震える…
相変わらず『キングダム』は経営に必要なことを教えてくれますね。
今回は、キングダムの533話「失われた士気」からの引用をたくさん含みますので、ネタバレが嫌いな方、単行本派の人はここでブラウザを閉じてくださいm(_ _)m
私は普段の仕事は…というかここ10年の仕事は経営コンサルの仕事に従事しています。クライアント企業に外部から入り込み、その企業に内部から変革をもたらす仕事です。今回のキングダム第533話にはその外部から参入するターンアラウンド系の仕事に従事している人に非常に参考になる視点が多く含まれています。
その大切な視点をこのブログを通じて共有するのが本記事の目的です。
組織が強烈なリーダーを失うと内部は烏合の衆と化す。
キングダムで言えば、今回、王翦軍の右腕、麻鉱が趙軍の総大将・李牧に討たれてしまいましたね。
総大将自ら敵陣ど真ん中に乗り込む李牧は流石の一言です。
巨大な中心だった麻鉱が撃たれたことで麻鉱兵はリーダーを失いました。そのまま戦意喪失…、戦う気力を失い、相手になすがままにやられることになっている場面です。
現在の麻鉱軍の臨時で指揮官となっている中年ミドル層の星・丁陽は実に頼りない感じになっています。まるで会社の使えない40代・50代の指示待ち人間みたい。ここも現代の会社員に対する強烈な風刺になっているように感じられてなりません。
リーダーが突然いなくなり、戸惑う内部の社員たち。
これについては私もたくさんの事例を見てきていますが、やはり一番私が語れる事例は、私が26歳の時に崩壊した、当時勤めていた呉服屋さんのはなし。
勤めていた会社が突然破産し、あの時も突然、リーダーが死んだのです。社長の飛び降り自殺でした。
その後、外から乗り込んできた破産管財人(★ここが今回の話の主役、楽華隊の蒙恬のポジションであり、私が通常の仕事で立つ立場★)のなすがままに解雇事例を受け取り、ビルの外に叩き出されたのでした。
当時26歳の指示待ち人間だった私は、何もすることができませんでした。何かに抗う士気も、そして目的も持っていませんでした。
リーダーを失い、一人では何もできない麻鉱兵の姿こそ当時の私そのものです。
だからこそ、今回のキングダム第533話は強烈に刺さってくるのです。
組織の危機に生じる空白状態を外部の専門プロフェッショナル職が臨時で切り盛りする
今回、李牧が麻鉱を必殺の一撃で葬った後に、麻鉱軍は意気消沈し、相対する趙軍・紀彗軍に大いに削り取られ、軍の崩壊点を超え、どうにもならない流れになっています。
会社で言えば、創業して以来30年間ワンマンで率いてきた社長が50代の若さで突然病死し、頼りない22歳の二代目が引き継いだ直後で、古参社員の退職が連発している状況でしょうか。
もしくは、会社の負債が膨れ上がり、銀行から担当が送り込まれ、「この会社は終わった」とばかりに社員が逃げ出し、社内の電気は消され、お通夜みたいになっている状況でしょうか。(そんな事例もありました)
内部の人間だけではどうしようもできない時に送り込まれてくるのが、異色の外部プロフェッショナル人材です。
日本で有名な事例で言えば、1999年当時、日産に送り込まれたカルロスゴーン社長などが有名ですね。
1999年3月、当時経営と財政危機に瀕していた日産がルノーと資本提携を結び、同年6月、ルノーの上席副社長の職にあったゴーンが、ルノーにおけるポジションを維持しつつ、日産自動車の最高執行責任者(COO)に就任。(中略)「コストキラー」「ミスター調整(FIX IT)」などの異名をとるゴーンは、日産再建に向け社員とともに「日産リバイバルプラン」を作成。短期間で日産の経営立て直しを果たし、2003年にフォーチュン誌は、彼を「アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の一人」と称している。
私にはそんなどでかい仕事はこないですが、私もクライアント企業に乗り込んでいき、ボロボロの事態を収拾する役割だと言えます。
キングダム第533話では、蒙恬がカルロス・ゴーンのポジションに入っています。
緊急時に外部から来たプロがやるべき3つのこと
