iPS細胞応用の薬 世界初の臨床試験 京大

iPS細胞応用の薬 世界初の臨床試験 京大
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京都大学のグループが、iPS細胞を使って見つけ出した薬の候補となる物質を難病の患者に実際に投与する臨床試験を始めました。大学によりますと、iPS細胞を応用した薬の臨床試験は世界で初めてで、半年間、効果を検証したうえで薬として国に申請したいとしています。
京都大学iPS細胞研究所の戸口田淳也教授のグループは、筋肉の組織が次第に骨に変化するFOP=進行性骨化性線維異形成症という難病の患者から作製したiPS細胞を使って、病気の進行を抑える効果のある物質を見つけ出すことに成功しました。

グループは、薬として国の承認を受けるための臨床試験を始め、5日に診察の様子が公開されました。京都大学医学部附属病院では、iPS細胞のもととなる細胞を提供した患者の1人で、兵庫県明石市の山本育海さん(19)が診察を受け、薬を受け取りました。

今回投与されるのは、免疫抑制剤として使われているラパマイシンという物質で、筋肉の組織が骨になるのを抑える効果があることが動物実験などでわかっています。臨床試験は京都大学と東京大学、それに名古屋大学と九州大学で、合わせて20人の患者を対象に半年間行われることになっています。

京都大学によりますと、iPS細胞を使った薬の開発で臨床試験が行われるのは世界で初めてだということで、グループでは効果などを慎重に検証したうえで、国の承認を得たいとしています。

戸口田教授「進行食い止める予防薬で期待」

主治医で臨床試験の責任者の戸口田淳也教授は「研究を始めて8年という短い期間で臨床試験を開始できたのは、まさにiPS細胞の力だと思う。この病気は非常にまれで、iPS細胞を使って繰り返し同じ実験ができたことで初めて病気が進むプロセスを確認できるようになった。今回の薬は病気を治す治療薬ではなく進行を食い止める予防薬としての効果が期待されている。試験の前と後で患者の症状が進行していないかどうかを慎重に確認していきたい」と話していました。

「頑張ってくれた研究者に感謝」

臨床試験が始まった山本育海さん(19)は(やまもと・いくみ)「まだまだ先のことだと思っていたので、ここまで早く受けることができるとは思いませんでした。頑張ってくれた研究者に感謝しています」と話しました。

iPS細胞と治療薬開発

iPS細胞は「再生医療」という新しい医療と「治療薬の開発」という2つの面で医療への応用が期待されています。

「再生医療」は病気やけがで失われた組織や臓器をiPS細胞などを使って再生するもので、将来的な実用化が期待されていますが、複雑なヒトの臓器などを完全に再生し、医療として確立するにはさらに研究が必要だとされています。

一方、「治療薬の開発」はより早く実用化が見込める分野として、大きな期待を集めてきました。患者から作製したiPS細胞は患者と同じ遺伝子を持っていることから、遺伝子に関わる病気の場合、細胞レベルで病気の状態を再現することができます。病気を再現した細胞を使えば病気が起こるメカニズムを詳しく研究できるだけでなく、さまざまな物質を投与して治療につながる効果が見られるかどうかを直接、実験で確かめることができます。

京都大学iPS細胞研究所では、パーキンソン病やALS=筋萎縮性側索硬化症といった国が指定する300種類以上の難病のうち、およそ半数の病気でiPS細胞を作製することに成功しています。また、こうしたiPS細胞を使って、世界中で治療薬の候補となる物質が報告されています。

ただ、実際の治療薬として実用化できるかどうかについては安全性や効果などを慎重に調べる必要があり、これまでは実際の患者への投与は行われていませんでした。今回、京都大学のグループが国の承認を得るための臨床試験を始めた薬は、すでに別の病気の治療薬として使われていたものです。

初めての臨床試験が始まることで、iPS細胞の医療への応用にさらに弾みがつくと期待されています。