日本人にとって「天皇制」は何を意味するのか

「ポピュリズム」に対抗する政治的エネルギー

「天皇」という「二字」に集約されたもの、三島由紀夫の言葉の含意するところを考える(写真:AP/アフロ)
一部メディアで話題となった「天皇主義者宣言」など、天皇制に関する論考や2万字の書き下ろしを加えた『街場の天皇論』を、思想家で武道家でもある内田樹氏がこのほど上梓した。
今上天皇の生前退位が近づきつつあるいま、天皇の象徴的行為を「共苦することと」と位置づけたうえで、立憲デモクラシーと天皇制という一見矛盾する制度の「すりあわせ」と「共生」を考える貴重な視点を提示した内田氏。本稿では同氏が、なぜ天皇主義者宣言に至ったのか、なぜ専門の研究だけではなく合気道・能楽・祭礼などに取り組んできたのか、を明らかにする。

三島由紀夫と「天皇」

『街場の天皇論』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

1969年、私が予備校生だった頃、東大全共闘が作家・三島由紀夫を招いて討論会を催したことがあった。三島由紀夫は単身バリケードの中に乗り込んで、全共闘の論客たちと華々しい論戦を繰り広げた。

半世紀を隔てて、そのときの対談記録を読み返してみると、全共闘の学生たちの行儀の悪さと過剰な政治性に比べて、情理を尽くして学生たちに思いを伝えようとする三島由紀夫の誠実さが際立つ。そのときに、三島由紀夫は「天皇」という一言があれば、自分は東大全共闘と共闘できただろうという、その後長く人口に膾炙(かいしゃ)することになった言葉を吐いた。

当時の私にはその言葉の意味が理解できなかった。だが、その言葉の含意するところが理解できるようになるということが日本における「政治的成熟」の一つの指標なのだということは理解できた。

記憶があいまいだったので、古書をあさって、討論の記録を手に入れた。改めて読み返してみて、私が胸を衝(つ)かれたのは、三島の次の発言である。いささか長いけれど、引用してみる。

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  • NO NAME071999e95eeb
    左派が行き詰ってるという事を端的に表した文章
    とはいっても右派が勝ったとか優れていたわけでもないが
    up14
    down8
    2017/10/6 09:49
  • NO NAME7becc86e19f0
    子供の頃、日教組教師に洗脳されたせいか、「天皇制廃止」に賛同していたし
    いまも「天皇は身分制度の根源だ」
    なんて思う。

    でも、例の反日国家が「日王をつれてきて土下座させる」発言で、非常に怒りが湧いた。
     なぜかと自問した、勝手な言い分だが、身内(日本国民)が親(天皇)をバカにするのが許せるが、 他人(他国民)が親(天皇)をバカにするのは許せない。というのと同じ気持ちだと気づいた。
     また学習院に進学した友人が身近に皇族と接したときの話。例えば、
     非常に他人に気配りし配慮をし質素な日常生活で人間的にも尊敬できる人物だ、というような内容を耳にするにつれ、天皇制についての認識も変わってきた。
      「国民統合の象徴」という意味付け、またそれにそうような皇族の行動様式の変化。今は天皇制は日本の伝統文化というのが私の認識だ。
     世界遺産の一つと考えるべきかなとも思う
     
    up13
    down9
    2017/10/6 12:34
  • NO NAME9cfa5f40fac0
    天皇制か…
    制度自体はあってもいいと思うが現状は肯定できない派だな
    彼等はもちろん自分たちと同じ人間なのだけれど、
    国家の要人であることを差し引いても、自由が事実上あまりに認められていないようで悲しく感じる
    昭和天皇の銀ブラ事件とかなぁ…。切ない
    up1
    down0
    2017/10/6 15:43
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