事態は一刻の猶予もありません。まずやるべきは?そう、現状の確認ですね。
蒙恬もこう聞いています
『今の軍の指揮官は誰だ?』
『今の状況はどうなっている?』
『そんなことを聞いているんじゃない!どう対処しているか、聞いているんだ!』
緊急時にまずやるべきことは、現状のリーダーは誰か把握し、指揮命令系統を把握する。これが一番です。
次は、そのリーダーに状況を聞き、いま動いている手を確認します。この事態にリーダーはどんな手を打っているのか?外部の冷静な視点からそれを見極め、必要ならば、打ち手を迅速に変えねばなりません。
残念ながら、この段階で臨時のリーダーが適切な手を打てていることは少ないです。
キングダムでも臨時のリーダーが何もしていないことを蒙恬は激しく糾弾しています。
『何もしていないのか…。』
『分かっているのか!お前たちが兵を動かさないから精強な麻鉱兵が無残にやられているんだぞ!』
外から乗り込んだ20代の外部の人材が、現場の50代のリーダーを叱責する。
「そんなことでこのピンチを乗り切れると思っているのか?」
この一言を言えるか否かが、現実の社会では重要になります。
しかし、50代の臨時のリーダーが異常事態に適切な打ち手を出せるはずがありません。努力云々ではなくて、そのスキルが単純にないのです。経営をしたことがないから致し方ありません。経営トップの仕事経験なんて、普通に会社で仕事をしていては身につくはずがありませんから。
巨大なリーダーがいると、得てして内部は指示待ち人間になる…、その典型的な姿がキングダムでは描写されています。
この漫画が、中年サラリーマンに好まれる理由がわかるような気がします。
1. 指揮命令系統を確認する。
2. 状況を確認する。
3. 強烈なダメ出しをする。
これが緊急時には求められるのです。会社では刻一刻と社員が辞め、そしてお金が出ている状況ですからね、もう待った無しです。出血を止めなければなりません。
嘘でもいいから、元気を出せ!
経営コンサル役の蒙恬がまず最初に出した打ち手は、下を向いてショボくれているはがりの麻鉱兵に嘘でもなんでもいいからカラ元気を出せ!ということでした。
虚報です。
『お前らのリーダーは死んでなどいないぞ!』
この虚報の目的はとにかく麻鉱兵の顔をあげさせて周りを見る余裕を与えること。
『えっ、そうなの!リーダーは生きてるの!?』
そんなちょっとした希望で人は周りを見る余裕が生まれます。
小さい成果を探せ!きっかけを作れ!
次に蒙恬が打ち出したのは、飛信隊の信と楽華隊の陸仙に端っこの方で拠点を作ってもらうことでした。
今は麻鉱軍は全体的に押されまくっているので、ニッチもサッチもいかないわけです。
なので端っこ方で少し善戦してある自軍の箇所を探し、そこを広げる。
麻鉱軍の旗を掲げさせる。
そうすることで、その旗を顔を上げつつある麻鉱兵が目撃し、勇気を取り戻すキッカケになるんですね。
これは言わば、特区構想です。
東京都全体はルールや仕組みの大きな抗えない流れの中で毎日いきているけれど、組織として未来の芽を育てるために、小さな挑戦を例外的にしないといけない…。
そのために特区を作り、全体とあえて矛盾する箇所から変革の芽を生み出していくのです。
蒙恬が信に頼んだのはその変革の芽になってくれということでした。
サッカーで言えば、ゴール前でディフェンスを引きつけて一緒に倒れこむ、潰れ役です。仲の良い信に「潰れてくれ」と頼めるあたりが蒙恬のリーダーとしての資質を感じますし、原先生の伏線を感じますね
組織に根付いた火をつける言葉を相手の中から探せ!
今回は第533話で多くの人が震えるのがここですこのキングダムを紹介しようと思った、そして、原先生がすごいなと思うのはここなんです。
蒙恬はこう言います。
『最後の言葉で麻鉱兵に火をつける』
『その言葉は麻鉱兵しか知らない言葉だ』
『思い出して欲しい。麻鉱将軍は自分たちが苦しい時にどんな言葉をかけていた?どんな言葉でみんなを鼓舞していたんだ?』
麻鉱兵は言います。
『言うまでもない』
『何度聞いたことか…、麻鉱様は私たちをこう導いてくださったのだ』
立って、戦え!
