北野武にとって「凄い役者」とは、器用な猿ではなく、何にもしないパンダである。

常識を超えたヤクザ映画で、新境地を開拓し続けてきたシリーズ最新作『アウトレイジ 最終章』が本日公開されます。「全員暴走」のキャッチコピーで知られる曲者の役者たちと、北野監督はいかに向きあい、その魅力を引き出してきたのか。
聞き手に、映画史・時代劇研究家の春日太一さんを迎え、監督の北野武さんに、濃密なお話を伺いました。

上手い役者は自分の演技を持っている

— 以前の北野映画は、あまり芝居を作り込まないタイプの役者を起用してきたように思います。それが、『アウトレイジ』(2010)では石橋蓮司さん、二作目の神山繁さん、中尾彬さん、そして二作目『アウトレイジ ビヨンド』(2012)と三作目『アウトレイジ 最終章』に西田敏行さん、塩見三省さんと、芝居をちゃんと組み立ててくる役者をキャスティングされていますね。

北野武(以下、北野) 神山さん、やっぱ上手いよね。ああいう上手い人に上手い芝居をやってもらえればいいけど、中途半端な奴が芝居すると下手なんだよね、「だったら芝居するな」ってなって「何もしなくていい」って言っちゃうんだ。下手なのがうまくやろうとすると誰かのマネになるんだよ。いいもの見たら必ずそれをマネちゃう。
 女優なんかもそう。一時期みんな、大竹しのぶか樋口可南子か桃井かおりを真似た演技やってたよね。同じように、男も松田優作と原田芳雄とみんな似てて。そういうのが嫌だから、「演技しないで。普通の自分でしゃべれ」って言ってきたんだけど。ちゃんと名のある上手い役者はちゃんと自分の演技持ってるから、華やかな歌舞伎の舞台でいい。彼らの演技を様式美で使えるから。前回も途中までそうだったんだけど、今回なんかは完全に西田さんたちを中心とした様式美だよね。


©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

— 「上手い役者」と言われましたが、たけしさんの中で「上手い」とはどういうことですか。

北野 動物園でいうと、もっとも上手いのはパンダだと思うよ。何もしないのに見てもらえるんだから。下手な動物は騒いだりとか曲芸したり、いろんなことしないと見てくれない。パンダはケツ出してタマキン出して向こう見て寝てたってパンダだからね。ライオンとかもそう。でも、猿はそうはいかない。
 たとえば高倉健さんは「高倉健」っていう人がそこに立ってりゃ、その存在感だけでいい。それが一番上手いのかもしれない。セリフしゃべんなくてもいいんだから。それはもう「上手い」というより「凄い」だよね。だから「上手い役者」は、「凄い役者」の途中にあるんだ。

— 芝居しなくても、芝居している以上のものを出してくるというのが「凄い役者」……たしかに、健さんはまさにそうでした。

北野 「凄い役者」は「上手い」とか「下手」とか言わせない。今のテレビでも映画でも小劇団出身の器用な役者がいるけど、見た目でどうにもならんもん。上手くて当たり前だよね。そんな顔して上手くなかったらどうすんだって。

北野武監督から見てビートたけしは下手くそ

— 「監督・北野武」から見て、「役者・ビートたけし」は「上手い役者」になりますか。

北野 最悪だね。下手くそで。

— そうなんですか!

北野 俺が「役者ビートたけし」でいられるのは俺が監督だからだもん。嫌なとこ全部切っちゃうし。下手なとこ切ってもまだ下手なんだよ。これ以上切ると俺が出てなくなっちゃうから、一応後ろ姿は入れたり。

— そういう認識なんですね。

北野 うん、全然下手。

— ご自身の中で、「特にこういうところが上手くないな」と、演じていて思われるという点はあったりします?

北野 うーん……。しゃべるのはねえ、漫才なんかやってるから不得意でもないんだけど、とにかくセリフを覚える気がない。もう覚えてる暇ないのよ。いろんな仕事やっていて、映画の現場来て、台本読んで、人のセリフと演技ばっかチェックして。「え、俺の出番なの?」って急いで、「なんて書いてあるの?」「ああそうなんだ」って。
 だから、他の仕事全部なくて、テレビもなにもなくて役者だけで雇われりゃ、一ヶ月前から台本渡してくれりゃいい演技してやるよって思うけど。そうはいかないんだよね。テレビの間に映画撮ってるから。


©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

— スタートについた段階の準備が他の役者たちと違っているわけですね。

北野 俺なんかずっとスタート係もやって、走るとなった時にようやく「よーいどん!」のピストル渡して走るから。ウォーミングアップなしだもん。

— そうした中で西田さんや塩見さんといった上手い役者たちとカメラ前で演技しないといけないわけですが、彼らのテンションに役者ビートたけしはどう向かっていきましたか。

北野 今回の俺は狂言回しに徹してて、映っていても背景の書割程度だからね。

主演だと思っていない

— 物語を作っていく段階で既に主演がご自分だっていうことは分かっているわけですが、そういう時、アテ書きみたいな部分はありますか。ご自分が大友を演じるという前提で脚本作っていったというか。

北野 台本書く時ね、一応俺の名前出てくるんだけど、今回の主演は西田さんだったり塩見さんだから。俺、自分が主演だと全く思ってないし。他の人のやり方、「あの人はこういう風にやるんだろうな」とか、そればかり考えてる。知ってる役者ばっかりだからだいたい想像つくし。

— 引いた視点から役者たちを捉えながら物語を組み立てているんですね。

北野 うん。それは役者だけじゃなくてね。映像的にもだいたいロケハンで景色見て、「今回は頭の入りが濡れた感じになっちゃうぞ」とか思ったら最後の方で乾いた感じにして、乾いてきてる途中に機関銃でも打ってお祭りやっちゃうかとか。そんで「悲しく終わるか」っていう。「祭りの後」みたいにしたかったんだ。「アウトレイジ祭」があって、終わりと。そういう感じでは作ったんだよね。
 一本目は「拳銃の痛さとの戦い」だけど、二本目は三浦友和さんとか西田さんとか塩見さんとか上手い役者が揃ったから「言葉の押収」だね。それで三本目は「言葉と拳銃と悲しさ」でちょうどいいかなって。

次回「北野武『文化勲章でももらっちゃって、立ちションベンで捕まりたい』」は10/9(月)更新予定

聞き手・構成:春日太一  撮影:吉澤健太


『アウトレイジ 最終章』10月7日(土)全国ロードショー


『アウトレイジ 最終章』

出演:ビートたけし 西田敏行 大森南朋 ピエール瀧 松重 豊 大杉 漣 塩見三省 白竜 名高達男 光石 研 原田泰造 池内博之 津田寛治 金田時男 中村育二 岸部一徳
監督・脚本・編集:北野 武 音楽:鈴木慶一 配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

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北野武が語る一発勝負の演出論

北野武

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ogawa0117 #スマートニュース 15分前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 16分前 replyretweetfavorite

urbansea たけし《だから「上手い役者」は、「凄い役者」の途中にあるんだ。》 https://t.co/WKyNcrUYxj 18分前 replyretweetfavorite

08sunny09 |北野武|北野武が語る一発勝負の演出論 https://t.co/yXFN6665lB 30分前 replyretweetfavorite