感じさせるよう演出。本文でも「シンプル」や「ナチュラル」といった単語が多く並んでおり、素朴さが目を引く。
キナリノモール内では、アマゾン・ドット・コムなどの通販サイトのように単に商品の値段や画像を表示するのではなく、こうしたキナリノの雰囲気を受け継いだ記事を前面に押し出した。
例えば食器の購入ページに行くと、料理をシンプルに盛りつけた食器の写真を見せながら、「和食はもちろんですが、洋食がよく似合います」といった具合に、利用シーンを提案する記事も一緒に掲載する。サイトの作りや記事が似ているため、キナリノから別のサイトに移動したことにすぐには気づかない顧客も多そうだ。
一方、実際の購買につなげるためには、キナリノの記事内であらかじめ購買意欲を高めておくことも重要になる。ホームパーティーを開く時の準備や効果的なテーブル上の飾り方などを紹介した記事では、キナリノモールで扱っている食器や調理器具を写真に使い、購買意欲を高める工夫を凝らす。
カカクコムは両サイトの連動をさらに加速させている。ブラウザ上のリンクでサイト同士をつなぐだけではなく、キナリノの記事を読んだり商品を購入したりできるスマートフォン(スマホ)向けアプリを4月に提供し始めた。今後も融合を進めて相乗効果を高めていく考えだ。(毛芝雄己)
[日経MJ2017年10月4日付]