第47問
第1 乙の罪責
1 まず、乙がA銀行B支店の行員であるCに対して、口座等を他者に譲渡することを秘して開設手続きを行い、Cにおいてこの旨誤信させ、通帳等を交付させた行為につき、詐欺罪(246条1項)が成立する。
(1) 通常金融機関では口座の譲渡を約款で禁止していることから、口座開設者の通常の意思表示には口座の譲渡を行わないということが織り込まれているということができ、これを秘して口座開設を申し込む行為は、挙動による「欺」く行為に当たる。
そして、Cは乙の申込みに応じてその旨誤信し、通帳等の「財物」を交付している。
(2) ここで、乙は口座開設に応じて手続に必要な料金は負担しているといえるから、A銀行は相当の対価を得ており、財産上の損害が無いとも思える。
そもそも詐欺罪も財産犯ゆえ財産上の損害が構成要件要素になると解される。そして、財産上の損害とは、本罪が個別財産に対する罪である一方、処罰範囲を限定する趣旨から、個別財産の喪失に加えて、被害者が達成できなかった目的が経済的に評価して損害といえることが必要であると考える。
本件では、乙の欺罔行為がなければ通帳等を交付しなかったといえる点で、個別財産の喪失がある。そして、A銀行が達成できなかった目的は、譲渡に供する口座を開設させないという点であるが、当該事項は約款で規制されていることや、不正な資金操作の温床にもなりかねない以上、当該目的は経済的にみて重要であり、損害があるといえる。
2 次に、乙がEに対し携帯電話機の譲渡目的を秘して契約を締結し、その旨Eに誤信させ、携帯電話機の交付を受けた行為につき、詐欺罪(246条1項)が成立する。
(1) 携帯電話の他人への譲渡は、予め音声通信事業者の承諾を得なければ行えないものと法律上されており、この旨をDに誤信させ携帯電話の交付に向け申し向けを行った乙につき、「欺」く行為が認められ、かかる行為によりDは携帯電話という「財産」を交付している。
(2) そして、真実を知っていればDは契約に応じず、また法律上禁止された行為を行わせないという目的は経済的にも重要であり、この意味で財産上の損害も肯定することができる。
3 なお、F社との間での通信サービス契約を締結した点についても、同様に考えることができ、仮にサービスの提供を受領した場合、そのような給付は有償性を備えるものであり、財産上の利益といえるから、詐欺利得罪(246条2項)の成立を肯定できる。
4 以上より、乙には、Cに対する詐欺罪、Eに対する詐欺罪・詐欺利得罪が成立し、これらは後述のとおり甲との間で共同正犯となり(60条)、また併合罪(45条)として処断される。
第2 甲の罪責
1 まず、乙に対して口座開設や携帯電話の譲渡等を命じて、これを行わせた行為につき、詐欺罪の共同正犯(60、246条1項)がそれぞれ成立する。
ここで、乙自身は実行行為に関与したわけではなく、共同正犯足りうるのかが問題となる。
この点につき、共同正犯の処罰根拠は、共犯者間の相互利用補充関係に基づき、自己の犯罪を完成させる点にある以上、実行行為の分担自体は不可欠ではなく、共謀の存在と犯行への重大な寄与が認められれば、なお「共同して犯罪を実行した」ということができる。
本件で、甲は乙との間で明示的に詐欺に関する共謀を果たしている。また、本件犯行計画は甲が立案し、これを乙に持ちかけており、報酬として30万円を与えている等の積極性に鑑みても、重大な寄与を及ぼしているといえる。
したがって、乙の行った詐欺行為につき、甲にも共同正犯が成立する。
2 Gに対する振込の指示・口座からの引き出しについて
(1) 甲がGの息子を装い、金策に困っている旨誤信させるべく電話をかけ「欺」く行為を行い、これによりGを誤信させ、乙名義の口座に100万円を振り込ませた行為につき、詐欺罪(246条1項)が成立する。
なお、当該振込みにより甲は100万円の債権を取得したに過ぎないとも思えるが、銀行口座に入金がなされればいつでもこれを引き出して利用することができる以上、「財産」を取得したものといえ、1項詐欺罪が成立する。
(2) 更に、丙を介して同口座から100万円を実際に引き出した行為については、後述のとおり、丙に窃盗罪(235条)が成立し、甲は丙との共謀の下、自己の計画を完遂すべくかかる行為に関与したといえるから、共同正犯となる(60条)。
3 Jに対する振替の指示・口座からの引き出しへの着手について
(1) 甲がJに対して医療費還付のため必要である旨申し向け、同人の口座から乙名義の口座へと50万円を振替させた行為につき、詐欺罪(246条1項)が成立する。
