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話題を追ってコウノトリ 7年目の課題 ブランド力農家恩恵
環境貢献には疑問も二〇一一年に始まった県のコウノトリ飼育・放鳥事業。コウノトリが兵庫県から飛来した縁で、里山再生のシンボルとしてコウノトリの飼育・放鳥や越前市白山、坂口地区での環境保全活動を展開した。過疎化が進む地元では、活動を通した活性化や新たな「ブランド」誕生を歓迎する。一方で、専門家からは批判的な意見もある。七年目を迎えるコウノトリ事業を考えた。 (藤共生) ■感 謝
県の事業に先立ち、〇八年に「コウノトリ呼び戻す農法」部会を立ち上げた人がいる。有機農法に取り組む越前市都辺(とべ)町の農業恒本明勇(つねもとあきお)さん(70)だ。〇六年から仲間四人と有機農法に取り組み始めた恒本さんにとって、コウノトリの放鳥事業は思わぬ幸運だった。「まさかこんなに盛り上がるなんて。予想外でした」 コストのかかる有機農法を営む農家にとって、採算性は大きな課題だ。「どんなに一生懸命作っても、それを消費者に伝える販売ルートがない。その点、コウノトリは経済効果がある」と話す。県の認証を受けた「コウノトリ呼び戻す農法米」が人気を呼び、価格は通常のコメの倍以上。コウノトリのブランド力で「なんとかやっていけてる」(恒本さん)のが現状だ。 ■弊 害
「コウノトリをシンボルにするのは、間違っていない。アベサンショウウオ米では誰も買わないから」と話すのは、福井大准教授の保科英人(ほしなひでと)さん(44)だ。一定の理解を示す一方、疑問を呈する。「コウノトリ事業は、果たして環境保全につながるのか」 生物学専門の保科さんは「コウノトリは里山全体の一部にすぎない。一部に力を入れ過ぎることで、さまざまな弊害を生んでいる」と指摘する。 保科さんが弊害の一つとして挙げるのが、コウノトリの餌となる外来種の拡散だ。生態系の頂点にいるコウノトリを守ることは、下位にいる動植物を守り育てることにつながるというのが保全活動の理想。しかし現実にコウノトリを維持する、つまり餌を確保するのは容易ではない。地元では餌となる外来種を放つ行為もなされていた。これによって、元々の自然環境が失われる事態が起きている。 一つの事例として挙げるのが、絶滅危惧種のアベサンショウウオの被害だ。繁殖地であった白山・坂口地区の湿地で、ある住民がアメリカザリガニを放流。すべての幼生が姿を消した。アベサンショウウオ研究の第一人者である越前市の元小学校長、長谷川巖(いわお)さん(73)は「腹立たしいけれど、言っても言っても、他の誰かがまた何かやってしまう」と肩をすくめる。 ■意 義ところで、コウノトリ事業の意義とは。県自然環境課の西垣正男主任は「これまでは今一つ、自然の保護に対する県民の関心が呼べなかった。その点、ここ数年のコウノトリの波及効果は大きい」と振り返る。 確かに、環境保全の意識は県民の間で広く認知された。だが、西垣主任は「ブームは、いずれ去ってしまう。ゆっくりと続けることに意義がある」と語る。事業を一過性の“イベント”ではなく、本当の意味で成功に導くには、課題の解決を図りながら、地道な取り組みが続くような努力が求められる。
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