乱入され、せきが止まらず、文字は墜落……メイ英首相の党首演説
テリーザ・メイ英首相は4日、北部マンチェスターで開かれている与党・保守党の党大会で演説したものの、せきが止まらなくなり、コメディアンに乱入され、挙句は背後のスローガンの文字が床に落ちるという相次ぐハプニングに見舞われた。
党大会の演説でメイ首相は、総選挙で議席を失ったことの責任を認めつつ、「英国の夢を再生する」と様々な新政策を打ち出し、自分の指導力をあらためて確立しようとした。しかし、コメディアンのサイモン・ブロドキン氏がいきなり壇上に近づき、「ボリスがこれを渡してくれって」と解雇通知書類を手渡した。ボリスとは、ボリス・ジョンソン外相のこと。
ブロドキン氏が退場させられると、首相は、自分が解雇通知を渡したい相手は、野党第1党・労働党のジェレミー・コービン党首だけだと冗談を飛ばし、会場は拍手や歓声で応えた。
しかしその後、首相は声が出なくなり、せき込み、水を飲むためにたびたび演説を中断。フィリップ・ハモンド財務相が、のどあめを渡すほどだった。
首相に近い複数の消息筋は、首相が「党大会風邪」を引いたのかもしれないと説明。党大会中につきものの多数のインタビューや会議出席で、声がかれてしまったのかもしれないという。
保守党関係者によると、ブロドキン氏は治安妨害の疑いで逮捕された。なぜ首相に書類を手渡すほど接近することができたのか、警備体制の不備について徹底的に調べる方針という。「リー・ネルソン」というキャラクターとして知られるブロドキン氏は、これまでも野外音楽祭でカニエ・ウェストさんの舞台に乱入したり、汚職事件が批判されていた国際サッカー連盟(FIFA)ゼップ・ブラッター前会長に偽札を投げつけるなど、人目を引く行為を繰り返している。
党首演説でのハプニングはそれで収まらず、終盤には背後に掲げられていた「BUILDING A COUNTRY THAT WORKS FOR EVERYONE(すべての人のために機能する国づくり)」というスローガンから、まず「FOR」の「F」の文字が落下し、次に「EVERYONE」の最後の「E」が落ちた。
BBCのローラ・クンスバーグ政治担当編集長は、今回の党大会は「テリーザ・メイの権威再生が目的だったはずだが、今回のことでいっそう損なわれてしまうかもしれない」と指摘する。
スコットランド保守党のルース・デイビッドソン党首は、メイ首相の演説について、「逆境の中で闘うということの比喩そのものだった」と述べた。
党首演説の内容としては、首相は「現代的で思いやりあふれる英国」が必要だと呼びかけ、社会正義と公平の実現に注力していくと表明。「次世代の生活は今より良くなるはずだ」という「英国の夢」は現在、あまりにも多くの人にとって手の届かないものになっているため、自分が首相としてこの状態を是正すると約束した。
首相はさらに、マンチェスターの党関係者を前に、自分が率いた総選挙の選挙運動が「あまりに筋書重視で、大統領的過ぎた」と謝った。
ブレグジット(英国の欧州連合離脱)については、「英国と欧州の双方にとってうまくいく合意が見つけられると確信している」と述べた。さらに、英国在住のEU市民に対して、「皆さんにはこの国にいていただきたい」と強調し、すでに英国で生活するEU市民の在住継続を可能にする合意成立の必要性を呼びかけた。
演説後は、ハプニングについて話題が集中したものの、労働党のジョン・マクドネル影の財務相は、首相が演説で約束した政策をすべて実現するには150億ポンド(約2兆2500億円)かかると指摘。「保守党の『魔法の金の木』が戻ってきたようだ」と皮肉った。
野党・自由民主党のビンス・ケーブル党首は、「勇敢な首相が懸命にがんばっているのをよそに、不忠な閣僚たちが堂々と反乱を企てている。そういうなかでの首相演説だった」と論評した。
(英語記事 Theresa May battles a sore throat and prankster in conference speech)