ここで、財物を「交付」させたというには、被欺罔者の意思に基づく占有移転が必要であるが、かかる交付行為は欺罔行為と財物交付とを因果的に結合させる限度で要求されるに過ぎないため、占有移転の外形的移転を認識していればよい。本件では、Jは自らが振込みを行っているとの認識はないが、振込行為の外形については当然認識している以上、これをもって「交付」したといえる。
(2) また、丙をして乙の口座から50万円を引き出そうとした行為については、後述のとおり、窃盗未遂罪(243、235条)の共同正犯が成立する(60条)。
4 以上より、甲には乙との間での詐欺罪の共同正犯が3個、更にG・Jを被害者とする詐欺罪・窃盗罪(未遂罪)の共同正犯がそれぞれ成立し、これらはすべて併合罪となる。
第3 丙の罪責
1 丙が、A銀行乙名義の口座にGから振り込まれた100万円を、ATMを通じて引き出した行為につき、窃盗罪(235条)が成立する。
(1)ア まず、「窃取」とは、相手方の意思に反して財物に対する事実上の占有を自己の下に移転する行為をいう。この点につき、他人名義の口座に関しては、口座の譲渡が禁止されていることから、口座名義人以外には正当な引出権限を認めることができず、甲・丙らに法律上の占有を肯定することはできない。
そして、ATMという機械に対し欺罔行為を観念することもできないから、これを介して預金口座を引き出す行為は、預金に対する銀行の事実上の占有を害するものとして、「窃取」に当たる。
イ 他方、丙は甲が詐欺行為等を働き、口座も不正に取得したものであることを未必的に認識しており、上記の意味での窃盗の構成要件に関し、故意(38条1項)を認めることもできる。
(2) また、丙は、甲と通じて口座からの引き出し行為を行っているが、その地位は従属的ゆえ、幇助犯にとどまるとも思える(62条)。
しかし、窃取行為という実行行為を実際に担当していることや、報酬を受け取るためにそれなりに意図的に行為に及んでいることからすれば、犯行へ重大な寄与をなしているといえ、やはり共同正犯が成立するといえる(60条)。
2 1と同様に、Jからの振込み分をATMを通じて引き出そうとした行為については、窃盗未遂罪(243、235条)が成立する。
ここで、丙の行為時には口座が凍結されており、占有移転は不可能であり、実行の着手が認められないとも思える。しかし、実行行為とは法益侵害の現実的危険性を惹起するものであり、その判断は一般人の観点から具体的県があったかにより行うべきところ、丙の行為時において一般人であれば、なお預金の引き出しを危惧しえたといえ、占有侵害の現実的危険を肯定できる。したがって、実行の着手はあり、占有移転は生じなかった点で、未遂罪の成立にとどまる。
3 以上より丙には、G・Jの振込金につき、それぞれ窃盗罪・同未遂罪の共同正犯が成立し、これらは併合罪となる。
第48問
第1 乙の罪責
1 乙が、Bの誘拐目的を秘して、学校教員等により「人の看守する」小学校という「建造物」に立ち入った行為につき、建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
小学校の管理権者は、犯罪目的を知っていたならば同人を立ち入らせなかっただろうといえる点で、乙の立ち入りは管理権者の意思に反した「侵入」に当たるからである。
2[k1] また、乙が甲との間で報酬を得るという「営利」目的で、Bの叔父である等、虚偽の内容を申し向け、欺罔によりBの身柄の引渡しを受けて「誘拐」を行い、同人を甲の下まで連れていった行為につき、営利目的誘拐罪(225条)が成立する。
第2 丙の罪責
1 丙も、乙と同様に甲との共謀に基づきBの誘拐を行うべく、尾行行為を行っているが、その途中で犯行から離脱しており、何らの罪責も成立しない。
2(1) ここで、乙・丙らがBを追って小学校まで尾行していた時点では、Bの移動の自由に対する現実的危険は生じておらず、誘拐罪の実行の着手は認められない。もっとも、丙が帰ったのちに、乙は単独で犯行を成し遂げているところ、丙も共謀共同正犯[k2] としての罪責を負わないか、共犯関係からの離脱が問題となる。
(2) そもそも共同正犯の処罰根拠が、共犯者間の相互利用補充関係に基づき、自己の犯罪を完成させるという因果性に求められる点にあることからすれば、かかる因果性を切断した場合には、共犯関係からの離脱が認められると解される。
