前代未聞の混乱を極める地獄で、獄卒のみならず閻魔大王からももっとも頼りにされる冷静な後始末係。それが「鬼灯の冷徹」の主人公・鬼灯だ。ホラーマンガと勘違いされることも多いという「鬼灯の冷徹」だが、実際の内容は地獄の楽しい毎日を描くコメディ。2011年からモーニング(講談社)で連載されている同作は2014年にテレビアニメ化を果たし、10月7日より約3年半ぶりの第弐期放送を控えている。
コミックナタリーでは「鬼灯の冷徹」をマンガサイドとアニメサイドから読み解く特集を連続で展開。“第壱回”となる本特集では原作マンガにフィーチャーし、作者・江口夏実と、アニメの第壱期から脚本を担当している後藤みどりのインタビューをセッティング。ストーリー作りで“やらないこと”、6年間の蓄積から生まれた変化を語ってもらった。
取材・文 / 三木美波
「このときの兎の気持ちを考えろ!」(後藤)
──2011年にスタートした「鬼灯の冷徹」は、今年で連載6周年。単行本は25巻まで刊行されています。ご自分で変化を感じる部分はありますか?
江口夏実 絵は変化してると思います。1巻のときすごく絵が下手だったのをいろいろな人に指摘してもらったおかげで、だいぶ練習しました。大好きな水木しげる先生が描くような背景が理想なんですが、筆圧が強くてGペンじゃ描けなかったんです。丸ペンと使い分けるという知識もなかったくらいで……。グダグダだった線が、6年経って少し落ち着いたかなって思います。
後藤みどり 下手なんて……そんなことないですよ! 「鬼灯の冷徹」は絵の上手さに惹かれて手に取ったんです! 書店で表紙を見たときに、「これは絵を勉強した人の絵だ」と感じました。日本画系の人なのかなって。
江口 ああ、美大の描き方だとはけっこう言われます。
後藤 私も美大出身なんですが、「鬼灯」の表紙の色彩の構成やバランス、構図、“疎”な部分と“密”な部分の割合を見て、「学校で教わることを、すべてきちんと押さえてある……この人は絶対美大出身だ」と。
──後藤さんのTwitterを拝見させていただいたら、2012年の時点ですでに「鬼灯の冷徹が面白い」とツイートしていました。
後藤 ええ、初めて読んだのは3巻が発売された頃です。仕事が大変なときで徹夜していて、深夜、息抜きのために書店に行って。「鬼灯の冷徹」の存在は知っていたし表紙に惹かれてもいたのですが、すごく忙しかったので読む暇が……と購入をためらっていたんです。でも試し読み冊子を見つけて何気なしに手に取って読んだら、第1話の桃太郎回でこれがもうおかしくておかしくて 「買うしかない!」と。でも、うっかりしていてなぜか最初に買ったのが3巻で。3巻には芥子ちゃん初登場の「かちかち山」の話が載っているんですが、そのエピソードが本当にツボでツボで、真夜中にお弁当噴き出す勢いでゲラッゲラ笑ってました(笑)。
──おとぎ話の「かちかち山」でタヌキにおばあさんを殺されたウサギが、現在は地獄で心に闇を飼いながら獄卒をしている……と設定だけ説明すると哀切感が漂いますが、芥子の一見かわいらしい外見とスイッチが入ったときのぶっ飛んだ性格のギャップが絶妙ですよね。
後藤 鬼灯が「泥舟を作っている時の兎はどんな気持ちだったのか」「皆さんもよく考えてみてください」と言うシーンで、「そんなこと考えたことなかった!」と目からウロコでした。そのあと芥子ちゃんがすんごい目付きで泥舟を「パン!」って叩いてるところなんかもう……「このコマをどうしても世に出したい!」と。当時、斜め向かいの席に(アニメ「鬼灯の冷徹」第壱期プロデューサーの)中武哲也さんが座っていたので、すごいテンションの高さで「このマンガのアニメ化権を取ってきて!!」って(笑)。中武さんは私をチラッと見て、「寝たほうがいいですよ」って冷静に諭してきたんですが。その後、アニメ化が決まったと聞いたときは、ガッツポーズでした。
江口 女性のほうが、芥子に共感してくれるんですよね。みんな溜まってるんだな、と思います。
後藤 あはは。
野良猫とケンカして勝ったりする異常なウサギを飼っていて(江口)
江口 芥子が初登場した「かちかぢごく」は、担当さんにネームを見せたときにダメ出しされて、すごく直したんですよ。前半8ページくらい全部直して、それに合わせて後半も修正して。新しいネームはすごく褒めてもらったし、結果的にアンケートもかなり良かったんです。当時、「鬼灯」は作風がモーニングと合わないとか、気持ち悪い絵だとかけっこう言われていたけど、「かちかぢごく」は反応が良くてうれしくて……自分でも印象深い回でした。
──芥子が「う○こ食べます?」と言うコマでは、「ウサギの食糞の習性を友達に話して引かれた」という江口さんの実体験も書かれていますね。
