選挙

小泉進次郎が今度の選挙で新聞記者を「挑発」する理由

2017衆院選・密着ルポ➀

記者たちも茫然

目の前にいる女性記者の手は小刻みに震えていた。

「なんで万歳するんですか?」

彼女から「なぜ解散の瞬間に万歳をしなかったのか」と訊かれた小泉進次郎は、とっさにそう返した。

衆院解散の直後、進次郎は衆院本会議場の外で報道陣に囲まれていた。質問した女性は「進次郎番」の中でもあまり見ない顔だ。

本会議場の上にある記者席から取材対象の議員を目で追うことは、ベストの座席を確保しない限り、意外と難しい。進次郎は、自分より若そうな記者の努力を「よく見ていましたねえ」と労った直後、逆質問で不意打ちをしたのだ。

すると、女性記者の顔は凍り付いた。

4秒の沈黙が続いた後、「正解」を口にした。

「わかりませんよね。だから、やらないんです。『今までやってきたから』と言って、慣習だからとか、合理的理由がないのにやり続けることはボクは好きじゃない。全部なくせばいいと思う」

まるでホリエモンが憑依したようなストレートな物言いは、進次郎がこれから仕掛けようとする「ある狙い」を暗示していた。

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36歳の進次郎は党の代表でも幹部でもない。ところが、今回の総選挙でも公の場で口を開けば、新聞もテレビもこぞって飛びつき、一言一句を全国に流す。連日鈴なりの「小池劇場」を面白く仕立てるには、格好の材料になるからだ。

「小池さん、選挙に出てください」

冒頭の囲み取材でも、報道陣を前にそう連呼すれば、メディアは「何分間で何度その言葉を言ったのか」までニュースにしてしまう。

一方、従来ならばマスメディアが担ぐ神輿に乗っかり、慣習通りに愛想よく振舞う進次郎だったが、今回はどうも様子が違う。これまで5度も彼の全国行脚を密着取材してきた筆者には、どうも選挙後を見据えた「ある狙い」があるからだと思えてならない。

 

衆院解散直後、進次郎は報道陣の前でいつになく持論を饒舌に語った。たとえば、小池を挑発するかのような「ジャブ」の後、新聞記者たちの目を睨みつけながら挑発を続けた。

「新聞の軽減税率、おかしいですよね。なんで新聞だけ(消費税率が)10%になっても8%のままなんですか。新聞は全部、消費増税に賛成なのに、自分たちには課されないんですよ。おかしくないですか。どこも報じませんよね?」

小池百合子と同じトレードカラーの緑のネクタイを締め、スーツの胸ポケットに白いハンカチーフを「TVフォールド」で整えた進次郎は、いきなり新聞の軽減税率について切り込んだ。2019年10月に消費税率が10%に引き上げられる際、新聞の値段には「生活必需品」という理由で軽減税率が適用されるのは周知のとおり。新聞業界だけが優遇されている実態に、突然石を投げたのだ。

そして、こう続ける。

「もし新聞を国民の7割、8割が読んでいて、これは国民の財産で、課税されたら困る、生活が苦しくなるというのならわかる。だけど、実態は逆で、新聞はどんどん読まれなくなっているでしょう。若い人なんて、『LINEニュース』ですよ。10年後、新聞あるんですか、ね。その業界のありかたを問わずして、他の部分がおかしいというのは業界のエゴじゃないですか。みなさんのしがらみじゃないですか」

約20分に及ぶ囲み取材のうち、じつに2分50分も費やして、総選挙の争点にもなっていない軽減税率への批判を展開した。そこにいた10人ほどの記者たちは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

「こう言ってもだいたい翌日の新聞には載っていない。でも、これは全国遊説でも言おうと思っています」