(3)[k3] 本件では、丙は犯行から手を引く旨、同じ実行正犯である乙に対し表明している。これに対し丙は思いとどまるように説得しているが、結局は丙がおらずとも自己のみで犯行を完遂しており、丙による心理的因果は、立ち去りにより遮断されたといえる。また、物理的にももはや何らの因果を及ぼしていない。他方、Bの尾行行為には着手しているが、これ自体は犯行に直接かかわるものではない以上、これを行ったことから、因果性の遮断が認められなくなるわけではない。
したがって、丙は、乙による犯行の着手前に共犯関係から離脱しており、その後に生じた犯罪については何らの責任を負わない。
1 甲は、乙らに対し「未成年者」であるBの誘拐を指示しており、実際に乙をしてBの引渡しを実現させているところ、建造物侵入罪・未成年者誘拐罪(224条)の共謀共同正犯(60条)が成立する。
2(1) まず、甲は実行行為に関与していないが、このような者でも共同正犯足りうるのかが問題となる。
(2) 前述の共同正犯の処罰根拠に照らせば、因果性と正犯性が肯定される以上、実行行為への関与は不可欠の要件とはいえないから、共謀の存在と、犯行への重大な寄与が認められる限りで、なお「共同して犯罪を実行した」といえ、共同正犯は成立すると解される。
(3) 本件で、甲は乙らに対しBの誘拐を指示し、明示的に犯行の共謀を遂げている。また、この際には小学校への立ち入りも予定しており、同罪に関する共謀も存在する。そして、かかる犯行計画は甲が立案し、乙らに持ちかけたものであるし、Bの誘拐により利益を享受するのは、何よりもその父である甲である。更に、乙らに報酬まで与えようとする積極性に鑑みれば、甲は犯行への重大な寄与を行っているといえ、「共同して犯罪を実行した」といえる。
なお、実行正犯である乙には、営利目的誘拐罪が成立するが、法益保護の観点から、構成要件の重なり合う範囲で、共同正犯の成立は肯定されるべきであり、軽い未成年者誘拐罪の成立において、甲とは共同正犯が成立する。
3[k5] (1) 他方、甲はBの父親であり、犯行当時未だ離婚は成立せず、監護権(民法820条)を失っていなかったことからすれば、同人が監護権に基づいてその子であるBを連れ戻しても、当該行為は違法性を欠くと言えないか。
(2) この点、本罪の保護法益は、未成年者に対する監護権に加え、その未成年者自身の身体・行動の自由も保護していると解される。未成年者の身体を、その親の所持物と同視することは正当ではないからである。したがって、監護権者による身体拐取であることの一事を以て違法性が阻却されるわけではなく、当該行為が社会的にみて相当といえる場合に限り、その余地が認められると解される。
(3) 本件では、甲は乙らを介して欺罔手段を用いてBの身体の引渡しを受けており、その行為態様は相当とは言えない。また、Bが当初甲の下へと出向くことを喜んでいたとしても、その後、内心ではAの家へと帰りたいと思っているなど、未成熟な子どもの意思決定を尊重すべき場面ではないから、Bの承諾をもって拐取行為が相当であるともいえない[k6] 。
このことからすれば、甲の行為はやはり社会的に相当なものとは言えず、違法性は阻却されない。
第4 丁の罪責
1 丁が、Bを拐取した甲からの相談を受け、しばらく隠れているように申し向けた行為につき、未成年者拐取罪の共同正犯(60、224条)が成立する。
2[k7] まず、本罪の保護法益が監護権者の監護権と未成年者の移動・身体の自由であることからすれば、監禁罪と同様に、未成年者が拐取され続けている限りで、同罪は継続犯であるということができるから、本件で甲に対し助力することは事後従犯的な関与ではなく、同罪の共犯関係を成立させうる。
3 そして、丁と甲には明示的な意思連絡があり、共謀が認められることや、丁はBとの暮らしを強く望み、また自分の所有する別荘の利用を持ちかけるなど、積極的に犯行へと関与していることからすれば、重大な寄与も認めることができるため、共同正犯が成立する。
[k2]共謀共同正犯肯定説が前提である
[k3]共謀関係からの離脱が問題になる。離脱を認めた場合には、予備罪の問題になる。
[k4]共犯と身分の問題。
まず、目的が身分に含まれるかが問題となるが、判例は一定の状態であれば足りるので、これを肯定できる
次に、65条の解釈が問題になるが、営利目的は加重要素なので、65条2項の適用となり、未成年者略取が成立し、刑も加重されない。
[k5]違法性阻却の問題(35条)である。
[k7]拐取罪の既遂時期が問題となる(事後従犯ではないかという問題)。
判例は状態犯と解しているようであり、拐取者による監禁を併合罪として処理している。
継続犯と解した場合、227条1項が成立するのかが問題となる。成立した場合には罪数で処理する
状態犯とした場合には、227条1項の成立しか問題にならない