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富が集中する可能性は? データの誤差は? 医療費は適切か? ~犬の飼い主が見た、加計学園問題(その4)~

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 文:高栖匡躬

これまで3回にわたり、加計学園問題に端を発した『獣医師は足りているのか、足りていないのか?』という問題について書いてきました。

前回はそもそもの話で、動物病院の市場規模を探りました。これは要するに、儲からないと(少なくとも食える職業でないと)、誰も獣医師を目指さないだろうとの観点です。

順番的には、つぎは産業獣医の話に触れることになるのですが、1回だけここでインターバルを挟もうと思います。読者の方から、ここまでの記事で、幾つか気になる質問をいただいているからです。

質問(或いは課題の提起)というのは、下記の3つです。

①ごく一部の動物病院に、富の多くが集中していたらどうなるのか?
②使用した統計データ自体に、重大な誤差がある可能性は?
③市場規模の計算に、保険会社発表の値を使うのは如何なものか?

【目次】

質問の理由について

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下記に3つの質問の、理由を書きます。

①ごく一部の動物病院に、富の多くが集中していたらどうなるのか?

前回、前々回の記事に書いた、動物病院の0.1%の売り上げが3億円以上であることからのご質問です。もしもその中に、売上数百億の動物病院があれば、統計上の平均値が、用を成さなくなるのではという懸念です。

②使用した統計データ自体に、重大な誤差がある可能性は?

本記事では、バラバラに行われた調査からの統計データから、全体を推論していますが、もしも精度の悪い調査が1つでもあれば、それが全体に波及するのではないかという懸念です。

③市場規模の計算に、保険会社発表の値を使うのは如何なものか?

動物病院の市場規模の計算に、保険会社発表の値(1頭あたりの医療費)を使いましたが、それが本当に客観性のある数字なのかと言う懸念です。第三者の調査結果でなく、直接の利害関係者が発表したもので、バイアスが掛かっている可能性は無いのかと懸念されたのです。

上記3つとも、もっともなご意見であると思います。

ここから、筆者の所感をまとめていきたいと思います。
実は、②番目の検証の最中に、本件の本論とは逸れるものながら、興味深い問題を発見しました。そこも注意深く、ご覧いただけるとありがたいです。

 

一部の動物病院に、富が集中する可能性

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前回、前々回の記事では、売り上げが3億円以上の動物病院が、0.1%の割合と書きました。動物病院の総数11,675施設の中の、12施設がそれにあたります。

参考:動物病院の年間総売り上げ

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引用元:卓話 菅木悠二氏 淀川中央動物病院 院長 | 大阪フレンドロータリークラブ

動物病院の売り上げの平均値は3000万円と、前回報告をしています。つまり売上3億円の動物病院は1施設だけで、平均的な動物病院の10施設分の売り上げという事です。

もしも売上30億円であれば100施設分。300億円であれば、1000施設分の売り上げが集中していることになります。
1000施設というのは、全国の施設数の8.5%にもなるので、推論の結果に与える影響は大きいでしょう。

最高売上の動物病院

インターネット上にある資料を探し回りましたが、残念ながら動物病院の売り上げをリストアップするようなものは、見当たりませんでした。しかしその代わりに、全国の動物病院中、最高の売り上げを誇る病院が見つかりました。

神奈川県川崎市に所在する、株式会社日本動物高度医療センター(JARMeC)がそれで、売上金額は16億887万8000円(2016年)です。

www.jarmec.jp

出典資料は下記にあります。

出典:動物病院運営の売上高ランキング

※本データは、決算データを公開している企業がランキングの対象なので。非上場で決算データを公開していない企業が存在する可能性は残されています。

0.1%の上位層が、全体に占める割合を計算

少々無理やりではありますが、動物病院の売上上位(売上3億円以上)が、全体の売り上げに占める割合を計算してみましょう。

動物病院の売上上位にある0.1%の平均売り上げを、3億円と、最高値16億887万8000円の中間値である、10億2387万8000円とすると、この上位層の総売り上げは、下記のように推定できます。
 1675施設×0.1%×10億2387万8000=119.54億円

動物病院全体で考えると、
 11675施設×3000万円=3502億5000万円

つまり影響は?

