「アウトレイジ」三部作はいずれも、登場してくる役者たちが画面の隅々まで活き活きと輝いている。そのギラついたエネルギーが、このシリーズに迫力をもたらしている。
それは、これまで静けさの中でドラマを描いてきた北野武監督の世界とは対極的なものであった。
©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会
北野監督はいかに役者たちと向きあい、そして彼らと熱気を引き出してきたのだろうか——。
役者は一発勝負
—— 「アウトレイジ」シリーズは役者たちがそれぞれ驚くほど際立っています。そこで、北野監督が役者たちの魅力をいかに引き出しているのかということについてお話を伺いたいと思います。このシリーズでは、監督は現場で彼らにどのようなスタンスで演出をしてきましたか。
北野武(以下、北野) 一作目『アウトレイジ』(2010年)は、あんまりしゃべらせずにドンパチを主体にやってたんだけど、一本やってそれもちょっと飽きたなと。それで二作目『アウトレイジ ビヨンド』(2012)は「言葉の喧嘩」をやろうっていうことで関西弁と関東弁をぶつかり合わせようと思って、特に関西弁の「コラア!」「アホウ!」ばっかしのやつをやろうと。
その時に役者さんも西田敏行さんたちが来るんだけど……まあこの人たちになんか言う必要ないんだよね。西田さんたちにプレッシャーかけるのはうちのスタッフ。照明からカメラマンから、もう現場入った瞬間に準備が出来上がって待ってるから。彼らが現場に来たらもういきなり「はい、ドライ ※ お願いします」ってなる。
※ドライ:ドライ・リハーサル。カメラ撮影なしでの通しのリハーサルのこと。
しかも俺の現場はドライ1回で終わりだから。で、俺はモニターで彼らの芝居をずっと見てて、助監督呼んで、位置だけ変えて、次はもう「はい本番」だから。ドライを見たらあとは立ち位置だけ決めて「こう動く」って指示するだけ。本番も、ほとんど稽古しないというかテイク取らないで一発勝負。
よっぽど失敗しない限り2回は撮らない。オリンピックの100m競争だと思ってる。役者さんたちもそれを知ってるから、楽屋入る前からテンション上がって入ってくる。だから現場でもみんなビリビリビリビリしてる。俺はそれ見て楽しんでるもんね。
—— その役者さんたちのテンションがそのままスクリーンに映し出されている、と。
北野 うん。現場に入ったらドライやってすぐ本番だから、リハーサルでテンション上げていく人なんか間に合わない。だからスタジオ入る前からテンション上げてくる。
「北野組ってすごい異様な感じだ」ってみんな言うね。とにかく音声さんから何から、スタッフはシーンとしてるし。
まあ漫才と同じなんだよね。漫才師が客前で何回も同じネタやったってしょうがない。全然ウケないから。おいらは漫才師出身だから、一番おもしろいのは初めて客前でやったネタだって分かるんだ。同じ客を呼んで、同じネタをやっておもしろいわけないっていうのが頭にあって。それは演技者もそうだと思う。だから役者は一発勝負。
—— そうやって役者がいきなり集中力を発揮できるよう持っていくわけですね
北野 大事なのはテンションの上げ方だね。うちは撮り終わるのが速いから。夜7時か8時の終わりってスケジュール表に書いてあってもお昼の12時に終わっちゃう時あるし。みんな1発で終わっちゃうから。だから西田さんたちは喜ぶけどね。「野球観に行こう」とか言って。
—— 役者さんたちもリハーサルが長かったり、何度も撮り直したりするのは嫌なものですもんね。
北野 俺も役者として『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)に出た時は多くのカメラで撮って、角を曲がって少し歩いて来るだけで何度も撮られたことあったな。イライラしちゃってやめようかと思ったよ。
若手が上手い芝居をマネしたってダメ
—— 北野監督の役者への演出でおもしろいと思ったのは、『ソナチネ』(1993)の時のエピソードです。チャンバラトリオの南方英二さんが殺し屋役で現場に来た時に、表情を物凄く怖く作っていたところを監督が「いや、そうじゃなくて無表情で殺してくれ」とおっしゃった。『アウトレイジ』以前の北野映画の「静」の演出が象徴されているように思います。
