安倍首相の教育無償化、日銀の2%目標には逆風-物価押し下げ要因に

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安倍首相

Photographer: FRANCK ROBICHON/EPA-EFE
  • CPI予想も下方修正を余儀なくされる-バークレイズ証・永井氏
  • 安倍首相は消費増税の増収分を教育無償化などに振り向ける方針

安倍晋三首相が衆院選の公約に掲げた教育無償化が、日本銀行が目指す2%物価目標の障害になるという見方がエコノミストから上がっている。

  調査会社IHSマークイットの田口はるみ主席エコノミストは電話取材で、物価の「押し下げ要因になるというのは確実だろう」と指摘。「下げたその年は必ず要素として効いてくる。少なくともその1年間は影響は出てくる」と話した。

  バークレイズ証券の永井祐一郎エコノミストは9月26日付リポートで、全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は最大0.4%ポイント押し下げられる可能性があると分析。野村証券の水門善之エコノミストは同月29日付リポートで、0.5%ポイント超、押し下げられる可能性があると予想した。

  一方、教育無償化の影響を過大視しない見方もある。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは同日付リポートで、同政策は「2次的影響を別とすればインフレ率には一時的な影響しかもたらさない」とみている。

  安倍首相は、2019年10月に予定している消費増税の増収分を教育無償化などに振り向けるとして衆院を解散。高等教育に加え、幼児教育でも無償化を進める方針だ。8月のコアCPIは前年比0.7%増と、物価上昇率は日銀が目標とする2%には程遠い状態が続く。

  教育費の無償化による物価押し下げには、前例がある。バークレイズ証の永井氏によれば、旧民主党政権時の高校教育の一部無償化によって10年度のコアCPIがおよそ0.5%ポイント押し下げられた。

  永井氏は、教育無償化が実施された場合、下振れ圧力によって「日銀の想定するCPI上昇率予想も大幅な下方修正を余儀なくされるだろう」と指摘。政策が実施される時期によっては、金融政策の正常化も一段と後ずれする結果となりかねないとみている。

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希望公約:ユリノミクスで消費増税凍結、内部留保課税検討も

更新日時
  • 金融緩和と財政出動に過度に依存せず、民間活力引き出す
  • 大規模金融緩和は当面維持、歳出削減・国有資産売却を徹底

希望の党(代表・小池百合子東京都知事)は6日、衆院選の公約を発表した。安倍晋三政権のアベノミクスは民間活力を引き出す規制改革が不十分だとして、新たな経済政策「ユリノミクス」を提唱。2019年10月からの税率10%への消費増税凍結や大企業を対象にした内部留保課税の検討も明記した。

  「ユリノミクス」については「金融緩和と財政出動に過度に依存せず、民間の活力を引き出す」と説明。日本銀行の金融政策については「大規模金融緩和は当面維持した上、円滑な出口戦略を政府日銀一体となって模索する」と記載した。

希望の党の小池百合子代表
希望の党の小池百合子代表
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  公約は、株高・円安・失業率の低下などアベノミクスの成果を認めたものの、「一般国民に好景気の実感はない」と強調した。消費増税は「一度立ち止まって考えるべきだ」として凍結する方針を明記し、実行する前に歳出削減、国有資産売却を徹底すべきだとの考えも示した。「300兆円もの大企業の内部留保への課税」なども検討して、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の改善を図るとした。


   小池代表は会見で、公約には「他党がこれまで打ち出せなかったこと、 タブーに挑戦するぐらい思い切った案」を盛り込んだと語った。自身の衆院選出馬に関しては国政と地方の連携を進める上で「私が都政に身を置いているのはプラスの効果がある」と改めて否定した。

  民間主導の事業再編や起業を促進するため、政府系金融機関・官民ファンドの「可及的速やかな廃止」も訴え、事業開始の元手となる資金「シードマネー」の提供を誘発する制度改革を進めて国内の独立系企業再生ファンドやベンチャーキャピタルを育成する方針も打ち出した。

  2030年の「原発ゼロ」を目指し、再生可能エネルギーの比率を30%まで向上させる方針も明記。「原発ゼロ」をいったん政府が決めた場合は政権交代によって変わることがないよう憲法に明記することを目指すとした。

  改憲については「自衛隊の存在を含め、時代に合った憲法のあり方」を議論すると提唱。地方自治の「分権」の考え方を明記し、「課税自主権」「財政自主権」についても規定する案を唱えた。

  北朝鮮への対応など安全保障政策については「党派を超えて取り組む」とし、集団的自衛権の行使を条件付きで認める現行の安全保障法制も「憲法にのっとり適切に運用」すると明記した。

  

  
  

  

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