銅像の腕、石棺の蓋、大理石像の破片、謎の青銅製の円盤──これらは、世界で最も古いとも言われる有名な沈没船から見つかった遺物の数々だ。
10月4日、ギリシャ文化省の水中遺物部門が、9月4日から20日にかけて行われた発掘調査の成果を発表した。調査対象となったのは、ギリシャのアンティキティラ島沖、水深約55メートルの場所にある「アンティキティラの沈没船」。見つかった遺物からは、全盛期のローマ文化の様子をうかがうことができる。(参考記事:「地中海で大量の沈没船が見つかる、ギリシャ沖」)
調査隊の共同代表を務めたアゲリキ・シモッシ氏は、「(この沈没船から)大理石像や銅像など、とても貴重な財宝が見つかっています」と話す。
シモッシ氏によると、この商船は紀元前1世紀ごろにローマに向かう途中で沈没したものと見られており、全長約40メートルと当時にしては大きい。この頃のローマでは、裕福な市民たちが邸宅をギリシャ芸術で飾っていたので、出港したときにはたくさんの芸術品を積んでいたと考えられる。
調査の様子を撮影した動画には、写実的な彫像の腕の部分を回収する様子が記録されている。形や指の向きから、哲学者をモデルにしたものかもしれないという。(参考記事:「兵馬俑の職人、ギリシャ人芸術家が訓練か」)
これらの彫像は当時の高級芸術だったと考えられる。一方、今回見つかったなかで、おそらく最も好奇心をそそられるのは、小さな青銅製の円盤だろう。この円盤には、いくつかの穴が開けられており、雄牛の模様が刻まれている。シモッシ氏は、いったい何に使われていたものなのかわからないと言う。
「まだ何とも言えませんが、家具用の飾りか印章、あるいは何らかの道具かもしれません」(参考記事:「古代ローマの「ハム」形携帯時計、3D技術で検証」)
これを聞いて思い出すのは、あの「アンティキティラの機械」だ。100年以上前にこの沈没船から見つかった青銅製の歯車式機械で、驚くべき精度で天体の運行を計算できたと考えられている。その正確さから、しばしば「古代のコンピューター」とも呼ばれる。(参考記事:「木星の追跡に高度な幾何学、古代バビロニア」)
今回、考古学者のチームを率いたのは、シモッシ氏とスウェーデンのルンド大学の考古学者ブレンダン・フォーリー氏だ。しばらくは今年回収した遺物の研究を続け、2018年5月にはふたたび沈没船の調査を行う予定となっている。
「アンティキティラの沈没船」の歴史
シモッシ氏は、今年回収できた遺物は過去最多レベルで、尽きることのない太古からの贈りものだと話している。この沈没船が最初に発見されたのは1900年。海に潜って海綿を集めていた人物が、彫像の腕を見つけたのがきっかけだった。
これは「主のない腕」と呼ばれ、さらなる財宝発見への期待が高まった。1976年には、有名なフランス人海洋探検家ジャック・クストー氏が調査を行い、彫像やいくつかの小さな遺物を発見した。(参考記事:「クストー生誕100年、その功績と影響力」)
この沈没船は100年前からよく知られてはいるものの、1970年代にクストー氏が訪れてからは、断続的な調査しか行われなかった。しかし、2014年にフォーリー氏がこの海域に注目したことで、考古学者たちの間で興味が再燃することになった。なかでも最も重大な発見となったのは、人骨の一部が見つかったことだろう。2000年前の貴重なDNAを調査できるほか、そこから沈没船の歴史についてさらなる手がかりが得られるかもしれない。DNAの分析はまだ続いているが、初期の調査からは、若い男性の骨ではないかと考えられている。(参考記事:「古代ローマ期の英国に中東から来た男、剣闘士か」)
フォーリー氏は2016年の「ネイチャー」誌で、この船が嵐などの自然現象が原因で、突然沈没したのではないかと論じている。
シモッシ氏によると、この沈没船の積荷は、現在見つかっている地中海の沈没船の積荷の大部分を占めるという。残骸を調査する作業には多大な時間がかかるものの、さらなる発見が期待される。