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「デフレ完全脱却」への財政・金融政策の組み合わせはこれ

「シムズ理論」を日本に当てはめると…

「シムズ理論」の実証分析

今年初め、浜田宏一内閣官房参与によって、「シムズ理論」なるものが日本に紹介され、一時的にブームになった。そのためか、提唱者であるプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授は来日して講演を行うと同時に、官邸にも招かれ、デフレ脱却のための経済政策についての話をされたときいている(ただし、安倍首相の琴線に触れたか否かはよくわからない)。

「シムズ理論」は、正しくは、「物価の財政理論(Fiscal Theory of Price Level)」と呼ばれるものであり、リフレ政策との対比で単純にいえば、「(財政規律を放棄するようなスタンスでの)財政支出拡大を行えばインフレをもたらす」というものである。

現在の日本の状況に照らし合わせれば、「このタイミングで思い切って財政拡大を行えば、(追加の金融政策なしでも)デフレから脱却できる」という風にも取れることから、賛否両論、大きな話題を呼んだ。

左がクリストファー・シムズ教授 〔PHOTO〕gettyimages

この「シムズ理論」は、1990年代終盤から2000年初め頃にかけて、主に米国の数名の経済学者によって提唱され、その当時も日本で紹介されたことがある。だが、そのときにはさほど大きな話題にもならず、やがて忘れ去られていった。

また、米国においても、あくまでも理論的な可能性を論じるにとどまり、実証分析はなされてこなかった(強いて挙げれば、プリンストン大のマイケル・ウッドフォード教授が、1940年の米国が「シムズ理論」が適用可能な経済状況だったかもしれないと指摘しているが、これについての定量的な実証分析はなされていない)。

しかも、理論面でも、カーネギーメロン大のベネット・マッカラム教授らによる強い批判があり、そのうち議論は下火になっていった。

 

だが、2010年代に入って、定量分析の技術の発展もあり、「シムズ理論」は、実証分析に適用されるようになってきている。

とはいえ、これらは、「シムズ理論」そのものを実証的に考察するものではなく、過去において、金融政策と財政政策の組合せが、実際の経済にどのような影響を与えてきたかについての実証分析が主流になっている。そして、その中で、金融政策と財政政策の組合せの1つとして、「シムズ理論」がどのように位置づけられるかの考察に変わってきている。

このような金融政策と財政政策の組合せについての実証分析を行ったデューク大のフランシスコ・ビアンチ准教授は、金融政策と財政政策をそれぞれ、「Active(能動的)」と「Passive(受動的)」の2つの「レジーム」に分類し、計4通り(2×2)の政策の組合せを考え、米国における金融政策と財政政策の組合せが、4つの中のどの組合せであったかを定量的に検証している。