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来るか?ハイレゾのライブ配信時代

音楽の聴き方は時代とともにどんどん変わっていきます。ハイレゾをご存じでしょうか。高音質の音源で、インターネットでデータをダウンロードして聴きます。データ量が大きいため、いったんパソコンなどにダウンロードして聴くのですが、これをライブ配信=ストリーミングでできないか、模索する実験が始まっています。あのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が奏でる交響曲をハイレゾ音源でライブ配信するというのですが、どんな音になるのでしょうか。(おはよう日本 おはBizキャスター豊永博隆)

ハイレゾって何?

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ハイレゾとはハイレゾリューション=高解像度の略で、CDの3倍から15倍の情報量を収録できる音源です。CDでは人間が聴き取れるとされる高い音の上限(20kHz)までを記録していますが、聞こえないとされる、それより高い音もハイレゾでは収録しています。これによって音の余韻や消えるときの感覚、小さな音の表現がよりリアルになると言われています。

試聴してみました

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私も家電量販店でハイレゾを試聴してきました。聴かせてもらったのは宇多田ヒカルさんの大ヒット曲「First Love」。試聴用なので高性能のアンプ、スピーカーでの再生という好条件のもとではありますが、大げさではなく、鳥肌がたつような感覚になりました。宇多田さん本人の声の息づかいが感じられ、歌声の背後に流れる楽器の音がひとつひとつ分かれて、立体的に聴こえるのです。

私はこのアルバムを持っているので自宅のオーディオで後日、再生してみたら、その平べったい音にがっかりしてしまいました。

音楽の聴き方の変化

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音楽は技術の発展とともにどんどん変わっていっています。かつてはレコードやカセットテープでしたが、CDが発売され、CD時代が今も続く王道です。マニア向けにはSACD(スーパーオーディオCD)がありますが、販売されている曲の数が少ないのが難点です。

一方、インターネットを通じて音楽データをダウンロードする聴き方は、アップルがiTune Music Storeでサービスを開始して以降、世界中に広がり、それは今、定額制の音楽聞き放題のストリーミングへと進化しています。ただ、これらはデータを軽くするため圧縮しており、解像度という点では高くはありません。

一方、図の右上の方に進化していっているのがハイレゾです。ただ、データ量が大きいため、現在はダウンロードで聴くのがほとんどです。
このハイレゾには音質ごとに10段階ほどあるのですが、その最高音質というのがDSD11.2MHzというフォーマットです。よりアナログに近い、きめ細かな音を記録できるという特徴があります。

最高音質のライブ配信に挑戦

このDSD11.2MHzという最高音質のハイレゾで、最高のオーケストラの交響曲を聴いたらどうなるだろう? それもライブ=生放送で。こんな野心的なことを考えたのが日本の大手通信会社インターネットイニシアティブです。
インターネットイニシアティブ社は提携関係にある世界屈指のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にこの話を持ちかけ、快諾を得ます。

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9月下旬、ドイツの首都ベルリンで開かれるベルリン・フィルのコンサートを、世界で初めて、最高音質でライブ配信=ストリーミングする日がやってきました。
ただ、ライブ配信=ストリーミングとなると、ネットへの負荷は半端ではありません。どれぐらいの負荷かというと、一般的なネットの動画配信の15倍、4Kの映像をネット配信するのと同じぐらいのデータ量で、普通のネット回線だと、データがスムーズに送れず、音楽が途切れてしまう可能性があります。

このため、インターネットイニシアティブは集音した音をいったんロンドンに送り、そこから東京まで自社のネットワークを使って、遅延なく東京に送るという方法をとりました。

ハイレゾのストリーミングで聴いてみると

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9月16日、ベルリン時間の午後7時、大きな拍手とともに指揮者のマレク・ヤノフスキさんがコンサートホールに入ってきました。この日のメインの曲はブルックナー作曲の交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」。一般の人にはややなじみが薄いかもしれませんが、クラシックファンの間では定番とも言われている名曲です。

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コンサートが始まった時、東京は日付が変わった17日の午前2時。このコンサートを心待ちにしていたクラシックファンがいます。澁谷学さんと妻の敦子さんです。2人はよくコンサートを聴きに出かけ、ベルリンに旅行したときには、現地でベルリン・フィルのコンサートも聴いた経験もあるそうです。

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音にこだわる澁谷夫妻。イギリス製のアンプとデンマーク製のスピーカーというオーディオセット。そこにパソコンでインターネット回線をつなぎ、遠く離れたベルリンからのハイレゾ最高音質の音色に耳を澄ませます。

曲の序盤でホルンやティンパニーの音が鳴り響いたときに澁谷学さんの表情が変わりました。「ああ、いいなぁ」、「この本当にホールで聴いているときの空気感というか、音が出て、わっと広がって…」
実際にコンサートホールでベルリン・フィルの演奏を聴いた経験があるだけに、ハイレゾが再現する現地の音のリアリティに感動したようです。私も取材でお邪魔して一緒に演奏を聴いたのですが、音の広がり方、特に小さな音がつぶれずに立体的に聴こえることを実感できました。

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2時間余りのコンサートが終わり、割れるような大きな拍手。拍手の音も奥行きをもって広がり、これもまたハイレゾならでは臨場感を体験できました。澁谷さんは「生々しさといったらいいのかな。生演奏で実際ホールに足を運んで聴いたときの、あの感覚というか、ハイレゾはそういうことが表現できる媒体だと思いました」

ハイレゾストリーミングの時代は来るか

ハイレゾはどれだけ普及してきているのでしょうか。
調査会社GfKジャパンによるとハイレゾ音源のダウンロード推移はことしの上半期で前年比62%増。クラシックだけでなくJPOPやアニメソングなど幅広いジャンルの楽曲が提供されたことが押し上げにつながっているそうです。

一方、定額制の聞き放題サービスが広がっていることもあって、かつてのような伸びがないという指摘もあります。音質を重視してハイレゾのコンテンツを購入するか、音質はさておき定額制で聞き放題、いろんな曲を楽しみたいか、消費者の好みが分かれてきているようです。

高音質のハイレゾが例えば定額制になり、普通にストリーミング配信される日がいつになるのか。インターネットの高速化やデジタル技術の急速な進歩によって音楽の聴き方はどんどん変化しています。

豊永博隆
おはよう日本 おはBizキャスター
豊永博隆
平成7年入局
函館局 サハリン駐在をへて経済部
ニューヨーク駐在4年
現在、経済部デスクを兼任