北野 あの人ね、「殺し屋だ」って言って呼んだら、拳銃持ってこんな(いかつい)顔してたんだよね。で、拳銃取っちゃって、「役変わりました」って、釣り人にしちゃったんだ。釣り竿を背負って、クーラーボックスも持たせてトボトボ歩いてもらって。「これでいいんですか?」「いいんです。魚釣りに来たんだから」ってずっと言っといて、最後の最後に拳銃渡して「向こうから人がくるからそれ撃って下さい」って。そしたら「やっぱり殺し屋だったんですか!」って。
ああいう時代劇でちゃんとした芝居してきた人が殺し屋の役をやっちゃうと殺し屋の雰囲気を作って歩いてきちゃうんだよね。はなから向こうから来たのは殺し屋だったって分かるような芝居をされちゃうと困るんだ。向こうから淡々と歩いてきて淡々と拳銃持つっていう、そういうのが怖い。
—— 「アウトレイジ』シリーズになると、そこが一転している部分があるように思います。出てくる人たちは淡々としていなくて、ヤクザらしい、いかつい顔をしている。そして感情を露わに怒鳴りまくる。
それまでの北野映画が「能」的な、抑制した感情表現の中での芝居だとするなら、このシリーズの芝居は「歌舞伎」的といえます。こうしたヤクザの演技についてはどういう狙いがありましたか。
北野 ヤクザ映画って、片っぽでVシネみたいなせっこいのあるじゃん。ヤクザ、チンピラがきったねえスーツ着て。
あれに対してね、「そういう風に撮りたいんなら衣裳からちゃんとしろ。ちゃんとした役者でやれよ」っていうね、そういうのがあった。
役者もそう。やっぱ義理かなんかで出したようなヤツを親分で出したって顔が違うんだよ。それを芝居うまいのが本当にやれば、悪い顔っていうのもまったく違う。一作目の三浦友和さんとか、ああいう感じが実際の悪の顔なんだ。三浦さんのことすごい好きだったから、一度ヤクザをやったら……と思っていたら、やっぱり良かったよね。
それから二作目になると西田さんや塩見三省さんとかが関西の叩き上げをやると、これも上手い。あれ見て、みんな若手がマネするんだよね。同じやり方を。他の映画観ると、あの西田さんのやり方とか塩見さんの怒鳴り方をマネすんの。だからダメなんだ。オリジナルじゃないんで。
©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会
—— 同じ演技でもうまい役者がやるのと、そうじゃない人がやるのではまったく違ってくるわけですね。
北野 全然。背中に背負ってるものから違うよ。
—— 上手い役者たちが高いテンションでぶつかり合う。そこにこのシリーズの魅力があります。今回の『最終章』でも役者たちの芝居を観ているだけでも楽しい。
北野 花形歌舞伎みたいなところあるよね。花菱会とのやり合いなんてね。今度は会長役で大杉漣さんが出てくるわけだけど、西田さん塩見さんと三人で組むと大杉さんは汗ダラダラかいてやってる。負けられないから。
—— 大杉さんの演技のさせ方というのも、今回は監督の初期作品からだいぶ変えています。それこそ以前の作品では能面のように芝居させていたのが、今回は感情をむき出しにしながら徹底してヤクザの芝居を作っている。彼の場合、それが全く様になっていないんですが、その感じがかえってあの役にはピッタリでした。
北野 大杉さんの役は新しい会長だけどヤクザとして修行してないし墨も背負ってない、エンコも詰めてない。元証券マンだから。それで花菱会では全然バカにされてる。「この男は、そのことがもう腹が立ってしょうがないんだよ」って大杉さんには教えといたんだ。「みんなにバカにされてんのを分かってるけど『お前らみたいなバカよりもここ使うんだ。おれは頭でのし上がったんだ』って常に思っておいて」って言って台本を渡して。だから「このやろう!」ってやるんだけど、ちっとも怖くない。
次回「北野武にとって『凄い役者』とは、器用な猿ではなく、何にもしないパンダである。」は10/7(土)更新予定
聞き手・構成:春日太一 撮影:吉澤健太
『アウトレイジ 最終章』10月7日(土)全国ロードショー
出演:ビートたけし 西田敏行 大森南朋 ピエール瀧 松重 豊 大杉 漣 塩見三省 白竜 名高達男 光石 研 原田泰造 池内博之 津田寛治 金田時男 中村育二 岸部一徳
監督・脚本・編集:北野 武 音楽:鈴木慶一 配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会