イシグロ小説「人間の『記憶』を一貫して描いてきた作家」

イシグロ小説「人間の『記憶』を一貫して描いてきた作家」
日系イギリス人作家のカズオ・イシグロさんがことしのノーベル文学賞に選ばれたことについて、これまで2回、イシグロさんへのインタビューを行ったことがある翻訳家で東京大学名誉教授の柴田元幸さんは、「カズオ・イシグロさんは、1980年代のデビュー以来、常に質の高い長編小説をコンスタントに発表し続けていて、ノーベル文学賞の受賞は妥当だと思います」と受賞についての受け止めを語りました。
そのうえで、イシグロさんの小説の特徴について、「人間の『記憶』というテーマを一貫して描いてきた作家だと思う。人間の記憶がいかに不確かで、人が過去をどうねつ造していくかという問題や、記憶をたどっていくことによって過去とどう向き合っていくかという、世界のどこでも通じるテーマを、読み応えのあるストーリーと明快な文章で描いている」と説明しました。

また、イシグロさんと日本との関わりについては、「カズオ・イシグロさんは日本で生まれたものの、幼いうちにイギリスに渡り、日本のことはほとんど知らなかった。一方、最初の2作の長編小説は日本を舞台にしたもので、これは小津安二郎の映画などを通じて知った日本のイメージをもとに、『未知の国』である日本を夢見て書いた小説だった。小説自体も小津安二郎の映画に見られるような、静かなタッチの作品だった。その後はさらに世界が広がり、スケールの大きな物語を描くようになり、日系であることを土台にした作品は見られなくなっている」と話していました。

専門家「現代文学のテーマ 探求に成功」

翻訳家で英語圏の現在文学に詳しい早稲田大学文学学術院の都甲幸治教授は、「カズオ・イシグロさんは現代文学の作家の中でも非常に作品のレベルの高い作家で、ノーベル文学賞は70代や80代の作家が受賞することが多い中、60代前半で受賞を果たしたことは、すばらしいことだと思います」と受け止めを語りました。

そのうえで、イシグロさんの小説の特徴について「記憶の中の感情や夢など、私たちが『現実』だとは思っていないものを組み合わせて、幻想的な小説の世界を築き上げている」と指摘したうえで、世界的な評価を受ける理由については、「『思い出』や『郷愁』『妄想』などといったおぼろげな感覚を含めたものこそが、私たちの暮らす生の現実なんだという現代文学の重要なテーマを、作品を通じて探求し続け、その探求に非常に高い水準で成功している点があげられる」と分析していました。

また、イシグロさんの作品の魅力については「現代文学の最先端の位置にいながら、小説の中には私たちが共通して持つ『失われた過去への思い』や『子ども時代の記憶』などといった日常的な感覚とも共鳴する部分があり、文学を読み慣れていない人でも楽しみやすい作家だと思う」と話していました。

翻訳本の出版社社長「内面は古風な日本人」

カズオ・イシグロさんの翻訳本を出版している早川書房の早川浩社長は5日夜、記者会見し、「近い将来、受賞すると思っていましたが、まさかことしとは思っておらず、とても驚いています。早く『おめでとう』と声をかけたい」と喜びを語りました。

また、カズオ・イシグロさんの性格と作品の魅力について、「イギリス人だが内面は古風な日本人だと感じている。作品の魅力はいずれも人間性、人間味を掘り下げているところにあると思っていて、彼の人格に通じるものがある。今回の受賞が、多くの人が彼の作品に親しむだけでなく、文学との距離を縮めるきっかけになればうれしい」と話していました。

早川書房は17年前にカズオ・イシグロさんの翻訳本を出版する権利を取得し、これまでに単行本と文庫本を合わせておよそ100万部、発行しているということです。

BBC「今の時代を代表する作家の1人」

BBCなどはイシグロ氏の受賞決定を速報で伝えています。解説をした記者は、「イシグロ氏は不思議な空間を舞台に、読者を物語にいざなうたぐいまれな力を持っている。今の時代を代表する作家のひとりだ」との評価を伝えました。

また、文学の書評で定評があるイギリスの高級紙「ガーディアン」は、去年のノーベル文学賞がアメリカのシンガーソングライター、ボブ・ディラン氏におくられたことに触れたうえで、イシグロ氏の受賞決定を「去年ほどではないもののことしも驚きの受賞だ」と伝えました。
ガーディアンはさらに、イギリスで最も権威のある文学賞であるブッカー賞を受賞した「日の名残り」などの作品を挙げ、ことし、イシグロ氏の受賞を予想する人は少なかったものの、極めて評価の高い作家のひとりだと伝えています。
イシグロ小説「人間の『記憶』を一貫して描いてきた作家」

