旧聞に属する話ですが、小池都知事が提唱した五輪3会場の変更案は、いずれも採用されませんでしたが、都知事は整備費を約400億円圧縮したことを強調ました。 短期間に400億円を削減したのだから立派である、という意見も多数ありました。しかし、感心する前に、その中身を知っておくべきでしょう。多くのマスコミは、400億円の内訳を報じなかったため、調べてみました。 驚いたことに、400億円の中には、2016年1月に決定したオリンピックアクアティクスセンターの落札価格と予定価格の差額の68億円が含まれいてました。2016年1月といえば、舛添都知事の時代のことです。 また、予備費を115億円減額した分も含まれています。多額の予備費は、国際競技連盟などからの追加要求に備えたものと思われます。特に要求がなければ使用されない予算です。一方、予備費を減額しても、国際競技連盟からの追加要求があれば、受け入れなければならないでしょう。整備費を圧縮したと表現するのは適切ではないと思います。 更に、工事中のセキュリティへの対応費を、3会場合計で52億円減額しています。理解し難い多額の項目であり後述します。 上記を除くと、整備費の圧縮は177~192億円となり、400億円の半分以下です。東京都の書類には、これらの整備費及び整備内容の変更について、"今後、IF(国際競技連盟)等との協議、受注者との変更協議、詳細な設計等が必要"、と記されています。 <参照資料> 上記について、東京都の資料を用いて説明します。ここでは、都政改革本部の第5回会議(平成28年12月22日)に、オリンピック・パラリンピック準備局が報告した下記の配布資料を用いることにします。 オリンピック・パラリンピック協議会場の見直しについて(報告)
東京都の資料をもとにした3会場の整備費の見直し前(2014年12月)、見直し後、減額を下記に表記しました。 |
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<落札価格> 3会場の設計・施工の落札者は、2016年1月14日付けで東京都から公表されています。そのうち、オリンピックアクアティクスセンター新築工事は、予定価格538.4億円に対し、落札価格469.8億円で、差額が68.6億円です。 見直し前の整備費には予定価格が計上されており、見直し後は落札価格にもとづいています。舛添都知事の時代に決まった落札額ですから、今回圧縮したと主張するのは適切ではないように思います。 なお、アクアティクスセンターについは、今回規模の縮小も行われており、上記のオリ・パラ準備局の書類では、"落札差金・規模の縮小"と1項目にまとめて、74~84億円を圧縮した記載になっています。落札差金は調べないと分からないようにしたのかもしれません。規模縮小分は上表に示したように6~16億円です。 なお、有明アリーナと海の森水上競技場は、各々、予定価格の99.8%、99.9%で落札されました。99%以上の落札率の場合、一般的には不正が考えられますが、昨今の建設費高騰により、当初の予定価格を下回る入札が無く、予定価格が調整されたものと思われます。 <セキュリティ対応費> 工事中の警備員の費用などの殆どは、上記の落札価格に含まれているものと思います。見直し前に計上されていた"工事中のセキュリティへの対応費"は、3会場合計で68億円です。多額の経費であり、何を目的としたものか疑問です。 上記の毎日新聞の記事には、次のように解説されています。 セキュリティー対応費は資材に爆発物などが隠されていないか確認するため、国際オリンピック協会(IOC)が予算に盛り込むよう求めている。都は要求レベルが分からず予算計上したが、IOCに確認し絞り込めると判断したという。 <予備費> 東京都の書類には、"追加工事等が生じた場合の対応費"と記載されていますが、予備費です。3会場合計で135億円の予備費が計上されていたのは、国際競技連盟などからの追加要求に対応できないと困ると考えたためでしょう。海の森水上競技場の予備費は90億円でした。 前述のように、予備費ですから、必要が生じなければ使われない予算です。一方、IOCなどからの要求があれば、予算が無いからという理由で断れるものではないと思います。予備費を減額したとしても、圧縮成果とは言えないように思います。 <おわりに> 小池都知事は、テレビ番組のキャスターを長く務めていたため、口が達者で、状況に応じたキャッチフレーズの使用が巧です。そのため、発言の内容をよく吟味することが重要です。 この事例は、小池都知事の発言は、話半分に聞いておけばよいことを示唆しているように思われます。 <追記> 報道によれば、6月5日の都議会文教委員会で、自民党の川松真一朗都議は、次のような趣旨の指摘をしたとのことです。 「都知事が主張する400億円削減の内訳は、予算の予備費200億円を減らし、残りの200億円は環境投資の削減です。しかし、委員会の答弁で都の塩見清仁オリンピック・パラリンピック準備局長は、削減した環境対策費については、財源を新たにグリーンボンドに求める、と明確に認める発言をしました。選挙前だからか大半のマスコミは取り上げませんでしたが、これは重大な問題です」 随分ひどい話です。小池都知事は長いことテレビのキャスターをやっていたので、テレビに向かって平気で嘘を言うことができます。他の人には真似のできないことです。 |