江口 ウサギを4羽飼育した経験があって。青年誌だから、ウサギといういわゆるかわいいイメージの動物を登場させないほうがいいのかな、と実は少し悩んだんです。でも飼っていたウサギに、金網を食い破って逃げたり、野良猫とケンカして勝ったりする異常な生命力を持った子がいて(笑)。ウサギはそれくらい生き物として強い面も持ってるって知っているので、私自身はかわいいだけの動物だと思ってないんですよ。
後藤 私、ウサギ回はどれも好きなんですが、10巻でウサギたちが合コンをするエピソードが特に秀逸! 鳥獣戯画風に歩くウサギたちの絵面にまずクスっとし、続く因幡の素兎のチャラさや、現代風にロップイヤーにアレンジされているところで笑いをこらえ、トドメに某CMっぽく「アイムラビット!」と挨拶されたところで、もう心を鷲掴まれて爆笑でした(笑)。
──お好きなのが伝わってきます(笑)。アニメ第壱期でも「かちかぢごく」のエピソードは放送されましたね。
江口 芥子役の種﨑(敦美)さんが本当にお上手で。
後藤 あれは本当にすごかったですね。アフレコで声が入った瞬間に、「芥子ちゃんがいる!」と。特に 「おのれ狸……おのれ狸!」と、ひとつのセリフの中で豹変していくさまには、聞いていて鳥肌がたちました。
江口 アニメを観た友達にも、「芥子がすごくいい。誰が演じてるの?」と頻繁に聞かれました。本人はすごくホワってした感じのかわいらしい方ですけど、憑依型の演者さんですよね。
後藤 ええ、鬼が宿る瞬間があります。
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分析をされないほうが、描いた側としてはうれしい(江口)
- 江口夏実「鬼灯の冷徹㉕」
- 発売中 / 講談社
- 「コミック&アニメ公式ガイド 鬼灯の冷徹 鬼灯なんでも入門」
- 発売中 / 講談社
待望のコミックガイド第2弾が登場! 江口夏実が語る「鬼灯の冷徹」誕生秘話、キャラクター、ストーリー、妖怪、そしてアニメ。レギュラーや金魚草など、このガイドブックのために江口が描き下したイラストも多数掲載。アニメで鬼灯を演じる安元洋貴&アニメ第弐期を手がける米田監督のインタビューも収録されている。
- テレビアニメ「鬼灯の冷徹」第弐期
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- 放送情報
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- 2017年10月7日よりTOKYO MX1・サンテレビ・BS11・KBS京都・AT-Xにて順次放送開始
- TOKYO MX1:10月7日より毎週土曜日25:00~
- サンテレビ:10月7日より毎週土曜日25:00~
- BS11:10月7日より毎週土曜日25:00~
- KBS京都:10月7日より毎週土曜日25:30~
- AT-X:10月9日より毎週月曜日22:30~
- AbemaTV:10月7日より毎週土曜日25:00~地上波同時配信
- ほか
※放送・配信日時は変更となる場合がございます。
- スタッフ
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- 原作:江口夏実(講談社「モーニング」連載)
- 監督:米田和弘
- 脚本:後藤みどり
- キャラクターデザイン:お祭似郎
- 編集:松原理恵
- 音響監督:はたしょう二
- 音響効果:高梨絵美
- 音響制作:サウンドチーム・ドンファン
- 音楽:TOMISIRO
- 音楽制作:キングレコード
- アニメーション制作:スタジオディーン
- キャスト
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- 鬼灯:安元洋貴
- 閻魔大王:長嶝高士
- シロ:小林由美子
- 柿助:後藤ヒロキ
- ルリオ:松山鷹志
- お香:喜多村英梨
- 茄子:青山桐子
- 唐瓜:柿原徹也
- 芥子:種﨑敦美
- ピーチ・マキ:上坂すみれ
- 桃太郎:平川大輔
- 白澤:遊佐浩二
- 座敷童子・一子:佐藤聡美
- 二子:小倉唯
- ミキ:諏訪彩花
- ほか
©江口夏実・講談社/「鬼灯の冷徹」第弐期製作委員会
- 江口夏実(エグチナツミ)
- 2010年に「非日常的な何気ない話」で第57回ちばてつや賞佳作を受賞。その中の一編「鬼」に登場したキャラクター・鬼灯を主人公にした「地獄の沙汰とあれやこれ」がモーニング2010年32号(講談社)に掲載されデビューを果たす。その後数回の掲載を経て、タイトルを「鬼灯の冷徹」と改め連載をスタート。「鬼灯の冷徹」は2014年にテレビアニメ化され、2017年10月より第2期が放送されている。
- 後藤みどり(ゴトウミドリ)
- 脚本家。脚本を手掛けた主な作品には、「よんでますよ、アザゼルさん。」「げんしけん 二代目」「鬼灯の冷徹」「進撃!巨人中学校」「潔癖男子!青山くん」などがある。