動物病院全体の売上3502.5億円に対し、3億円超の層119.54億円は、僅かに3.4%に過ぎません。よって、”動物病院の市場規模を概算する”という目的のためには、大きな影響はないものと筆者は考えます。

 

統計データの誤差が、推論を狂わせる可能性

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本記事においては、調査の年を2016年に絞り、それに近い年のデータしか存在ない場合には、データ推移の傾向を見ながら、補正を行いました。これによって、大きく性格が異なる数字同士を掛け合わせて、計算することを回避しています。

入手できる資料がインターネット上で公開できるものに絞っているため、統計の手法や、母数であるN値にばらつきがある事は避けられません。

言い訳をするようで恐縮なのですが、『公表されている概算値から、全体の傾向を推論する』という、記事の目的は果たしたのではないかと考えています。

推論が狂う例

当記事の事ではないと申した上で、1つの可能性を提示したいと思います。

犬の頭数は調査の方法と調査年で、数字がかなり異なります。厚生労働省が発表する犬の登録件数は横ばいで、この10年は約650万~680万頭です。それに対して、本記事でも使用している一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査調査」は、一番多い年の2007年で13,101千頭、最新データの2016年が9,878千頭で、25%もの開きがあります。

もしも違う年代の調査数値をミックスして使ってしまうと、大きく結果が異なる場合があるわけです。

実は前回記事で少し触れた、狂犬病予防注射の接種割合で、その可能性があることに気が付きました。巷に定説のように流れている接種率の数字が、もしかするとこの間違いを犯しているのではないか? 或いは最新の統計データを反映しない、古い計算値が独り歩きをしているのではないか? と疑念が湧いたのです。

下記に、もう少しだけこの件に触れておきます。

 

本題とは違う課題:狂犬病予防接種の実施率

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犬の飼い主の中には、狂犬病予防接種の反対派がおり、その不要論の論拠となるのが予防接種の実施率なのですが、反対派が掲げている数字は、4割を下回る実施率となっています。実はこの数字は、犬の飼育頭数の一番多かった2007年で13,101千頭で計算されているようです。

一方で、狂犬病予防接種の実施数は、厚生労働省の調査では470万~500万頭でほぼ横ばい。

つまり、何年調査の飼育頭数で計算するかで、狂犬病予防接種の実施率は大きくも小さくもできる訳です。実際に計算してみると、2007年の実施率は、36.6%で確かに4割を下回りますが、2016年で計算すると、47.5%で5割弱。受けるイメージは大きく異なります。

上記の計算で用いたデータの原典は下記にあります。

犬の登録頭数と予防注射頭数等の年次別推移(昭和35年~平成27年度)

平成21年(2009年)犬猫飼育率全国調査

さてこの数字が意味するところは何なのか?

この狂犬病予防接種の問題については、別記事にて書こうと考えています。

 

計算に使用した、医療費の設定は適切なのか?

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前記事で、動物病院の潜在的市場規模の算出につかった、アニコム社調査の犬の医療費平均 81,991円が、妥当かという声もありました。高すぎると言う意見です。

しかしそれは筆者の経験に照らせば、むしろ安いくらいだと思います。

筆者の愛犬は2年前に天国に行ってしまいましたが、最期の僅か半年の医療費は、アニコム社の平均値で、犬の平均寿命14年分を全うさせたとしても、楽々おつりがくる金額でした。

また、本記事でも上げた、日本動物高度医療センター(JARMeC)は、実は筆者の愛犬が、更にその3年前に、胆管閉塞に罹患して駆け込んだ病院でもあります。

動物への高度医療を推進する同病院は、治療費もそれに応じて高額で、入院時に行なった精密な血液検査の費用だけで、10万円を越えました。
その後の入院費用も含めると、この時の治療費は、国産車の新車が買えるほどです。

しかしながら愛犬は、掛かり付けの主治医が、安楽死を勧めるほどの重篤な状態から、元気な状態で戻ってきました。

今振り返っても、そこに投じた治療費は、まったく惜しいとは思わず、悔いもありません。これから先に同じ状況になって、もう一度そうするかと誰かに問われれば、何度でもやると筆者は答えるでしょう。犬好きとは、きっとそんなものように思います。

さて、ここまでで、街の動物病院に関しての考察は終わりにしたいと思います。
次回からは、加計学園問題の本当の焦点である、産業獣医のお話です。

ここまでを回り道とは思わないで下さい。
実は、長い前置きは、加計学園問題を語るために、必要なものだったのです。

 

――次回につづく――

 

(ライター)高栖匡躬

 

――本記事は、以下の連載の一部関連記事です――

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