Photo by iStock
企業・経営

「プロ部長」こそが、これから最も必要とされる職種だ

これほど貴重なスキルはない

「私は部長ができます」が強い理由

就職エージェント業界の古いジョークにこういうものがある。

早期退職者の再就職支援イベントにやって来た中高年の応募者に対してコンサルタントが質問した。

「あなたは何ができますか?」
「はい、部長ができます」

実はこの話、奥が深い。「何ができますか?」というのは「経理業務ができる」とか「英語での交渉ができる」などスキルを訊ねているのだが「部長ができる」というのはスキルを答えていないということで笑い話が成立している。

しかし「部長ができる」というのは本当にスキルとは言えないのかというと、実はそうでもない。ここが奥の深いところだ。

というのは1990年代と2010年代とでは大企業の部長の位置づけやスキルが変わってきたからだ。

Photo by iStock

1990年までの大企業では一流大学を出て新卒で就職した社員であれば、年功序列の制度のおかげである年齢になれば課長には誰でもなれた。そして子会社まで含めれば多くの人が部長にもなれた。

また、この時代、部の中で一番ビジネススキルが高い人が部長という例は少なかった。

 

もちろん「都銀の本店営業部の営業第一部の部長は役員になる人のポジションで、行内でも優秀な行員がつく地位だ」というように、出世コースというものはある。しかし一般的には部の中で部長の地位は「その部でいちばん年上の人」という位置づけだった。

年功序列なので、部を動かしている本当に仕事ができる社員は数人の課長補佐だったりするのはあたりまえで、部長の仕事は「重石」として部の秩序や和が保たれることが重要だった。そんな時代がかつてこの国にはあった。

だからこの時代に、他社で通用するこれと言ったスキルを持っていない、しかし再就職をせざるをえなくなった古いタイプの元部長に転職コンサルタントが「何ができますか?」と訊ねたところ「部長ができるので、部長の仕事を探してください」と言ったという話がジョークとして成立し、広まったというわけだ。

しかしその後環境が大きく変わった。2010年の大企業には1990年ほどの余裕はなくなっている。年功序列もとうの昔に壊れている。

その経営環境下で大企業の何らかの部を率いてきた人材が、「私は部長ができます」と言った場合には、それは「経営者の経験はないが部の経営はきちんとこなせる」という「プロ部長」である可能性のほうが高いのだ。

もちろん会社や部署によって部長に必要とされるスキルは異なる部分も多い。だから転職エージェントのコンサルタントは襟を正して「あなたのやってきた部長の仕事とはどのような仕事ですか?」と、訊ね直す必要がある。転職候補者が本当は何ができるのかを引き出すのは転職コンサルタントの仕事なのだ。