イシグロ小説「人間の『記憶』を一貫して描いてきた作家」

日系イギリス人作家のカズオ・イシグロさんがことしのノーベル文学賞に選ばれたことについて、これまで2回、イシグロさんへのインタビューを行ったことがある翻訳家で東京大学名誉教授の柴田元幸さんは、「カズオ・イシグロさんは、1980年代のデビュー以来、常に質の高い長編小説をコンスタントに発表し続けていて、ノーベル文学賞の受賞は妥当だと思います」と受賞についての受け止めを語りました。

そのうえで、イシグロさんの小説の特徴について、「人間の『記憶』というテーマを一貫して描いてきた作家だと思う。人間の記憶がいかに不確かで、人が過去をどうねつ造していくかという問題や、記憶をたどっていくことによって過去とどう向き合っていくかという、世界のどこでも通じるテーマを、読み応えのあるストーリーと明快な文章で描いている」と説明しました。

また、イシグロさんと日本との関わりについては、「カズオ・イシグロさんは日本で生まれたものの、幼いうちにイギリスに渡り、日本のことはほとんど知らなかった。一方、最初の2作の長編小説は日本を舞台にしたもので、これは小津安二郎の映画などを通じて知った日本のイメージをもとに、『未知の国』である日本を夢見て書いた小説だった。小説自体も小津安二郎の映画に見られるような、静かなタッチの作品だった。その後はさらに世界が広がり、スケールの大きな物語を描くようになり、日系であることを土台にした作品は見られなくなっている」と話していました。

専門家「現代文学のテーマ 探求に成功」

翻訳家で英語圏の現在文学に詳しい早稲田大学文学学術院の都甲幸治教授は、「カズオ・イシグロさんは現代文学の作家の中でも非常に作品のレベルの高い作家で、ノーベル文学賞は70代や80代の作家が受賞することが多い中、60代前半で受賞を果たしたことは、すばらしいことだと思います」と受け止めを語りました。

そのうえで、イシグロさんの小説の特徴について「記憶の中の感情や夢など、私たちが『現実』だとは思っていないものを組み合わせて、幻想的な小説の世界を築き上げている」と指摘したうえで、世界的な評価を受ける理由については、「『思い出』や『郷愁』『妄想』などといったおぼろげな感覚を含めたものこそが、私たちの暮らす生の現実なんだという現代文学の重要なテーマを、作品を通じて探求し続け、その探求に非常に高い水準で成功している点があげられる」と分析していました。

また、イシグロさんの作品の魅力については「現代文学の最先端の位置にいながら、小説の中には私たちが共通して持つ『失われた過去への思い』や『子ども時代の記憶』などといった日常的な感覚とも共鳴する部分があり、文学を読み慣れていない人でも楽しみやすい作家だと思う」と話していました。

翻訳本の出版社社長「内面は古風な日本人」

カズオ・イシグロさんの翻訳本を出版している早川書房の早川浩社長は5日夜、記者会見し、「近い将来、受賞すると思っていましたが、まさかことしとは思っておらず、とても驚いています。早く『おめでとう』と声をかけたい」と喜びを語りました。

また、カズオ・イシグロさんの性格と作品の魅力について、「イギリス人だが内面は古風な日本人だと感じている。作品の魅力はいずれも人間性、人間味を掘り下げているところにあると思っていて、彼の人格に通じるものがある。今回の受賞が、多くの人が彼の作品に親しむだけでなく、文学との距離を縮めるきっかけになればうれしい」と話していました。

早川書房は17年前にカズオ・イシグロさんの翻訳本を出版する権利を取得し、これまでに単行本と文庫本を合わせておよそ100万部、発行しているということです。

BBC「今の時代を代表する作家の1人」

BBCなどはイシグロ氏の受賞決定を速報で伝えています。解説をした記者は、「イシグロ氏は不思議な空間を舞台に、読者を物語にいざなうたぐいまれな力を持っている。今の時代を代表する作家のひとりだ」との評価を伝えました。

また、文学の書評で定評があるイギリスの高級紙「ガーディアン」は、去年のノーベル文学賞がアメリカのシンガーソングライター、ボブ・ディラン氏におくられたことに触れたうえで、イシグロ氏の受賞決定を「去年ほどではないもののことしも驚きの受賞だ」と伝えました。
ガーディアンはさらに、イギリスで最も権威のある文学賞であるブッカー賞を受賞した「日の名残り」などの作品を挙げ、ことし、イシグロ氏の受賞を予想する人は少なかったものの、極めて評価の高い作家のひとりだと伝えています。