もともと消費税は何に使われる予定だったのか。そもそも、なぜ10%に引き上げる必要があるのか。争点の1つになっている消費税について考えます。
(経済部記者 後藤匡)
与野党のスタンスは
今月10日に公示される衆議院選挙。各政党の公約が出そろいつつあります。消費税のスタンスは大きく2つに分かれています。
与党は、2019年10月に予定どおり消費税率を10%に引き上げたうえで、消費税の使い道を見直し、医療や年金・介護だけでなく、幼児教育や高等教育の無償化などにも充てるとしています。
それに対して野党側は、消費税率の10%への引き上げを凍結すべきだ、などと主張していて、使い道の変更以前に、税率の引き上げそのものの是非を巡っても論戦が交わされる見通しです。
そもそもなぜ10%なのか
消費税率の10%の引き上げは、2012年に、当時の民主党政権のもと、民主・自民・公明の3党が合意した「税と社会保障の一体改革」で決まりました。
高齢化による社会保障費の膨張に対応できず、借金で財源を賄っている状況を改善し、持続可能な社会保障制度にしていくためです。このため、消費税率を引き上げる際の増収分は、全額、社会保障に使うことになっていました。
その後に成立した消費税率引き上げ法では、2014年4月に5%から8%に、2015年10月に10%に引き上げることが明記され、これに沿って消費税率は2014年4月、8%に引き上げられました。ところが、その直後から個人消費が落ち込んで景気が冷え込み、政府は2度にわたって10%への引き上げを延期。現在は、2019年10月に引き上げることが予定されています。
与党側の主張は…
消費税率を8%から10%に引き上げた場合、およそ5兆6000億円の増収が見込まれています。
使い道は次のように決まっていました。8割に当たる4兆円程度を、社会保障費を賄うために赤字国債を発行しているのを抑える、つまり、借金を減らすために使い、残りの1兆円程度を所得の低い高齢者への給付金などの社会保障の充実に回す計画でした。借金返済に回す分と社会保障の充実に充てる分の比率は4:1でした。
安倍総理大臣はこの比率をおおむね半々に見直して、社会保障の充実への配分を増やし、看板政策の「人づくり革命」の実現に向けて、2兆円規模の財源を確保しようというのです。そして、増やした分は、所得の低い家庭の子どもに限定した大学などの高等教育の無償化に向け、返済のいらない給付型奨学金や授業料の減免を拡充する方針です。
また、幼児教育でも、3歳から5歳まではすべての子どもを対象に、0歳から2歳までは所得が低い家庭の子どもに限って無償化することなどを加える方針です。
無償化の恩恵は誰に
では、幼稚園や保育園などの無償化が実現した場合、どういった人たちに恩恵が及ぶのでしょうか。
ここでは3歳から5歳の子どもが1人いる場合を例に見てみます。自治体の認可を受けた「認可保育所」と「認定こども園」の保育料は、保護者の所得水準によって国が上限を定め、自治体がその範囲内で保育料を決めます。
認可保育所と認定こども園の保育料について、政府は、すでに平成26年度から段階的に無償化を進めています。今年度で見ると、生活保護世帯や、市町村民税が非課税となっている、ひとり親世帯などは、保育料が無料になっています。
保育園の場合、完全無償化で新たに恩恵を受けるのは、それ以外の世帯で、高所得の世帯も含まれます。国の基準では、年収が1130万円以上の世帯では、3歳以上の子どもを認可保育園に預けた場合、1か月の保育料は10万1000円。これがすべて無償化されると、年間で120万円を超える負担の軽減になります。
幼児教育の無償化は、少子高齢化に歯止めがかからないなか、子育て世帯の負担軽減を図るという点では、前向きな政策だという指摘もあります。ただ、日本の財政状況が逼迫しているなかで、一律の無償化が必要かどうかは、議論の余地があるかも知れません。
高齢者の医療費などでは、所得の高い人にはそれ相応の負担をしてもらうという考え方で見直しが進んでいます。消費税の使い道を変更し、借金の返済に回す分を減らすことは、ツケを先送りすることとイコールです。
そして、それを負担するのは実は、今の子どもの世代になります。
野党側の主張は…
消費増税を前提に使い道の変更を訴える与党。これに対して野党の各党は多くが消費税率の10%引き上げの凍結や阻止を訴えています。
消費税率を5%から8%に引き上げた際には、その直後から増税前の駆け込み需要に伴う反動減で、個人消費が落ち込んで景気が冷え込んだことなどを踏まえ、今、10%に引き上げれば、経済に悪影響が出るなどとしています。
では、消費税の税率を引き上げないならば、予算を切り詰めるか、別の形で増税することなどが必要になります。
そこはどうするのでしょうか。
野党各党の公約に目を通すと、議員報酬・議員定数の削減、国家公務員の人件費・人員削減による経費の削減。消費者に負担を求めるのではなく、大企業の法人実効税率の引き上げや、富裕層を対象に所得税・相続税の最高税率を引き上げ、対応するべきだ、などと、さまざまな案を挙げています。
ただ、実際に実行できるかどうか、具体的な説明がない主張もあります。実現できなければ、借金頼みの財政運営がより強まる可能性もあります。
選挙で考えたい財政の行方
消費税の使い道の変更や、税率の10%への引き上げそのものの是非が、選挙のテーマになっていますが、与野党の主張に共通しているのは、財政健全化に対する具体的な説明が見られない、という点です。
安倍総理大臣は、消費税の使い道を見直すことで、財政健全化の目標としてきた基礎的財政収支と呼ばれる指標を、2020年度までに黒字化するのは不可能になるとして、達成時期を先送りする意向を示しました。しかし、その先の財政再建の道筋は、はっきり示されていません。
野党各党の消費税率の10%引き上げの凍結、あるいは阻止という主張も、それに代わる納得のいく対案が示されているとはいえません。
日本の財政状況は、国と地方を合わせた借金が1000兆円を超え、先進国で最悪の水準です。さらに2025年には、団塊の世代と呼ばれる人たちが、全員75歳以上の後期高齢者になる時代を迎えます。
後期高齢者になると、1人当たりの医療・介護費が急増します。社会保障の給付は、2012年に109兆円程度でしたが、2025年には、およそ149兆にまで跳ね上がるという試算があります。
支え手になる働く現役世代が減少する一方、支えてもらう高齢者は着実に増えていくのが目に見えている。それが、今の若い人たちの将来不安にもつながっています。
こうした状況をどう乗り切っていくのか。今回の消費税をめぐる与野党の訴えの中で、具体論が示されることを期待したいと思います。
- 経済部記者
- 後藤匡
- 平成22年入局
福井局 松江局をへて経済部
財務省担当