ふかふかのベッドの下からピンク色の鼻と白い前足だけをのぞかせている1匹のネコ。まもなく路地裏のパトロールに出かける。
名前は「ミソ」。ホームレスネコだったミソは、特殊任務を与えられ、米国の首都ワシントンDCの住宅街にやってきた。立ち並ぶ家々の裏にある細い路地は、ネズミたちの巣窟だ。プラスチック製のゴミバケツや資源ゴミ用のバケツが50個以上置かれているが、そのほとんどは底にこぶし大の穴が開いている。ネズミが歯でかじって開けたものだ。夕暮れ時になると、ネズミたちは路地をせわしなく行き交い、穴からバケツの中に潜り込んで夕食をあさる。
そこでミソの出番だ。野ネコ(野生化したイエネコ)に生まれたミソは、ペットとしてここへ連れてこられたのではない。この路地に約3週間滞在して、任務を遂行する。外に出ても遠くへ行かないように、雨風をしのぐ屋根付きケージとエサが置かれている。人間の思惑通りにいけば、ミソはここでネズミを退治してくれるはずだ。(参考記事:「外へ出たネコはどこへ行くのか?」)
ネズミ退治に利用されている動物は、ホームレスのネコだけではない。ニューヨーク市では、ダックスフントやテリア、雑種犬が飼い主とともに町をパトロールしているし、シカゴでは都市部にすみついたコヨーテまでも動員してネズミの駆除に取り組んでいる。そのほとんどは市が公式に行っているものではないが、ネズミを退治してくれるなら動物の手も借りたいというのが自治体の本音である。問題は、動物たちがどこまで役に立つかだ。
ネコの手も借りたい
「私の立場としては、うまく行けば市としても助かるというところです」。ワシントンDC当局でネズミ対策プログラムを取り仕切るジェラルド・ブラウン氏は言う。DCでは、ここ3年間でネズミ被害を訴える電話の件数が3割ほど増えている。ブラウン氏は、暖冬が続いたせいだという。「冬に寒くなれば、それだけでネズミは自然にいなくなるのですが」。DCの市長は2016年、こうした市民の声に応えて、町をあげてネズミ対策に取り組むと宣言した。
ネズミを駆除するには、基本的に2通りの方法がある。ひとつは、ネズミの食糧源を断つこと。生態学者なら、これをボトムアップアプローチと呼ぶだろう。都市部であれば、食糧源はゴミである。それを根本から断ち切るのが効果的とされている。それとは逆のトップダウンアプローチは、人間やネコによるネズミ退治だ。(参考記事:「【動画】ネコの子守はなんとネズミ、 米の猫カフェ」)