散るろぐ

こころふるえる感情メディア

告白のシーンに遭遇してしまった

僕は死角に潜んでいた。

いや、潜んでいたのはウソで、後から二人がやってきた。そこは、物置のような片隅で、僕はのんびりゲームしたいとき、決まってそこにある、座り心地のよい壊れたマッサージチェアを利用している。

そこへ、あの子らがやってきた。僕の方が先に居たのだから、占有権というか、隠れる必要もなかったのだけど、出ていく機会も、咳払いするタイミングも逃してしまって、潜むハメになってしまったんだよ。

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「オマエのことを、俺より好きなヤツはいない。オマエのことは、俺が一番理解している。だからオマエは俺と付き合うんだ」

僕が息を詰めていると、そんな会話が聞こえてきた。ある意味、完ぺきな理論だった。

しかし、女の子は言った。

「あたしのことオマエって言うのヤメて…」

そう言いながらも、女の子は、迷惑そうでも、嫌がっていもいないようだった。しかし、男の子の熱意に困惑していた。

二人のことは、僕も知っている。このスイミングスクールに通っている子らで、中学生のときから見かけていた。たしか男の子は高3で、女の子は高2だったかな。

仲良くふざけていた、あんなに小さかった二人が、こうやって恋愛するようになるなんて…。

時間の流れはとても早くて、僕からしたら昨日のことに思えても、あの子らにとっては、きっと濃密な数年間だったに違いない。

「オマエのこと、一生守ってやるから」

その言葉に、僕の心は跳ね上がり、マッサージチェアから宙に浮くような浮遊感があった。僕らを地上に縛りつける現実は、僕ら自身が作り出してしまった幻の鎖なのかも知れない。

しかし、その言葉すらも、女の子にはまったく響いた気配はなく、ポッカリ空いた、木のウロに語りかけているようだった。

二人は、練習の後、いつも笑顔で話していたし、よくペアでストレッチもしていた。なにより、小さい頃か気の合う友だちで、お互いのことを、誰よりもよく知っているのだろう。

あまりにも、知り過ぎていたのかもしれない。

女の子にとっては、他の誰かというよりは、もしも今、何もかも決めてしまったら、未知の将来というか、可能性のような未来が、すべて消えてしまうのではないか。

男の子の身勝手と言ってしまえば、それまでだけど、真っ直ぐに人を愛する、純粋な感情を表彰する、アカデミー賞みたいな物があったなら、僕は彼こそ受賞に相応しいと思う。

重い沈黙は、女の子にかかってきた電話で、あっさりと終わりを告げてしまい「また明日ね」と言って、二人は出て行ってしまった。下手なキスシーンより、よほどドラマチックなシーンだった。


おそらく、二人が一緒になるのは、難しいだろうと思う。温度差があり過ぎるし、時間はむしろ二人を遠ざけてしまうだろう。

もしも5年後、二人がお互いを知らずに、他人として大学のサークルなんかで会っていたら、お似合いのカップルになっていたかも知れない。

二人は本当に仲が良かった。気心も知れて、お互いに良家で育った子女だから、価値観も共有できたに違いない。

この先、女の子は、つまらない男に引っかかって純潔を失うのだろうか。男の子は、物足りなさを抱えながら、代替の恋愛をして、雑に女の子を抱くのだろうか。

そんなことを考えながら、僕はマインクラフトで、丸石を積む作業に戻った。