この言葉を聞いて、麻鉱兵は麻鉱将軍が死んでしまったことに気づき、それでも彼を傍らに感じている自分に気づき、士気を盛り返すんですね。
ここまでが今回のキングダム第533話の話です。
蒙恬が見せた抜群のコーチング力
コーチング…と言ってしまうと原先生が封じ込めた言霊が安っぽく聞こえてしまうのですが、蒙恬がその極限状態で麻鉱兵に尋ねることができたことに、蒙恬のターンアラウンドマネージャーとしての素質が垣間見えます。(うーん、これは信は単純な武功だけでは蒙恬に到底追いつけんぞ。)
蒙恬がやったことは、本当に大切な言葉を相手から引き出したということです。
これを原先生が見事に描いたのが鳥肌ものでますます私を原先生LOVEにさせてしまうのです。
ちょっと弁の立つ奴(コンサル系)はこう言ってしまうんです。
『おい、あんたら!俺たちがこうして援軍にきてやったんだからお前らも諦めんと頑張れ!』
部外者にこう言われることほど腹立たしいものはありません。
『お前に何が分かるっ!?麻鉱様と俺たちの絆を知ってその言葉を吐いているのか!』
と総スカンを食らうのがオチです。経験の浅い、学歴の高い外資の戦略コンサルとかはこれをやってしまいがち。答えが見えてしまうからこそそれを何の配慮もなく相手にぶつけてしまうわけですよね。
蒙恬は違いました。
『あんたらにしかわからない言葉だ』と相手から正解が出るに任せました。
時は一刻を争う事態です。目の前で仲間がバッタバタ死んでいる時に相手からの回答を待てるかどうか?
子育ても似たようなところがあるかもしれない。
子供が一生懸命に言葉を探している。自分で言葉を紡ごうとしている。その時に親はグッとこらえて待てるかどうか?
性質はすごく良く似ていると思う。
弱った麻鉱兵を鼓舞し、士気を取り戻すのは蒙恬の激ではない。麻鉱の言葉なのだ。
それを蒙恬は分かっていたんですね。
相手から答えが出てくるのを傾聴で引き出すのがコーチングの要諦です。でもそれが本当に現場でできているかどうかは、このような土壇場で明らかになるのです。
忘れてはいけない「個の力」
サッカー解説者がよく言うのは
「欧米サッカーは個の力が高いので日本はスピードで対抗する」
というか下りです。私はサッカーはよく知らないのですが、それを言ってしまうと身もふたもないほど絶望的な一言です。
往年の若乃花や舞の海に対して「彼らは身体が小さいから曙にはスピードで対抗するべき」的な発言と一緒です。
残念ながら、ルックス、体格、頭脳、センス、生まれ…、色々な先天的な要素に人の成功は大きく依存してしまうのが偽らざる現実です。あなたも感じていると思います。
原先生はその現実も忘れずにしっかりと描いておられます。
今回、蒙恬の経営コンサルタントぶりにフォーカスして話を展開していますが、忘れてはいけません。
そもそもの話の前提は、個の力
『麻鉱兵は強い』がスタートになっているということを。
もしこれが「普通の軍」だったらば蒙恬がどれだけ優れたターンアラウンドマネージャーだったとしても麻鉱軍を蘇生させることはできません。3人集まっても文殊の知恵は出てきません。優れた人が3人寄るから良い知恵が出てくるものです。
だから今回のキングダム第533話「失われた士気」は残酷な話でもあるんです。
個の力が弱いと何がどうなっても助けることができないということ。
原先生の裏メッセージはここにある気がしてなりません。
今回の第533話は個の力の話を抜きにしても成立すると言えばするんです。
『立って、戦え!』という麻鉱兵に叩き込まれたDNAを描けば話のスジは変わらないし、感動させることができるんです。
でも原先生はそれをしません。
麻鉱兵は強い
↓
少数でも局面を打開できる
↓
そのためには士気をあげないといけない
↓
まずはカラ元気から
↓
上を向け!
↓
拠点を作れ
↓
麻鉱将軍の言葉を思い出せ!
↓
麻鉱兵、覚醒せり。
この数直線で1番最初に「麻鉱兵は強い」を入れるということを読者である私たちは意識しないといけない。
あなたは、強いですか?
局面を打開できる力を持っていますか?
個の力は強いですか?
こう原先生は私たち問われていると考えた方が、よりこのキングダムの物語、登場人物の心の機微を味わえるし、何より私たちの日常生活を具体的に変革するエッセンスを、漫画というメタファーを通じて読み取ることができると思うんです。
私もこの記事を通じて、俺のキングダム愛は強いぞ!と声高に叫びたくなってきました笑
いやー、原先生に感謝ですね~。仕事に闘魂注入された気分です。
企業の変革のストーリー...、まるでプロフェショナル仕事の流儀な世界に興味がある人は、三枝匡系はマストですよ。