「ICAN」平和賞 核兵器廃絶キャンペーン
【矢野純一(ロンドン)、三木幸治(ウィーン)、山田尚弘】ノルウェーのノーベル賞委員会は6日、今年7月に国連で採択された核兵器を違法とする核兵器禁止条約の成立で「主導的役割を果たした」として、今年のノーベル平和賞を、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN・本部ジュネーブ)に授与すると発表した。ICANは、核の非人道性を訴え、広島や長崎の被爆者や日本の反核・平和運動の中心的存在である日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)と連携して運動を展開していた。核軍縮関連は、2009年に「核兵器なき世界」を唱えたオバマ米大統領(当時)が受賞して以来。
アンデルセン委員長は授賞理由で「核兵器使用が人道上破壊的な結果を導くという危険性を訴え、核兵器禁止条約の制定で革新的な努力をした」と評価した。
広島で被爆した日本被団協の藤森俊希事務局次長(73)=長野県茅野市=は今年3月、被爆者代表として初の交渉会議が開かれた国連本部でスピーチ。核兵器禁止条約の前文には「ヒバクシャ(被爆者)」の苦しみと被害に留意するとの文言が盛り込まれた。日本政府は、米国の同盟国として「核抑止力」を全面否定する条約の交渉会議には参加せず、採択もしていない。
また、委員長は授賞理由で「北朝鮮のように核兵器を獲得しようとする脅威」が高まっていると名指しで非難。米など核保有5大国にも「次は核保有国が核のない世界に向けて関与すべきだ」と、核兵器削減への「真剣な交渉」を促した。
ICANのベアトリス・フィン事務局長は6日、ジュネーブで記者会見し、核廃絶を訴え続けた被爆者の「絶え間ない努力」が条約制定に「重要な役割を果たした」と強調。「個人的な意見」と前置きしたうえで「被爆者とともに(授賞式に)出席したい」と述べた。また、唯一の被爆国でありながら交渉に参加しなかった日本政府にとって今回の受賞は「大きな事件だろう」と発言。未署名の国に「議論を促す」契機となることに期待感を示した。さらに、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に対して「核兵器使用の威嚇は違法であり、条約を尊重して行動を控えるべきだ」と訴えた。
国連の中満泉事務次長は6日、国連本部で記者会見し、「世界が北朝鮮による核の危機に直面しているこのタイミングでの受賞は重要だ」と意義を強調した。
授賞式は12月10日、オスロで行われる。賞金は900万スウェーデンクローナ(約1億2400万円)。
【ことば】核兵器禁止条約
国連が今年7月に採択した核兵器を違法とする条約で、122カ国が賛成した。核兵器の使用▽開発▽実験▽製造▽保有のほか、核抑止力の根幹である「威嚇」も禁じた。核保有国と米国の「核の傘」の下にいる日本や韓国は交渉に参加しなかった。国連によると、5日現在、53カ国が署名。条約は国内手続きを経て批准した国が50カ国に達した日から90日後に発効する。来年中には発効する可能性が高い。
【ことば】核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN=アイキャン)
InternationalCampaigntoAbolishNuclearWeaponsの略。2007年にオーストラリアで発足した国際NGOネットワーク。拠点はスイス・ジュネーブ。核兵器禁止条約の制定を目指し、各国政府や市民社会に働きかけた。世界100カ国超の約470団体からなる連合体で、日本からはNGO「ピースボート」などが参加している。