ノーベル文学賞受賞のカズオ・イシグロさん、騒ぎの渦中で落ち着き

ウィル・ゴンパーツBBC芸術担当編集長

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イシグロ氏、ノーベル文学賞「間違いかと思った」

「ノーベル賞受賞者は、どういう服を着たらいいのかな」。自分がノーベル文学賞を受賞したと40分前に知ったばかりのカズオ・イシグロさんは5日、こう尋ねた。

「意外な」知らせだったという表現は控えめ過ぎる。文字通り、本当のことだと信じられなかったのだ。

ただし間もなく、電話が絶え間なく鳴り始め、自宅前にテレビの取材陣が整然と並び始め(「どうしてみんな僕の家を知ってるんだ?」)、版元が精鋭の応援チームを派遣してくるに至って、やっと理解したのだという。

これはフェイクニュースではないと。これは素晴らしい、びっくりするニュースなのだと。もしかして受賞にふさわしい作家はほかにもいるのかもしれないが、とイシグロさんは思った。「けれども、賞というのはそういうものだから。宝くじのようなもので」。

混沌に取り囲まれながらも、イシグロさんはゆったりと落ち着き、穏やかに思慮深く、(このインタビュー用にきちんとした上着を取りに、パッと2階に上がって戻ってきてから)、いかに物語の力を信じているかを語った。そして自分の書く物語がしばしば、無為に終わった人生や機会について探る内容になっていると。

イシグロさんのロンドンの自宅前に集まった報道陣 Image copyright PA
Image caption イシグロさんのロンドンの自宅前に集まった報道陣

「物語の語り方によっては、人種や階級や民族性といったバリアを超えられるはずだと、僕は常に信じてきた」

私にとっては、イシグロさんは使う言葉のくくりを問わず、世界最高峰の現役作家の一人だ。どんな作家も物語を語ることができる。イシグロさんが語る物語は、次元が違う。

イシグロさんは読者を、代替現実のような世界に引き込む。その世界は未来かもしれないし、現在かもしれないし、過去かもしれない。完全体で本物の場所のように思えるが、見知らぬ場所だ。

イシグロ作品の世界は奇妙で、必ずしも幸せな場所でない。しかし自分の居場所がみつけられる世界、親近感を感じることのできる世界で、読者は登場人物たちに深く引きつけられていく。これは作家の仕事そのものだが、彼はただほかの多くの作家よりも、これが上手なのだ。

Kazuo Ishiguro and reporters Image copyright AFP
Image caption 自宅の庭で報道陣を前にしたイシグロさん

英国にいながら日本人の家庭で育ったことは、自分の物語作りに欠かせない要素だとイシグロさんは言う。そのおかげで、周りのイギリス人とは違った視点で、世界を見ることができるようになったと。

確かに彼の作品では語り部の多くが、物語から一歩身を引いた距離感で語る。これは「表面は穏やか、表面は抑制されているという、日本の芸術の長い伝統からきている。表面の下に抑え込んだ感情の方が、より激しいという感覚がある」とイシグロさんは話す。

しかし受賞発表後に会った時、イシグロさんの感情は表面的なものだけではなかった。大喜びしていたし、それは当然の喜びだ。

カズオ・イシグロはノーベル文学賞にふさわしい受賞者だ。

(英語記事 Kazuo Ishiguro keeps calm amid Nobel Prize frenzy

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